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※BLではない……沙耶香、少し書きたくて汗
ほんとに好き勝手にしか書かない自由人……。
—蓮司と沙耶香・八月の午後—
蝉の声が、遠くで泡立っている。
ガラス越しに注ぐ光は白すぎて、もう午後か夕方かも曖昧だった。
エアコンの冷気が足元を撫でても、蓮司はだらしなくソファに倒れたまま。
その隣で、沙耶香が氷を入れたグラスを二つ、コトン、と置いた。
「……生きてる?」
「かろうじて、息だけね」
蓮司は手を伸ばし、指先で沙耶香の手の甲を軽くつつく。
彼女は逃げなかった。ただ、少し口の端を上げた。
「だるいなぁ……夏って、退屈で、粘っこくて、いやらしくて、沙耶香みたい」
「光栄ね。つまり“好き”ってこと?」
「さぁ、どうかな」
彼の声は緩く、意地悪で、どこか寂しい。
沙耶香はそれを、飽きもせず見つめている。
ただ、助けもしない。踏み込まない。
その距離を、何より大事にしているように。
「外、行く? 祭りとか」
「浴衣着るの、面倒。……蓮司が着たら、笑うけど」
「笑うってひどくない?」
「だって似合わない。艶も色気も、全部私が持ってくから」
それは冗談ではなく、ただの事実の提示だった。
でも蓮司はむしろ、それに安心している。
「……全部持ってってよ。どうせ俺、残りかすの方が性に合ってる」
沙耶香は何も言わない。
ただ、グラスの氷を、カランと回す音だけが響いた。
そして、ひとつ息を吐いて、蓮司の頭を自分の膝に引き寄せる。
ゆっくりと、無言で髪を梳く指。
命令でも、慰めでもなく、「支配としての優しさ」だった。
「夏は、黙って抱かれてればいいの。ね、蓮司」
「……はは。そういうとこ、ほんと怖いよ」
「褒め言葉として、受け取っておくわ」
午後はいつの間にか、夜に滲んでいった。
誰も助け合わず、でも壊れもしない、
奇妙に安定した関係のまま。
ふたりは、ただ静かに、夏を飲み込んでいた。