TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

翌日綾子は屋上でいつものように光江と話をしていた。


「昨日図書館に行ったら神楽坂仁のコーナーが出来ていました」


綾子は早速光江に教える。


「へー、なんでだろう? あの人の出身は長野じゃないよね? あっ、そっか」

「どうしましたか?」

「あの人確か軽井沢に別荘持ってたよね?」

「え? そうなんですか?」

「私の友達がスーパーで見かけたって言ってたもの」

「スーパーで買い物っていう事は自炊の為? だったら確かに別荘ですね」

「そうそう、確か鹿島の森の方じゃなかったかな? 旧軽銀座近くの?」

「じゃあ本当に高級別荘地区ですね。あ、図書館には絶版になった『フロストフラワー』もありました」

「あるの? 絶版なのに? あーじゃああたしも読みたいわー」

「今私が借りているので今度の水曜日には返却しますから」

「了解。じゃあその後すぐに行って借りるわ。そっかー、そりゃあ楽しみだねぇ」


光江は嬉しそうに煙草の煙をフーッっと吐き出した。



その日仕事を終えた綾子はすぐに家に帰った。読みかけの『フロストフラワー』が気になって買い物もせずに家へ帰る。

夕食は簡単にオムライスとサラダを作って食べるとすぐに本を読み始めた。


その時綾子の電話が鳴った。 電話は叔母のたまきからだった。


「もしもし叔母さん?」

「綾子、どう? 調子は?」

「うん、特に変わりはないわ。でもどうしたの?」

「今度の土日そっち行ってもいい?」

「もちろんいいけれど休みが取れたの?」

「そう。寒くなるとそっち行きたくないから紅葉の美しいうちに行っておこうかなって思ってさ」

「軽井沢は冬も素敵なのに叔母さん寒がりだから全然来ないし」

「ハハッ、代わりにあんたがいるからいいじゃん。あたしの分まで満喫してんでしょ?」

「まあそうだけど」

「じゃ、着くのは午後かなぁ? 車で行くからよろしくぅー」


たまきはそう言って電話を切った。


叔母のたまきは現在58歳。たまきは独身で人材派遣会社を経営している。

ずっと独身で仕事一筋で来たから子供はいない。だから綾子の事を実の娘のように可愛がってくれる。

たまきは性格がさばさばしているので話がしやすい。

理人の死後、他の家族は綾子の事を腫れ物に触るような態度だったのにたまきだけはいつもと変わらない様子で綾子に接してくれた。そして綾子が軽井沢に移り住みたいと言った時もたまきだけが賛成してくれた。

綾子は今でもあの時の恩を忘れない。


(叔母さんが来るなら何か美味しい物を作らなくちゃ)


綾子は今自然にそう思えた自分に驚く。


以前叔母のたまきがここへ来たのは綾子が引っ越してから一ヶ月後だった。たまきは当時まだ弱っていた綾子を心配してわざわざ様子を見に来てくれたのだ。

あの頃の綾子はまともに料理をする気力もなく叔母が来ている間は家事一切を任せてしまった。一週間ここにいた叔母はこまめに買い物に行ってはなんとか綾子に美味しい物を食べさせようとしてくれた。しかし今回は叔母にそんな事はさせたくない。無償で別荘を借りている身なのでこちらがもてなすのが筋だ。


(新鮮なお野菜もちょうど道の駅で買ってきたしご馳走を作って叔母さんを驚かせよう)



その時ノートパソコンが ピコン と鳴った。

綾子は慌ててパソコンの前に座りメールをチェックする。メールは【月夜のおしゃべり】からの通知メールだった。


(もう新規の人からメールは来ないはずだからきっと『God』さんからだわ)


