テラーノベル
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バイダル、戦死。
カダンもまた、乱戦の中で討ち取られた。
オルダだけは辛うじて戦場を脱し、ウロアフ城へ逃げ帰った。
だが――。
敗戦の報は、彼より先に城へ届いていた。
モンゴリア軍が壊滅した。
そう知った奴隷たちは、一斉に蜂起した。
城門が閉ざされる。
逃げ場を失ったオルダは、自らが支配していた者たちの手によって殺された。
こうして、カワゴルを包囲していた三人の皇族は、ことごとく姿を消した。
戦場では、なお殺戮が続いていた。
モンゴリア軍の戦死者は、すでに半数を超えている。
折れた槍。
潰れた馬。
泥と血にまみれた兵士たち。
助けを求める声と、断末魔の叫びが入り交じり、辺りは阿鼻叫喚の地獄と化していた。
やがて、武器を捨てたモンゴリア兵たちが現れた。
剣を地面へ置き、両手を上げる。
「降伏する!」
「もう戦わぬ!」
「命だけは――!」
その報告を受けたカルドは、彼らを一瞥した。
「殺せ」
周囲の者たちが、思わずカルドを見る。
「……陛下?」
「聞こえなかったのか」
カルドは淡々と言った。
「処刑しろ」
「ですが、すでに武器を捨てております」
カルドは不思議そうに兵を見た。
そして、ほんの少し首を傾げた。
「自分たちは、降伏を認めぬくせに」
誰も口を挟まなかった。
「自分が負けそうになったら降伏するというのは――」
カルドは、血に染まった戦場を見渡した。
「筋が通らんだろう」
兵たちは黙って頭を下げた。
つい一日前。
カルド自身が、敵を欺くためとはいえ、
「降伏する」
そうコピットに告げさせたことを――。
誰も、口にすることはできなかった。
戦勝に酔う声が、遠くから聞こえていた。
兵たちは酒を酌み交わし、勝利を叫んでいる。
だが、その喧騒から少し離れた場所で――。
葉音/ペア画中
43
#異世界転生
上野文
8,960
カルドは、ククルースやロビンたちと共に、リチャードの亡骸の前にいた。
死後、すでに数日が経っている。
棺の中には腐敗を防ぐための香料が敷き詰められ、強い香りが辺りに漂っていた。
季節が冬へ向かい、日に日に寒さを増していたことも幸いした。
リチャードの顔は、まだ生前の面影を残している。
カルドは、しばらく何も言わずに息子を見つめていた。
やがて振り返る。
ククルースが黙って酒瓶とグラスを差し出した。
カルドは二つのグラスに酒を注いだ。
一つを手に取る。
もう一つを――。
そっと、リチャードの棺の上へ置いた。
「……飲めよ」
誰も笑わなかった。
カルドは自分のグラスをわずかに掲げる。
そして、一口だけ酒を飲んだ。
再び、息子を見る。
(もうすぐ母さんに会えるからな)
そう思うと、なぜか少しだけ安心した。
カルドは棺に手を置いた。
「リチャード」
返事はない。
「俺は――」
一瞬だけ、言葉が止まった。
それでも、カルドは笑った。
父親が息子に見せる、いつもの笑顔だった。
「大丈夫だから」
棺の上のグラスが、静かに酒を湛えていた。
相変わらず、戦後の面倒な処理はコピットに押しつけられていた。
捕虜の確認。
戦死者の集計。
負傷兵の収容。
鹵獲した馬や武器の整理。
ようやく一段落ついた頃、コピットはカルドたちの姿を見つけると、
慌てて駆け寄ってきた。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよー!」
カルドが振り返る。
「なんだよ」
「なんだよ、じゃありません!」
コピットは肩で息をしながら、一行を見回した。
「また僕だけノケモノですか!」
「そんなこと言ってないだろ」
「じゃあ、なんで皆さんだけ集まってるんですか!」
カルドは懐から一通の手紙を取り出した。
「はい、これ」
「なんです?」
「ジョンへの手紙」
コピットは受け取った手紙とカルドの顔を交互に見た。
「……なんでまた僕が、手紙を持っていく係になってるんですか」
「足速いから」
「馬がですよ!」
カルドは聞かなかったことにした。
コピットは眉をひそめる。
「それより、どこへ行くつもりです?」
「ん?」
「一緒に帰るんじゃないんですか?」
「質問多いなあ」
「そりゃ質問しますよ!」
カルドは少し困ったように頭を掻いた。
「帰るよ」
「本当ですか?」
「ああ。ただ、ちょっとククルースと寄り道を――」
「ダメです」
即答だった。
カルドが目を丸くする。
「なんでだよ」
「陛下が帰ってこなかったら、私がエレノア様に怒られるじゃないですか!」
「お前が?」
「誰が陛下を見張っていたんだ、って絶対僕に言います!」
カルドはしばらく考えた。
「……それは怖いな」
「でしょう!」
「分かったよ。帰る」
コピットは胸を撫で下ろした。
「まったく……」
だがカルドは、その場を離れようとはしなかった。
手にしていた一枚の紙へ、再び目を落とす。
「ただな」
「まだ何かあるんですか」
「ちょっと気になってる」
コピットも紙を覗き込んだ。
「何がです?」
カルドは黙って、それを差し出した。
「ほれ」
コピットは受け取る。
そこには、モンゴリア軍の陣から奪った命令書があった。
「……帰還命令?」
「ああ」
コピットの表情から、先ほどまでの軽さが消えた。
カルドは戦場の向こうへ目を向ける。
「バイダルは、勝っていた」
静かな声だった。
「それなのに、急いで帰ろうとしていた」
「……」
「何かあったんだ」
カルドは呟いた。
「敵に」
少し間を置く。
「何かがな」
コメント
1件
今回も重くて切なかった…。バイダル、カダン、オルダがあっけなく消えていく感じが戦争の残酷さを物語ってる。そしてリチャードとのお別れのシーン…棺に酒を置いて「大丈夫だから」って笑うカルドに泣きそうになった。それでも最後に命令書を見つめて「敵に何かがな」って言うところでまた引き込まれた。続きが気になりすぎる…