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ヨコハマの入り江
錆びた潮風が吹き抜ける廃倉庫
任務は終盤だった
ポートマフィアの最凶コンビの圧倒的な武力の前に密輸組織の残党はもはや風前の灯火
「はぁ…終わりか。手応えのねぇ連中だぜ」
中也が苛立ちを紛らわすように黒い外套を翻して一歩踏み出したその時だ
物陰に潜んでいたリーダー格の男が血走った眼で叫びながら懐から奇妙な形状の注射器を投げつけた
「死ねッ!神の雫を浴びて過去へ還れッ!」
「中也動くな!」
太宰の制止よりも早く中也は反射的にその飛来物を迎擊しようと右足を跳ね上げた
パリン、と硬質な音が響く
砕け散ったガラス管から不気味に発光する紫色の液体が飛沫となって飛んだ
それは中也の頬を濡らし、驚愕に開かれた唇の隙間へと滑り落ちる
「…っ!?ゲホッ、なんだこれろ苦ッ…」
直後中也の全身を内側から焼き焦がすような熱が襲った
「あ、がっ………」
中也がその場に崩れ落ちる
全身から立ち昇る白い煙が彼の輪郭を朧げに霞ませていく
「中也!」
太宰は即座に駆け寄りその細い肩を力任せに掴んだ
「(私が触れればどんな異能も霧散する。例えそれがどんな強力なものであったとしても…)」
だがその確信は裏切られた
「………消えない……?」
太宰の指先が中也の肌に触れているにもかかわらず煙は収まらず勢いを増す
それどころか腕の中で中也の骨格が、筋肉がみるみるうちに縮んでいく
「まさか異能じゃない…?……ッ遺伝子そのものを書き換える薬物か!」
煙がふわりと晴れ静寂が訪れる
床に広がった黒い外套と主を失ったはずのスーツ
その山が内側からもぞもぞと小さく動いた
「………う、………ぅぅ………」
布の隙間からひょこっと顔を出したのは綺麗な髪をふわふわさせた三歳ほどのサイズの中也だった
かつての凶暴な重力使いの面影はどこへやら
ぶかぶかのシャツの襟元から覗く首筋は驚くほど白く、細い
大きな青い瞳が困惑したように潤んでいる
「……だ、りぇ………?」
舌足らずな羽毛のような声
中也は己の変貌を理解できず短くなった手足で布の山から抜け出そうとして再び派手に転んだ
「……あ…ううぅ………っ」
今にも泣き出しそうな無垢な瞳
太宰は差し出した自分の手が微かに震えていることに気付いた
怒りでも恐怖でもない
それは抗いようのない征服欲と加虐心、そして狂おしいほどの愛着が混ざり合った震えだ
「これは困ったねぇ中也」
太宰はもがく小さな体を壊れ物を扱うようにそっと抱き上げた
太宰の腕の中にすっぽりと収まってしまうほどの小さな中也
その柔らかな頬に指を滑らせると中也は不思議そうに太宰の指を小さな小さな手でぎゅっと握り返した
「無効化が効かない…つまり君はこのまましばらく私のものというわけだ」
恐怖に怯える敵の残党などもう太宰の眼中にはない
彼は獲物を慈しむ捕食者のような笑みを浮かべた
「最高に面白くて最高に可愛いじゃないか……ふふ、まずはどこへ行こうか」
「私のちいさな相棒?」
誰が得するのか幼児化です
最後までお付き合い願います