テラーノベル
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「誰が節操なしだっ。今夜の亜紀さんはおまえの大切な客人だ。残念だけど、口説くのはまた次回にしておくよ。ねっ、亜紀さん」
柳原さんは今泉さんに言い返すと、私を見て悪戯っぽく笑った。
「それより柳さん、図面が広げたままだったぞ。さっさと仕事に戻って。
俺たちは夜のデートへ出発するから」
「おまえが来たから仕事を中断したんだろっ。言われなくても仕事に戻る。
……じゃあ、亜紀さん、ごゆっくり。くれぐれも足もとに気を付けてね。途中に水が流れてる所があるから。
それと、その男にも十分注意するように。油断も隙もないスケベ男だから」
柳原さんは、にやにやと怪しげな笑みを浮かべる。
「そうなんですか? 油断も隙もないスケベ男なんですか?」
私は今泉さんを見上げ、冗談混じりにくすっと笑う。
「さぁ~、どうだろう。ただ一つ言えることは、『スケベじゃなければ男じゃない!』ってことかな。これも、持論」
今泉さんは得意げに、わざと鼻をフンと鳴らす。
「なるほど。つまり、スケベってことですね」
私はそんな今泉さんを横目に、ぷっと吹き出した。
***
「すごーい! まるでテーマパークみたい! 光に包まれたテーマパーク!」
目の前に広がる憧憬に、思わず歓喜の声を上げる。
ベランダのウッドデッキを下りると、目の前には広大な園庭。
枝葉に飾られた無数の小さな光。
足もとから雑木を照らすスポットライト。
幻想的なイルミネーションと、揺らぎのある照明のコラボレーションが心を和ませる。
「なんて綺麗……」
きらきらと輝く光に魅了され、言葉を忘れて無意識にため息が漏れた。
「ここには『海の風』『太陽』『緑の地』……それぞれのデザインコンセプトがあるんだ。でも、今日見せたいのはあの奥。水車の後ろの森林の中にあるんだ」
今泉さんは、レンガで作られたアーチの突き当たりを指差した。
「あの森林の中に今泉さんの庭が? そこは柳原さんの作品とは違うんですか?」
私は今泉さんが示す、薄明かりに照らされた古い水車の向こう側をじっと見つめた。
「そこは柳さんの作品じゃない。一部分だけ柳さんから土地を買ったんだ。
自分だけの癒しの空間を作るためにね」
今泉さんは穏やかな笑みを浮かべると、
「亜紀さんに見せたいんだ。俺が大切に育てた記憶を……」
そう囁き、エスコートするように優しく私の手を取った。
えっ……
手のひらに今泉さんの温もりを感じた瞬間、胸が「トクン」と大きな音を立てた。
「……亜紀さんの手、冷たいね。寒い?」
今泉さんは何一つ変わらない微笑みを向ける。
「い、いえ! 寒くないです! 手はいつも冷たいんです。末梢の血液循環が……いえ、あの、冷え性なので。大丈夫です」
口から飛び出した自分の言葉にハッとし、無理やり話の終止符を打った。
なに、おばさん臭いことを言ってるんだ私は。
……動揺を隠せない自分が恥ずかしい。
寒いどころか、今泉さんの体温が伝わる手のひらが熱く感じる。
……頭が沸騰しそう……。
繋がれた指を見つめると余計に意識してしまい、緊張でますます胸の鼓動が高まる。
「宮坂亜紀さんか……」
今泉さんが静かな口調でぽつりと呟く。
「え?」
咄嗟に今泉さんを見上げる。
「柳さんへの自己紹介で、亜紀さんのフルネームを知ってしまった」
今泉さんは私を見つめ返し、嬉しそうに目を細めて笑う。
「今泉さんは隆史さんなんですね。柳原さんのおかげでフルネームを知ってしまいました」
私は甘く奏でる鼓動を感じながら、照れ笑いを浮かべた。
今泉さんは柔らかな笑顔を私に向けた後、まるで何かの合図を送るように、きゅっと繋いだ手に力を入れ、そのまま視線を正面へ移した。
「ここが入り口。足もとにライトはあるけど、小川があるから橋を渡る時は気を付けてね。小川って言っても、雰囲気だけの小さなものだけど」
今泉さんは、シダレモミジの木に囲まれた細道の前で立ち止まった。
私は、雑木の生い茂る細道へ視線を向ける。
今まで歩いて来たアーチとは違い、アスファルトやレンガ、タイルが敷かれているわけでもなく。
獣道とまではいかないが、地面は土。
足もとを照らすスポットライトで、所々に小石が転がっているのがぼんやりと見えた。
「本当に夜の探検みたいですね……」
「そうだよ。亜紀さん好きでしょ? こういうの。ワクワクするでしょ?」
今泉さんは悪戯を企てる少年のように、口の端を上げ、いっそう嬉しそうに笑う。
今泉さんって、なんか……
可愛いかも。
「はい、探検好きです。探検もですけど……今泉さんを見てるとワクワクします」
用意してきた袋の中を何やらごそごそと探る彼を見て、思わずくすっと温かな笑みが漏れた。
「ん? 俺を見てると面白いって? 男はいつまでも少年の心を失ってはいけないのだ」
今泉さんは「はははっ!」と大きな笑い声を上げ、袋から懐中電灯とジャケットを引っ張り出した。
「はい、防寒着。酔いも醒めて体が冷えてくる頃だろ。水辺に行くから風も冷たくなる」
紺色の薄手のジャケットを私に差し出す彼は、懐中電灯を点灯させ、薄明かりに照らされる野道へ光を向けた。
「今泉さんは寒くないですか? 私だけがお借りして……」
「あぁ、俺はいい。スーツ着てるから寒くないよ。亜紀さんは薄着だし、女の子が体を冷やしちゃ良くない」
今泉さんは懐中電灯を脇に挟み、私の手から上着を取ると、そのままふわっと私の肩に掛けた。
「じゃ、秘密の森へ出発ーっ!」
今泉さんは再び私の手を掴み、ぎゅっと握ると、上機嫌に入り口へと足を向ける。
「はい! しゅっぱーつ!」
今泉さんに引かれる手を見つめ、私も声を弾ませた。
繋がれた手の温もりをくすぐったく感じながら、溢れ出しそうな確かな胸のときめきに顔を赤らめた。
コメント
1件
ああっ、今泉さんと亜紀さんの距離がまたグッと縮まった回だったね…!!😭💕 「手が冷たいね」からのジャケット貸して「秘密の森へ出発ーっ!」って、もうね、胸がきゅんきゅんしすぎて読みながら何度も床を転がったよ!!🤸♀️✨ 水車とか幻想的なイルミネーションの描写も綺麗で、二人だけの特別な空間って感じがたまらなかった…🌸 次回も楽しみにしてるね!!柏木さくら先生、素敵な世界をありがとう〜!!⋆♡
管野アリオ
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瑠璃マリコ
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