物語の時間は少し前へ戻る。
ジャイラダがシンハと戦いを始めた頃。
その間にルドラとその一味たちは、闘い合う場所を横目に森を駆け抜ける。
そして、ほうほうの|体《てい》で、旅団の先頭から少し離れた位置に転がり出た。
「ひい…っ!!」
「急げっ!!急げっ!! お前たちっ!!」
そう下知を飛ばしつつ、彼は荒く息を吐きながら地面へ大の字に転がった。
魔術師ルドラは、ひょろりとした細い体、体形と同じに頬はこけ、眼窩は落ち込んでいる。
その奥にある目の下には黒々としたクマ。
大きな鉤鼻が特徴的で、顔全体はハゲタカに似ていた。
ぜぇぜぇと息を吐きながら、何とかその痩せた身を起こす。
「ううぅ…っ、急げっ!急げっ!!」
「魔法円を拡げろっ!!」
ルドラという魔術師は、甲高い声で手下を急かす。
そんな醜態を晒す魔術師に怒られながらも、男達は地面に大きな魔法円を描いた布を拡げた。
シンハとジャイラダ達が戦いを繰り広げている間、ルドラは粛々と準備を行う。
地面に展開した魔法円は4基。
そして、魔法円を準備した男達と入れ替わりに、鎖と首輪で繋がれた男女が魔法円の中央へと引き立てられた。
痩せこけた男女は、明らかに彼らに捕囚された者達。
4基の魔法円全てに彼らが1人ずつ鎮座させられた。
そして、ルドラは大仰に両手を合わせる。
ギュッと眼を閉じ、呪文を唱え始めた。
古の契約により、汝へ助力を乞う。
山深い山林の主人であり、力強き友。
その巨躯は、しなやかなりて雄々しく。
その脚は、風の如く速く。
その腕は、槌の如く強く。
木々を揺らし、大地を駆け、宙を走る。
山の護りにして、猿の武人。
大いなるヴァナラよ。
その力を我に示したまえ。
古の契約により、汝へ助力を乞う。
我の元に来たれ。
我の元に来たれ。
呪文の最中に、先刻放ったジャイラダの怒号が響く。
だが、魔術の行使に集中し、トランス状態に入ったルドラには聞こえていない。
ルドラの存在に気が付いた、シンハの部下二人は馬を駆けて魔法円へ突進した。
その間にも、魔法円に|魔力《オーゴン》が注入され、怪しく光り輝き出す。
呪文詠唱が完了する前に、馬を駆けた兵士は魔法円へ辿り着く。
そして、馬から飛び降りつつ、魔法円から|変化《へんげ》途中の男囚を蹴り出した。
魔法円から蹴り飛ばされた男囚は、地面へグッタリと突っ伏す。
もう一人の兵士も、違う魔法円から男囚を蹴り出した。
その男囚は魔法円から蹴り出されると、全身から血を噴き出し、破裂する様に弾けて倒れた。
魔法円は真っ赤な血に染まると、輝きを失くして機能を停止する。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!