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テラーノベルの小説コンテスト 第3回テノコン 2024年7月1日〜9月30日まで
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兄と守孝《もりたか》の緊迫した様子に、紗奈《さな》は、内心ドキリとしていた。


兄、常春《つねはる》は、理詰めで相手を追い詰める気質がある。まして、色々あった後、常春なりに動揺もし、弱っているのは、明白。


やけになって、ぶつかり合いなどと、こじれなければよいが、と、紗奈が思っている矢先、


「なにやら、険悪な空気が流れておりませぬか?」


正平《まさひら》が、問うて来た。


「えっ?!な、何のお話でしょうか?」


オホホホと、袖で顔を隠し、いかにも、な、貴族の女人の仕草で、紗奈は、正平を煙りに巻こうとした。


ところが、正平は、紗奈の方など見向きもせず、前方の、植え込みを凝視している。


良く良く目を凝らし、正平が望む先を眺めてみると……。


なにやら、丸っこい頭が、ひょこひょこ動いているのが、わかる。その横で、白いものが、これまた、ちょこちょこ動いている。


「ん?!えっ?!」


そんなことは、あり得ない。けど、あやつのこと、また、なんで?!


「タマっ!!!人様の御屋敷で、何をしているのです!」


丸っこい頭が、ぴくんと、動き、こちらへ向いた。


「あーー!上野様こそ、なに、逢引してるんですか!しかも、人様の御屋敷ですよー!」


「ちょっ!何を言ってるの!この、犬!!」


「ほおー、子犬と、おっしゃらず、犬、とは。やっと認められたか。ははは」


「お前、頭の打ち所が、悪かったのですか?!」


「えーーー!そんな、言い方、ひどいよぉ!」


タマは、たちまち、しゅんとなった。


しかし、と、紗奈は、思う。なんで、タマがいるのか、そして、ますます、こじれるのは、目に見えている。


まいったなぁ……。


呟き以下の、吐息のような、愚痴りを紗奈は吐く。


兄は、守孝と話し込んでいる。このまま、そっとしておくべきで、当然、手は、借りれない。


そして──。


案の定。


「なんと!こ、これがっ!!」


正平が、食いついた。


「紗奈様!あやつが、タマ、なのですね!!」


はあ、まあ、そうです。


と、紗奈が頷いていると、タマが、ぴょんと、広縁へ、飛び上がって来た。


「ちょっと、お兄さん、あやつ、ってなんですか!!」


「あーーー!!!もっと、近くへ!いや!わたしの膝の上へどうだ!!」


まあ、そう言うなら行ってもいいよ、と、タマは、正平の膝に丸まった。


「おおお!!タマよ!触っても良いか!!」


そこまで言うなら、まあ、触ってもいいけど?


と、タマも、まんざらでもない様子で、正平の膝で、今度は体を伸ばした。


「おっ!!!伸びたぞ!」


そりゃあ、タマだって、ぐーと、体を伸ばしたい時も、ありますからねぇ。と、愚痴る犬へ、


「そうか、そうか、なるほどなあ」


と、正平は、感心しきっている。


「おお、そうじゃ、タマや、腹は減ってないか?こちらで、膳を用意して頂いたのだ、食べてみるか?」


正平が、タマへ、膳に乗った一品を与えようとした時、ニャーーー!と、猫がいきり立った。


タマの側で動いていた白いもの、だった。


「え?猫?」


紗奈が驚く脇で、またもや、正平が、食いついた。


「なんと!猫!つまり、あやつは、化けられる訳ですな!!」


「ちょっと、上野様、この人、やめといた方が良いと思うよ。ワケわかんないもん。でも、まっ、惚れてしまえば、止まんなくなっちゃうもんねー」


「なっ?!タマこそ、なに、訳のわからないことを、と、いうより、何、色気づいてんですかっ!」


あーー、それそれね、それ……。

と、なにやら、タマの、様子がおかしい。


「ど、どうした!タマ!しっかりしろ!やはり、腹が減って、フラフラなのだなっ!これを食べろ!」


正平が、膝の上で、伸びているタマに、必死で声をかけた。


すると、また、ニャーーー!と、猫が、鳴く。


「いったい、何が……」


「正平様、落ち着いてください。どうやら、猫は、タマにこの膳のものを与えてはならないと、言っているようですわ」


「は?」


正平は、理解に苦しむといった、表情を見せたが、相手は、紗奈。あからさまに、けげんな顔もできず、戸惑っている。


「タマ、猫は、なんと言っているの?」


「あー、やっぱり、この御屋敷は、やだなあー、へんな香りで、タマ、頭が、くらくらします。なんだか、わかんないけど、御屋敷中、おかしいそうで、食べ物も、口にしない方がいいって、一の姫猫様が、止めてるんですー」


言うと同時に、タマは、正平の膝の上で、寝息をたて始めた。

羽林家(うりんけ)の姫君~謎解き時々恋の話~

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