その頃、藤城コーポレーションでは会長室に幹部五名が集まり会議を開いていた。
もちろん円城寺一家の長であり藤堂組の若頭である会長の円城寺雅則もいた。
「最近トクリュウの悪事がどんどん増えてます…」
「それは愛宮警察署の瀬尾(せお)君からの情報か?」
会長の雅則が聞くと幹部はこう答えた。
「はい。瀬尾さんによると今月3件あったらしいです。うち1件は高齢者宅でしたが幸い留守だったので人的被害はなく、他の2件は未遂だそうです」
「この辺りの高齢者宅は金持ちが多いから一発当てればデカいんでしょうね。だから俺達のシマとわかってて入って来る」
「バックにどこかの組がついてるんですかね?」
「噂によると九州の梅島会の若手が牽引しているみたいです」
「「「梅島会かぁ~」」」
「厄介ですね。アソコと下手に関わると必ず死人が出ます」
「確かに。巻き込まれたらたまったもんじゃないですよ」
「しかし我が物顔でうちのシマを荒らしてるんですよ? 黙って見てる訳には……」
「そういやこの前商店街の会長が言ってました。最近見た事のない奴らが店に出入りしてるって」
「梅島の奴ですかね?」
「かもしれないな……」
そこで一樹が幹部三人に指示を出した。
「その飲食店に出入りしてる奴らを調べろ」
「「「わかりましたっ」」」
五名での話し合いは終わり幹部三名は会長室を後にした。
一樹が机の上の書類を片付けていると、窓辺に立って外を見ていた雅則が言った。
「で、例の件はどうなった?」
「例の件?」
「バーカ、お前の女だよ」
「ああ……来月からうちの経理で働かせる事にしました」
「そうか。そりゃ会うのが楽しみだな」
「色々とご迷惑をかけるかもしれませんがよろしくお願いします」
「わかった。ところでさ、俺も『グリシーヌ』の新人レミを囲う事にしたから」
雅則のが意外な事を口走ったので一樹は驚く。
「マジですか?」
「うん。とりあえずは六本木のマンションに入れる事にした」
「そうですか。いやぁ…でもびっくりです。確かに姐さんが出て行ってからもう5年経ちますが、会長はそんな気配全く見せなかったから……驚きました」
「ハハッ、俺はなぁ、女に関しちゃ秘密主義なんだよ。それに多分お前の影響もあるんだろうな…」
「俺のですか?」
「うん……初めてお前に好きな女が出来たのを見て、なんか羨ましくなったのかもしれないな…」
雅則はそう言って笑った後、今度は真面目な顔をして続けた。
「藤堂組の次の組長は、俺がなるかもしれない」
その言葉に一樹はハッとする。
「本当ですか?」
「ああ。一昨日組長の所へ行った時に言われた。でもまだ誰にも言うなよ」
「もちろん言いません。でもなぜ急に? 次の組長はナンバー2の則之さんだとばかり思ってました」
「うん。正直俺にもよくわかんねぇんだ。ただ組長は時期が来たらちゃんと説明するからそのつもりで腹をくくっとけってさ」
「……という事は何かあるんですね?」
「みたいだな」
「それにしても本妻の息子を差し置いて若……会長が次期組長になったら内部で荒れるのでは?」
「だろうな。多分あっちの子分達が黙っちゃいないだろう。いずれにせよそういう話があったって事をお前も知っておいてくれ」
「わかりました」
雅則との会話を終えた一樹は会長室を出た。
その頃藤堂組の組長室では、組長の息子・藤堂組のナンバー2である藤堂則之が声を荒げていた。
「オヤジっ! どうして俺の言う事を聞き入れてくれないんですかっ?」
「うちはそういうあくどい商売はしない主義だっていったろう? 何度言えばわかるんだっ」
「しかし今までのやり方を続けていては実入りが減るばかりです。それにうかうかしてたら他の組に追い抜かれて力が弱るばかりですよっ! だったら今のうちに手を打って……」
必死な息子の様子を見て、組長の則永はフッと笑う。
