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「…………え?」
思いもよらなかった瑠衣の言葉に、奏は瞠目したまま彼女を見つめている。
その目力の強い眼差しが瑠衣にとって、やたらと痛く感じたのは気のせいだろうか?
「コンペティションの日、奏ちゃんの本番が終わって挨拶しに行こうと思って、響野先生と舞台裏近くの通路を通り掛かったら、瑠衣ちゃんが葉山さんに抱きしめられているのを見て……」
奏はコクリと頷きながら、瑠衣の言葉を聞いてくれている。
「恥ずかしくなった、というのもあるんだけど、あんなに葉山さんに愛し愛されている奏ちゃんが…………羨ましくて…………嫉妬しちゃったんだ……。私にはそんな人、一生現れないだろうって……」
「…………そうだったんだ……」
瑠衣の言葉に、奏が照れたような、困ったような表情で眉尻を下げる。
「…………奏ちゃん……ごめんなさい……」
「もうっ! 瑠衣ちゃんが謝る必要なんてないよ! 瑠衣ちゃんの嫉妬とか、羨ましいって思う気持ち、よく分かるよ。それに……」
一瞬、奏が表情を曇らせた。
「今でこそ、こんな感じだけど、私、怜さんと出会うまで…………男性不信だったんだよね……」
「え……?」
奏がポツリポツリと、男性不信になったきっかけを瑠衣に話し始めた。
瑠衣にとって、奏の過去の恋愛は衝撃を受けた。
かつての恋人に二股を掛けられている状態を知らずに、外出しで無理矢理純潔を奪われた事。
生理が三ヶ月来なくて、元彼に電話したら、後に本命の彼女が電話口に出て、『彼と何回したのか、どこの産婦人科に行くのか、彼とはもう関わらないで』などと言われた事。
産婦人科で検査を受け、結果妊娠はしていなかったものの、『男はみな、ただヤリたいだけなんだ』という暗い影が植え付けられてしまった事。
そんな過去がありつつも、怜は奏の全てを受け止め、奏も怜を丸ごと受け入れ、紆余曲折を経て今に至っている事……。
友人カップルの結婚式で出会った奏と怜ではあるが、彼女も友人カップルの仲睦まじい様子を目の当たりにする度に嫉妬や羨望の感情を抱き、そして人目を憚らずイチャイチャする様子に、最終的にはそれを通り越して呆れたという。
「もうね、夫婦というよりもバカップルなんだよね、その二人。それでも、内心羨ましかったし、嫉妬もしたなぁ……」
「奏ちゃんも…………辛い思い、沢山してきたんだね……」
「でも、瑠衣ちゃんが私に対して羨ましく思ったり、嫉妬していたっていう事は……瑠衣ちゃん……響野先生の事が…………好きなんだね」
奏の核心を突くひと言に、瑠衣は大きく鼓動が打ち鳴らされ、肩をビクっと震わせた。