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黒猫のイレイラ

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黒猫のイレイラ

31 - 【第五章】第7話 棘《残留思念》(イレイラ・談)

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2024年01月22日

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『——え?何?何それ!』


ライサが悲鳴をあげた。予想外の事にパニックになっているみたいだ。

彼女の仕掛けた魔法陣はその発動をゆっくり中断され、散らばる砂の様に黒いモヤと共に消えていく。

『何でそんな事が出来るの?——コレは古代魔法よ⁈』

『知るか!お前が知識不足なだけだろ!』

怒気を隠す事なく叫び、カイルがライサに飛びかかった。

愛しい人が胸に飛び込んでくる事でライサは色々勘違いをし、頬を染めて腕を広げている。


『やっと私を抱きしめてくれるのね!あぁ、ずっと待っていた、の…… ——え?…… 』

ライサの言葉が途中で切れた。


カイルの手が光りながら彼女の体にめり込んでいる。少し間を開けてから、スッと、ゆっくりそこから手が抜かれた。

でも、彼女の体には何も起きている様には見えない。なのに、ライサの顔色は真っ青だ。

『あ…… 嘘でしょ?待って、やめて……』

ライサの悲痛な声が耳に痛い。

床にへたり込み、ライサが懇願する様な眼差しでカイルを見上げている。 彼女の視線の先にあるカイルの手には、どす黒く光る紅い石が脈打つ姿をして存在していた。

『ダメ、やめて?大事なのよ、愛してるの。貴方が好きよ…… カイル、カイルカイルゥ——』

ボロボロと、大きな蛇の目から大粒の涙が零れ落ちる。


『お前なんかいらない。愛して無い。イレイラは僕の魂の伴侶だ。彼女を傷付けて、まさか無事でいられると思うのか?』


『待って、愛してるのよ。そんな事しないでぇ…… 』

ブルブルと震え、ライサが何度も何度も哀願する。祈る様な仕草で、彼女はカイルへにじり寄った。

『そんなもの一度でも僕が欲したか?こんなゴミは、捨てるべきだ!』

そう言ったと同時に、虫ケラでも見る様な冷たい眼差しのままカイルは、手の中の石を力任せに砕いた。


『やめてぇぇぇぇぇぇ!…… あ、あぁ… ぁぁぁ…… 』


ガクンっとライサの首が項垂れる。そしてそのまま動かない。同じ体勢のまま、全く微動だにしなくなった。


(——まさか、殺しちゃったの?…… 嘘でしょ?)


痛みの消えた体をゆっくり起こし、私はライサを見つめた。どうしていいのか、わからない。

『…… イレイラ。イレイラ!大丈夫?もう痛くない?』

さっきとは全くの別人の顔をして、カイルが私に駆け寄って来た。

『あぁ可哀想に、怖かったよね。もう大丈夫だよ!』

頬擦りをして、ギュッと抱きしめてくれる。呆然としたままその行為に甘んじていると、ライサの声が聞こえてきた。


『…… あれ?カイルじゃない。どうしたの?あら?此処は何処?』


あっけらかんとした声に、私は目を見開いた。

…… どういう、事?何故?死んでしまったんじゃないの?

『ライサ、此処は僕の神殿だよ。迷子にでもなって、此処まで来てしまったんじゃないか?もう帰った方がいい。ライジャが心配するよ』

『あらそうなの?ごめんなさいね、私ったら子供みたいな事をして。そうね、兄さんが心配したら面倒だわ。もう帰るわね——って、まぁ!カイル。この玄関ホールは直した方が良いわよ?センスが無いわ』

キョロキョロと周囲を見渡し、ライサが渋い顔をする。床がヒビ割れ、柱や壁が下がり過ぎた室温と冷気のせいで氷に覆われているのが、こうなった原因がほぼほぼ自分のせいだとは思っていないみたいだ。


(どういう事?訳がわからない)


キョトンとした顔で私がカイルとライサを交互に見つめると、カイルは苦笑いをして軽く首を横に振った。

『じゃあね!』

爽やかな顔で手を振り、ライサがさっさと帰って行く。その笑顔に、初めて可愛い人だなって思えた。本来は美しく可愛らしい神子だったのだなと、考えを改める事にした。

さっきはすごく、怖かった…… けど。

その様子を無言でカイルは見送り、ライサの姿が見えなくなるのを確認すると、彼は玄関のドアを閉めてふぅと息を吐き出した。


私を胸に抱きしめるカイルの手が、いつもより痛い。そして…… 震えている。

『ごめんね、本当に。もっと早くやるべきだった。あんな事までするなんて思わなかったんだ』

カイルが項垂れる。声が掠れていて、どうやら泣いているみたいだ。

『でもねもう安心していいよ。彼女の“恋心”を砕いて捨てただけだから。もう大丈夫』

…… え?待って、何それ。

『いらないよね、あんなもん向けられても気持ち悪いし』


恋心を、砕いた…… ?

何故そんな事が出来るの?そんな事をして、何故平気なの?

邪魔になったら……


いつか私の恋心も、不用品みたいに砕くの?


カイルの声が遠くに聞こえる。言葉が認識出来ない。彼に『いらない子』って思われたら、私は終わりだ——

大きくて、酷く冷たい氷の棘が、『私達』の心に深く刺さるのを感じた。

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