「だからってな、人に道に反する事をして儲けるなんていうのはなぁ、俺の…いや藤堂組の理念に反するんだよ。お前は何年この組にいる? そんな事もわかっていないのか?」
則永は息子を睨むとドスの効いた声で息子に凄んだ。
「しっ……しかし父さんっ!」
「父さんじゃないっ! 組長と呼べっ!」
「く、組長っ! でもこのままだとやがて俺達の組は廃れていきますよ」
「廃れるわけねーだろうがこの馬鹿野郎っ! お前みたいに目先の欲にとらわれてばかりいるとなぁ、全てを失っちまうんだ。そんな事もわかんないのかっ! そんな事よりもなぁ…お前のサボり癖が下から上がってるんだよ。自分の役割も全うしねーくせに偉そうなことばかり言うなっ! さっさと仕事に戻れっ!」
則之は実の父である組長から罵倒され、何も言い返す事が出来なかった。
まさか日々の任務をサボっている事をチクられているとは思わなかった。急に罰が悪くなった則之は逃げるように組長室から出て行った。
「チッ、あれが甘やかしたせいであんなになっちまった……」
則永は10年前に離婚した妻を思い出しぼやいた。
その頃、一樹の会社の事務所では大掃除が始まっていた。
「まだ年末じゃないのになんで急に大掃除なんっすか?」
下っ端の組員がヤスに聞く。
「来月から一樹さんのいい人がここで働くんですよ。だから徹底的に綺麗にしないと今日は家に帰れませんよ」
「えっ? マジっすか? どんな人っすか?」
「なかなかの上物だぞ。でも決して手は出すなよ」
「出しませんよぉ~」
組員が苦笑いをすると、ヤスが続けた。
「もし手を出したらおそらくお前の命はないと思え」
「ヒィッ、絶対出しません、死んでも出しませんっ!!!」
下っ端の社員は悲鳴を上げながら慌てて自分の持ち場に戻った。
その時一樹が社長室から出て来て言った。
「どうだ、進んでるか?」
「「「ハイッ!!!」」」
「うん、だいぶ綺麗になったな。あとはここに新しい机を入れるだけか」
「え? 新しい机を入れるのっ? 聞いてないっ!」
その時庶務係の女性社員、沢口南(さわぐちみなみ)が大声で叫んだ。南は27歳。姉御肌のさっぱりした性格の南は、男性が多いこの会社ではお姉さん的存在だ。
そして南はヤスの恋人でもあった。
南の叫び声を聞いて一樹が説明する。
「その机は以前ヤローが使ってたから汚ねぇしなぁ。あ、もちろん椅子もだぞ。南、適当に見繕って注文出しといて」
「わかったー。あとはいる物ってある?」
そこでヤスが叫んだ。
「一樹さん、コーヒーメーカー壊れ気味なんで新しいの頼んます」
その声に南がニヤリと笑って言った。
「買い替えるならカプチーノやカフェラテが作れるのがいいなー。女子も一人増える事だし」
南の上手なおねだりを聞き、一樹は仕方ないといった顔をする。
「仕方ねぇなぁ、じゃあ南の好きなのを買っとけ」
「やった!」
南はルンルンしながら自分のデスクへ戻って行った。
コメント
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いや〜なんかもうあちらの世界だわ。怖いけど見たいわ,この続き
わぁかぁかぁあぁったぁあのぉころぉ、なぁにぃもぉこわくぅなかったぁ(かぐや姫『神田川』)「南」つながりでこれって。ええ加減、頭から家具屋を抜けよ、わたし。あっ。お、ね、が、い、たっち、たっち、ここにたっち、あぁなぁたぁかぁらぁ~(岩崎良美『タッチ』より)にしたら良かったか。誰のどこに「タッチ」すんのか知らんけど。 今夜も、どうもすみません。
楓ちゃんを迎え入れる為に準備して整えてくれてるの大事な存在だからだね✨ 組同士やら内部争いやらきな臭くなってる💦 楓ちゃんが出社したら南ちゃんと仲良くなって☕タイムで和めるといいね😉