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『夏の屋上、スプリンクラーの音』
学校の屋上、夏休み中の午後。
校舎には誰もいない。風鈴の音もない。
ただ、水を撒くスプリンクラーのシャーッという音だけが響いている。
日下部(体操服にタオル首にかけて)
「……ほんとに来たのか、夏休み中に学校なんて」
遥(制服シャツまくりあげて、地べたに寝転んでる)
「家、暑すぎて。……てか、静かすぎんだよな。ここ」
「誰もいねぇの、いいな。落ち着く」
(目を細めて空を見てる)
蓮司(飲みかけのスポドリ持って階段から現れる)
「はいはいお疲れ、屋上の亡霊たち。
“青春=部活”みたいなテンプレ生活してたら、今ごろもっと汗かいてたよ?」
遥
「お前それ言うたび、自己紹介だからな?」
蓮司
「え?オレは“陽キャの皮をかぶった不登校系寄り”って自己申告してるし。
さ、今日は“夏っぽいこと”をやるって聞いたけど?」
日下部
「……遥が、花火持ってきてるって言ってた」
蓮司
「おーいまじか。やるやる、やろうよ。
そういうやつ、“今のうち”にしかできないからさ」
夕方、屋上の隅っこで。
線香花火を一本ずつ、順番に火をつけては見守る三人。
誰もしゃべらないけど、ちゃんと笑ってる。
スローモーションのような一言たち。
遥(ぽそりと)
「こういうの、
子どもの頃に誰かとやった記憶があれば、
ちょっとは懐かしいとか思えたんだろうけどな……」
(でも火花をじっと見てる)
日下部(やわらかく)
「……じゃあ、今年から思い出にすればいい。
ここで、三人でやったって」
蓮司(少し離れて座って)
「……“誰かと見た”って記憶は、遅れて残るんだよ。
今は何も感じなくても、そのうち、ふと来るから。
オレ、そういうの好き」
小さく火花が落ちて、最後の線香花火が消える。
夜風がひんやりしていて、
なんでもない今日が、ちょっとだけ胸に残る。