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土曜日の午後3時半頃、スーパーアイリスの店内は土曜日の割に空いていた。

もうすぐ仕事を終える雪子は、客のいないレジでルンルンしている。


「雪子さん今日なんか嬉しそうっすね。何かいい事あったんですか?」


この日品出しを担当していたバイトの山本が言った。

すると雪子の隣のレジにいたパートの節子も、


「雪ちゃん朝からニコニコしっぱなしだもんね。何かあったの?」


とニヤニヤしながら聞く。


節子は雪子よりも少し年上の先輩パート従業員だ。

雪子がこのスーパーで働き始めた時の指導員をしてくれた。


節子は大学生の息子が二人いる肝っ玉母さんで、

いつも明るく朗らかで、アルバイトの若い子達からは頼りになる存在として慕われていた。


雪子は山本と節子の言葉にニッコリして答えた。


「今日息子が帰って来るんです」

「あぁそれでか! さっき鮮魚部に刺身の盛り合わせを頼んでいたわよね」

「そうです。息子は魚が好きなので新鮮な刺身を食べさせあげようと思って」


雪子は嬉しそうに言う。

それを聞いた山本が、


「雪子さんて社会人の息子さんがいるようには見えないですよね。うちの母親は雪子さんよりも2歳も年下なのに、雪子さんよ

りもかなり老けてますから。この違いはなんなんだろうなぁ」

「それを言ったらさあたしだって雪子ちゃんと歳が近いのよ。それなのにあたしのお腹はビア樽で雪ちゃんはスッと細くてスタ

イルがいいんだもんねぇ。ほんと、神様は不公平だよ」


節子が嘆くように言ったのでバイトの山本がすかさずフォローした。


「節子さんはその体系だからこそ包容力があってみんな安心するんです。節子さんが細くなったら僕嫌だなぁー」


雪子も大きくうんうんと頷く。

すると節子は、


「山本君! あんたは絶対いい所へ就職出来るよ! でもって、トントン出世するから!」


と言ってガハガハと笑った。


「でもさ、あたしは雪ちゃんがほんと羨ましいよ。ウザい旦那はいないし息子さんはもう社会人で手が離れているし。うちは旦

那は役立たずだし大学生の坊主が二人もいるから家計は火の車だし。それに比べて雪ちゃんはほら、なんだっけ? コーヒーの

教室? に通い出したんだろう? はぁーっ、なんか優雅で羨ましいわ! もうさ、いっそのこと彼氏でも作っちゃいなよ。あ

んたは親の介護もりっぱに終えたんだから、これからは自分の為に人生楽しまなくちゃ」

「雪子さんだったら、まだこれから彼氏の1人や2人全然いけますよね。恋人とか作らないんですか?」


いきなり二人にそんな事を言われたので、雪子はびっくりして、


「いえいえ、男性はもう懲り懲りですから」


雪子は咄嗟に手を顔の前でブンブンと振りながら苦笑いをする。


「浮気男なんてどこにでもたんまりいるわよ。でもね、世の中には浮気をしない遺伝子を持った男がいるらしいのよ。雪ちゃん

は今度はそういう人を狙うといいわ」

「え? そうなんですか? 遺伝子で浮気するかしないか決まるんですか?」

「そうみたいよ。だからね、その浮気をしない遺伝子を持った男を探せばいいんだよ」

「そうなんですねー」


雪子が感心したように言うと、節子がニヤニヤしながら言った。


「山本君はどっちだろうねぇ?」

「ぼっ、僕は、しない遺伝子だと思います」


それを聞いた雪子と節子は声を出して笑う。

そして節子が言った。


「えーっ? だって前の彼女とは浮気がバレて別れたんだろう?」


山本は参ったな―という顔をして頭を掻いている。

それを見た雪子と節子は、また大笑いをした。


その時自動ドアが開き、新たな客が入って来た。

出入口側のレジにいた雪子は客に声をかける。


「いらっしゃいませ」


しかしその客を見て思わずびっくりする。

その客はが俊だったからだ。


俊は雪子に軽く会釈をすると、買い物カゴを手にして売り場を回り始めた。


(びっくりしたわ…またあの人)


するとバイトの山本も俊に気づいたようで雪子に言った。


「あの人この間助けてくれた男性ですよね。なんかカッコいい人ですよねー。同じ男から見ても惚れ惚れしちゃいます」

「山もっちゃん、そっちの趣味があったのかい?」


節子がそう言ってガハガハと笑ったので、雪子も釣られて笑った。


その後、買い物を終えた客がレジに並び始めたので雪子は接客に集中した。


10分程経つとレジには誰もいなくなった。

雪子がホッと一息ついた時、新たなカゴがカウンターの上に置かれた。


雪子が顔を上げると、その客は俊だった。

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