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#ヒューマンドラマ
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#大衆食堂
「いやぁぁ!!亀松姐さんの大出世だあ!!目出度いでやんすねぇ!」
さあさあ、と、太鼓持ちが、煽り立て、再び三味線がせわしく鳴り始めた。
いよっ!と、威勢よい掛け声と共に、太鼓持ちが再び踊り始める。
高井子爵はというと、騒がしい座敷など何のその。亀松に杯を渡して、固めの盃事を行っている。
その光景を見て金原は、心底呆れ返るが、これで、子爵の心は掴んだと、ほっとしていた。
あとは、お熱い状態を亀松と作ろうと躍起になっている子爵へ、身請代金、つまり、まとまった、金が必要だと気づかせなければならない。
しかし、今の子爵へいきなり、口出ししようものなら、また、どうへそをまげるかと、金原は、肝心なことの切り出し機会を伺い続けている。
そんな、気を揉む心持ちを知ってか知らずか、ハリソンが、口を挟んで来た。
「いやいや、こりゃー、なんだか分かりませんが、お祝いしなきゃーいけないんですかね?」
「おっ!異人さんも、どうですかい?せっかくの、祝いだよ?二人で踊ろうじゃあありませんか?!」
軽い調子の太鼓持ちへ、ハリソンが、これまた、軽く返事をする。
「おお!いいでげすねぇー!男と男で、チークダンスと洒落こむでげすかい?!」
「いやぁ、参った参った、あちきとした事が、一本とられやんした!」
馬鹿馬鹿しい会話に、金原は、眉を吊り上げ、ハリソンを睨みつけた。
「おや、キヨシの旦那が、ご機嫌斜め。太鼓持ちさんよ、あちきは、そろそろ、退散いたしやしょう!」
「ハリソン!!!」
ついに、我慢ならんと、金原が、切れる。
「まあまあ、キヨシよ、いいじゃないかい。でだね、はばかりながら、はばかりを借りたいんだけど、君、案内してくれないか?」
ハリソンは、言って、パチリと、金原へ目配せする。
何の企みがあるのか知らないが、と、金原は密かに舌打ちしつつ、立ち上がった。
「子爵、すみません、少しだけ中座させて頂きます」
金原の言葉を受けて、子爵は、特に気にすることもなく、おうおうと、ご機嫌な調子で答えた。そこには、亀松と二人になりたいという、願望がありありと伺える。
「それじゃあ、キヨシ、急ぐよ、急ぐ」
ハリソンが、何故か、金原を急かした。
もしや、こいつは、本当に、厠《はばかり》へ行きたいのかと、錯覚してしまうほど、ハリソンは、さっさと廊下へ向かった。
渋々、金原も跡を追ったが、部屋の外、廊下には、親分と、ここの座敷を仕切る、茶屋の女将が待ち受けていた。
「さあさあ、こちらへ。ここで立ち話はできませんでしょう」
ちょうど、向かいの座敷が空いているのだと、女将は、金原を誘ってくれるが、その手際のよさは、どうも、何かしら、こちらの事情を掴んでいるように思えた。
「まったく!聞きましたよ!あの、勝代が、娘を高井子爵家へ嫁がせるつもりだと。なんですかい。ちょっと前までは、ただの芸者だった女なのに!」
女将は、すこぶる機嫌が悪い。
「まあ、鬼キヨ、せっかくだ。女将の話も聞こうじゃないか」
親分が、白々しく言って来る。
おそらく、子爵が亀松から逃がれられない様にするために、親分が、茶屋の女将も巻き込んだのだろう。もちろん、適当な事を言って。
「ああ、キヨシ!私も、一肌どころか、靴まで脱いだのだよ!相手をしておくれよー!」
ハリソンが、どうしても、仲間に入りたいとばかりに、首を突っ込んでくる。
「お前の靴のことまでは、知らん……」
「おやおや、まあまあ、ご機嫌斜め?」
「まっ、鬼キヨよ。立ち話もなんだ」
ええ、と、金原は親分へ頷き、女将が示す部屋へと入った。
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