綾子は慌ててサイトへログインする。


【こんばんは。『フロストフラワー』どう? 読み始めた?】

【こんばんは。読み始めた所へ叔母から電話が来て中断されちゃいました】

【ハハッ、そして今度は僕に中断された(笑) 叔母様は軽井沢に住んでいるの?】

【いえ、東京です。今度の土日にこっちに来るみたいで。あ、今私が住んでいる家は叔母が所有している別荘なんです】

【へー別荘に住んでいるのか】

【そういえば神楽坂氏も軽井沢に別荘を持っているって本当ですか?】

【お? なんで知ってるの?】

【今日工場の人が言っていました。スーパーで見かけた人がいるって】

【そりゃ凄いな。彼の顔を知っている人はそんなにいないんじゃない?】

【テレビにもよく出ていらっしゃるから結構知られているみたいですよ。神楽坂氏は別荘でも執筆するのでしょうか?】

【うん、するする。軽井沢に行くと集中出来るからちょくちょく行っているみたいだよ】

【じゃあ私もいつかスーパーで会えるかもしれませんね】

【そうだね】

【『God』さんは神楽坂氏と一緒に軽井沢に来たりはしないのですか?】

【それはないかな。先生はいつも一人で行動するからなー】

【そうなんですね】


そこで仁は本題に入る。


【今日はここでちょっと提案なんだけれど】

【?】

【月夜のおしゃべりのサイトを通してメールするのって面倒じゃない?】

【面倒?】

【ほら、一度サイトにログインしないといけないし】

【ああ、確かに】

【それに僕達って長文メールの交換よりもこういうチャットの方が多くない?】

【そうですね。ついこの形式になってますね】

【だろ? だから直接メッセージアプリでやり取りすればいいと思わないか?】


そこで綾子は悩む。サイトを通しているから一歩引いた関係で気楽にやり取りが出来ているのに直でのやり取りになったら一歩踏み込んだ形になり少し身構えてしまうような気がした。


綾子が悩んでいると仁からメールが来た。


【困らせちゃったかな? でもさ、僕は会とか何かよからぬ事を企んでいる訳じゃなくて単に利便性のみでの提案してるんだ。忙しい時はその方が楽かなーって】

【もちろんわかっています。あの、一つ聞いてもいいですか?】


綾子は以前から気になっている事を聞いてみる事にした。


【どうぞ】

【『God』さんはメールフレンドって何人くらいいらっしゃるのですか? あ、月夜のおしゃべりでのメールフレンドって事ですが】

【君一人だよ】

【本当に?】

【うん】

【サイトを通してのやり取りが面倒臭いって仰ってたからてっきりメールフレンドがいっぱいいるんだと思っていました】

【あ、なるほど。でも本当にメール友達は君だけです。君の方こそ何人とやり取りしてるの?】

【私も一人です】

【って事は僕だけ?】

【そうです】

【お! じゃあ何も問題ないんじゃない? 直接やり取りをしても誰に気兼ねをする事もないみたいだし】

【確かに】


その後綾子は気付くと『God』と連絡先を交換していた。いつの間にかすっかり『God』のペースに乗せられていた。

それから二人は試しにやり取りをしてみる。


キンコン


(あ、来た)


【テストテスト 届いたかな?】

【ばっちりです】

【むちゃ楽だなー、早くこれにすればよかった】

【ですね】

【じゃあ今後はこちらでよろしくです】

【承知しました】

【じゃあまた】

【あ、あの……】

【?】

【土日は叔母の相手をするのであまり返信できないかもしれません】

【了解。気にしないで叔母さんと楽しんで】

【ありがとうございます】

【それにまだ明日の金曜日もあるし】

【そうでした】

【じゃあおやすみ】

【おやすみなさい】


そこで二人はこの日のやり取りを終了した。

この作品はいかがでしたか?

313

コメント

7

ユーザー

GODさんと 綾子さんの素敵なやり取りにほのぼのとしつつ、ストーリーに歓喜して涙がでます。毎日 涙してしまう日々です

ユーザー

キャ━━━━(゚∀゚)━━━━!!キター!!!God仁様とうとう動いた〜(⁎˃ᴗ˂⁎)♡⤴︎⤴︎ 綾子さん乗せられ感あるけど、いいのいいの!それで〜☆(≧∀≦*)ノもうやり取りが生活の一部になってる〜ෆᶿ̴͈᷇◡ᶿ̴͈᷆🎀ᶿ̴͈᷇◡ᶿ̴͈᷆ෆ 次はどんな感じで先に進む⁉️仁さん˖*♬೨✧˖°

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