「いらっしゃいませ」
「どうも。今日も仕事ですか?」
「あ、はい」
「仕事は週5?」
「あ、いえ、今は週4で入っています」
「そうでしたか……」
俊は納得したように頷く。
雪子はなぜそんな事を聞くのだろうと不思議に思いながら、カゴに入った品物をバーコードで読み取り始めた。
(なんか、緊張するな…….)
そう思いながら一つ一つの品物をチェックする。
俊のカゴに入っていた物は、
上質のオリーブオイル
サーモンの切り身
フィットチーネの生パスタ
生クリーム
レモン
などの食材で、お洒落なイタリアンが出来そうな材料だ。
それにフランス製の白ワインと何種類のチーズも入っている。
(奥様が作るのかな? それとも自分で料理をするのかしら?)
雪子はそう思いながらさりげなく俊の左手の薬指を見る。
結婚指輪ははめていない。
会計を終えた雪子は金額を告げた。
「お会計は8140円でございます」
俊は前回と同じようにカードを差し出す。
会計はすぐに終わり雪子は笑顔で挨拶をした。
「ありがとうございました」
「ありがとう」
俊はカゴを袋詰めカウンターへ移動させ袋に食材を入れ始める。
雪子はホッと息を吐いた。
そこへ遅番の美香がやって来て雪子と交代した。
雪子は引継ぎを済ませると、傍にいた山本と節子に声をかけた。
「じゃあお先に失礼します」
その時節子が茶化すように言った。
「彼氏に美味しい物を沢山作ってあげなよー」
山本も、
「雪子さん、土日思いっきり楽しんでくださいねー」
と声をかける。
「はい! じゃあお先にー」
雪子は嬉しそうな笑顔で二人に手を振ると、バッグヤードへ歩いて行った。
今の会話を聞いていた俊は、
(彼氏? 恋人がいるのか…….?)
そう思いながら表情をこわばらせる。
想定外の出来事に、俊は少し戸惑っていた。
一方雪子はロッカーへ向かう途中、昼休みに買っておいた食材をスタッフ用の冷蔵庫から取り出した。
買い物袋は二つ。
雪子は久しぶりに帰省する和真へ美味しい物をいっぱい食べさせようと思い、
食材や果物を山ほど買い込んでいた。
ロッカーでエプロンを外し鏡を見て髪型を整えると、雪子はすぐにロッカールームを出た。
今日は帰ったら和真がいる。
それだけで心が弾む。
逸る気持ちを抑えながら、雪子はスーパーの通用口を出た。
そして駐車場を横切り表通りへ出ると、緩い上り坂を歩き始める。
和真は今日の昼過ぎに家に着くと言っていたのでテレビでも見ながら寛いでいるだろう。
雪子は少しでも早く帰りたくてついつい早足になってしまう。
しかし両手いっぱいの重い荷物がそれを邪魔する。
少し息を切らしながら歩いていると、横にスーッと車が停まる気配がした。
それと同時に声が聞こえた。
「よかったら送りますよ」
雪子がびっくりして横を見ると車の中には俊の姿があった。
「いえ、近いので大丈夫です」
「遠慮しないで……」
「いえ、本当に大丈夫ですから」
いくら有難い申し出だったとしても、客の車に同乗するなんて有り得ない。
雪子は俊の親切に感謝しつつ丁重に断った。
しかし雪子が両手に持ったスーパーの袋は、あまりの重さで今にも破けそうだ。
「どうせ通り道ですから。それに本をいただいたお返しだと思って下さい」
俊は微笑みながら言う。
雪子はかなり戸惑っていたが、ここでいつまでもこうしていると
遅番で出勤して来た同僚達に見られてしまうかもしれない。
それに俊も引き下がる様子がまったくなかったので、
雪子は諦めたようにその申し出を有難く受け入れる事にした。
「すみません、じゃあ、お言葉に甘えて……」
雪子が申し訳なさそうに言うと、俊はすぐに運転席から降りて来た。
そして重たい袋を受け取ると後部座席へ積み込んでくれた。
それから助手席のドアを開けた俊が言った。
「どうぞ」
「すみません、ありがとうございます」
雪子は申し訳なさそうに言うと、言われた通りに車へ乗り込んだ。
コメント
2件
雪子さんは俊さんの指輪チェックしてるし🤭俊さんは噂の恋人が気になってるし🤭もう〜2人とも〜😆俊さんはどんな大人の駆け引きで聞き出すのかな⁉️ゎ‹ゎ‹ゎ‹ゎ‹~♬.*゚
フフッ、俊さん慌ててる〜🤭荷物の多さと本のお礼を絡めて車に乗せてこれから事情聴取ですか⁉️😽