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そんな日々が続いた、金曜日
今日もまた大輝くんが花を買いに来てくれた。
今日はパステルカラーのガーベラ
黄色のカーネーション、カスミソウを1本ずつ頼んできて
それらをいつも通りラッピングをしていると
「そういえば楓さんって甘いものとか…好きです
か?」
と聞かれたので、目線を上げて
「うん。好きだよ」と答える。
「本当ですか!なら今度、ケーキの差し入れ持ってきますよ」
「え、差し入れ?」
「はい!俺のバイト先のカフェの新作で、すごく美味しいって評判なんですよ。」
そう話しているうちにラッピング作業を終えて
お持ち帰り用の袋に丁寧に花を入れ
「はい、どうぞ」と商品を差し出し、会計に移る。
「合計、950円になります」
「あ、これでお願いします」
1000円札を頂き、お釣りの50円玉を渡すのと並行してやんわりと断りを入れた。
「さっきの話だけど、本当に差し入れなんて悪いから大丈夫だよ?店に来て花を買ってくれるだで十分だし」
しかしそれを遮るように
「そんなこと気にしないでください、いつものお礼ですから!」
続けたマシンガントークで彼は言う。
「チョコケーキとかぶどうケーキとか色々あるんですけどどれも他の店とは比べ物にならないぐらいめちゃくちゃ美味しくて……!楓さんは何味がいいですか…?」
「え?えーと……」
話を聞きながら、俺はふと大輝くんの後ろに目をやった。
すると、大輝くんの後ろで、会計待ちのお客様の列ができており
こちらのお会計が終わるのを待っているようだった。
「あ、ごめんね大輝くん。まだ他のお客様のお会計が済んでないから一旦はけてもらえるかな?」
「あっ、すみません……!気が付かなくて」
彼は後ろに人が並んでるのを振り返って確認すると慌てたように商品の入った袋を掴んで店を出て言った。
「ありがとう、また来てね」と俺が声をかけると
「は、はい!また来ます」とドア越しに彼は返し、軽く頭を下げて店を出て行った。
そうしてすぐに俺は次のお客様の接客に移った。
◆◇◆◇
それから何日か経った6月23日
6月最後の月曜日だ。
6月のカレンダーを見てあと2週間で誕生日なことに気づく。
7月14日は俺の誕生日だ
祝ってくれる両親や恋人こそいないが
よく仕送りを送ってくれている兄さんや健司からは祝って貰えそうだな、と考えて頬が緩む。
今日も今日とて花屋は繁盛している。
やはり今週は仕事で忙しく顔を出す暇もないのか、犬飼さんは来ていないが
それでもお客さんが途切れることはなく、俺は接客に追われていた。
それに土曜日には犬飼さんと焼肉屋に行く予定も入っている。
幸運なことに、土曜日に犬飼さんと飯に行くことになったことを話すと
せめてものお詫びに、と焼肉屋で使える割引券をくれて
お得にお肉が食える!と内心胸を躍らせていた。
そう思う度に「あくまでも犬飼さんへのお礼なんだから、肉ごときに浮かれるな」と言い聞かせる。
◆◇◆◇
それはそうと、最近どうも可笑しいことが増えた
朝、出勤していつものようにポストを確認すると
赤い薔薇が1本と
英字新聞の見出しのようなフォントで
〝I Love Kaede〟と赤字で書かれた小さな白の無地のメモ用紙が入れられていることが
先週の金曜日から土日含め3日連続で届いているのだ。
それに誰かに見られているというか
閉店後に夜道を歩いていると付けられているような足音もよく聞こえる。
振り返ると誰もいないので、気のせいだとは思うのだが。
今日もいつも通り出勤し
開店準備を済ませて白いシャツと黒いパンツの上にエプロンを着ると
また同じのが届いているんじゃないかと思いポストを確認しに行く。
するとなぜか昨日とは違い、宛先不明のネコスポサイズのダンボールが入っていた。
「……あれ、なんだこれ?宛先も、書いてないな…今日はバラも手紙も見当たらないし…」
不思議に思いつつもそれをポストから取り出すと店の中まで持っていき
2階のスタッフルームに移動して
机にそれを置いて恐る恐る封を開けると
俺は中に入っていたものに「え?」と間抜けな声を出した。
「…これ……確かシランって花だったはず…」
しかも一本や二本ではなく箱にぎゅうぎゅうに敷き詰められたシランだ。
なんだか薄気味が悪い。
それに3日連続赤い薔薇だったというのに、今日ばかりは全く別ジャンルの花だ。
(バラを律儀に1本ずつ毎日入れてくるのに、急
に?)
赤い薔薇1本ずつは
「一目惚れ」「あなたしかいない」
といった花言葉があるが
シランも「変わらぬ愛」や「あなたを忘れない」と言った花言葉がある。
しかし、シランには「不吉な予感」という花言葉も存在する。
さらに、よく見てると真ん中に雑に千切られたような白いA5サイズの紙切れが入っていて
それをおもむろに手に取って見ると
【р. 120 w.5 / p.350 w.3/p.890 w.1/p.1020 w.7/р.1450 w.2/p.1675 w.4/p.1890 w.6/р.2105 w.8/ р.2320 w.9/p.2450 w.10】
小文字のローマ字と数字が書かれていて、パッと見なにかわからない。
(なんだこれ…イタズラにしても意味が全然分からない……)
送り主の意図が分からず、頭を悩ませている間にも時間は刻一刻と進んでいき
開店5分前になっていた。
「やば、早く下降りないと…!」
箱を閉め、ダンボールを持ち上げて棚に置いておくことにして足早にスタッフルームを後にした。
開店してしばらく経った午後6時…
3日ぶりに大輝くんが店に訪れた。
しかしいつもとは違ってご機嫌な様子でレジまで来て挨拶を交わすと
「今日なんですけど、ドライフラワーのアレジメントを作って欲しくて……」
と大輝くんが切り出す。
「ドライフラワーですね、ご自宅用ですか?」
「はい、その、ブーケスワッグってのでお願いした くて」
「分かりました、ではどのドライフラワーがいいですか?ご希望の花色などございますか?」
「えっと…じゃあ黄色と青色でお願いしてもいいですか……?」
「はい、かしこまりました。ブーケスワッグはお時
聞いただきますので明日取りに来て頂く形でも大丈夫ですか?お会計もその際になりますが」
「大丈夫です、ありがとうございます」
「あっあと今日は、もうひとつ楓さんに用があって」
「え、俺にですか?」
「はい、この前言ってた差し入れのケーキです。
今バイト終わりに買ってきたところなんですよ」
そう言って大輝くんは取っ手の着いた白い箱をカウンターに置いた。
「ケーキ?あ、この前言ってた……」
そういえばそんな話をしたような、と思い出すが
まさか本当に買ってきてくれるとは思っていなかったので、かなり驚いた。
「いや、でも悪いですし……」
そう言うも、大輝くんは半ば強引に箱を俺の方に押し出してきて。
俺は困ったように大輝くんの顔を見たが
彼は満面の笑みで俺がそれを受け取るのを待っているようだった。
「俺がしたくてしてることなので、それに楓さんにはいつもお世話になってますから、遠慮せず受け取ってください!」