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師匠から突然の誘いに、思わず目を丸くさせた瑠衣。
「え? 私が行っても大丈夫なんですか?」
「あの楽器メーカーの社長の息子が双子で、俺の小中学校時代の同級生だ。お前が行くなら連絡しておく。オーナーには外出する際、俺の同伴と伝えておけば問題ないんだろ?」
「まぁ……そうですが」
「…………たまには籠から出るのもいいんじゃないか?」
「では…………響野先生の付き添い人をさせて頂きます」
「フンッ……付き添い人って…………何だそれは」
二人はベッドから抜け出し、それぞれ身支度を整えた後、特別室を出て侑を見送りをする。
「大学でのレッスンが予想以上に忙しく、次ここに来る時は創業パーティの日だ。オーナーにはお前から話を付けておけ。パーティ当日はここへ迎えに行く」
侑が徐に上着のポケットから財布を出すと、一万円札を十枚ほど取り出し、瑠衣の前に差し出した。
「これでパーティに着ていくドレスでも買っておけ」
「そんな! こんな金額、受け取れませんっ……!」
瑠衣は万札を掴んでいる手を押し返すと、侑は『お前な……』と呆れ気味にため息を吐いた。
「お前のここでの稼ぎは、親が遺した借金返済に充てているんだろ?」
「まぁ……そうですけど……。でもドレスなら、ここで着ているものもありますしっ」
瑠衣の言葉に、彼は首を数回横に振った後、頬骨まで伸びている前髪をグシャリと掴んで掻き上げる。
少しの間、何かを言いあぐねるように侑は黙ると、一歩前に踏み出し、瑠衣に近付いた。
「…………お前がここで着ているドレスは、他の男が脱がせているドレスだろ? そんなドレス……」
長い前髪から覗く一重の鋭い眼差しが、瑠衣の瞳を捉えた。
「…………俺に付き添うパーティで着るな」
「…………え?」
時が凪いだように、侑と瑠衣の視線がぶつかり、絡み合う。
(響野先生……何か、嫉妬しているような事…………言ってる?)