コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
第1話:杭の味噌汁と3兄弟の話
🍚 シーン1:三兄弟、塔のふもとに現る
夕暮れ時、碧塔のふもとにある食堂――《碧のごはん処(ミドリ)》に、騒がしい足音が近づいてきた。
「おーい、腹減ったーっぺ!」
「静かにしろ、ゴウ兄の仇って言ってたじゃねぇか!」
「いいから早く入れっぺ! すずかAIの“空腹警告”出たぞっぺよ!」
現れたのは、まだあどけなさの残る碧族の三兄弟。 長男・レンは筋肉質で褐色肌、髪を逆立てており右腕に機械式の補助装置を装備。元気で豪快な性格。 次男・ユウは細身で眼鏡をかけ、常にスキャナーを携行している分析屋。 末っ子・カイは無口で、帽子を目深にかぶっている。小柄だが動きが鋭い。
彼らは「処理後チーム」への加入を夢見る訓練中の碧族だ。
🧑🍳 シーン2:味噌汁フラクタル、再現開始
カウンターに座るなり、レンが叫ぶ。 「おばちゃーん! 飯くれっぺー!」
奥から現れたのは、年季の入ったフラクタルエプロンを身に着けた料理人、タエコ。 大阪弁でツッコみながら、すずか端末に指を走らせる。
「ちょっと落ち着きぃな! そないに急いでも味は逃げへんで!」
タエコは台の上にひとつの“杭のかけら”を置いた。 「この杭、あんたらの兄ちゃんが打ったんやろ?」
レンが一瞬、言葉を飲み込む。 「……ああ。ゴウ兄が死ぬ前に打った杭。回収して、持ってきた」
タエコは端末にコードを入力する。
《TRACE_FLAVOR=ACTIVE》《FRACTAL_SOUP_MISO=REBUILD》《EMOTION_LAYER=ON》
杭から碧素の粒子が湯気のように浮かび上がる。 鍋が自動で動き出し、碧素水に具材をひとつずつ落とし、光がゆっくりと立ち上る。
「この味噌汁、杭が覚えてたんや。あんたら三人で食べとった、最後の夜の味や」
🥢 シーン3:兄貴がここにいる
味噌汁は淡く青く光り、湯気と共に記憶が香りとなって溶け込む。 三人はそれぞれ、黙って椀を手に取った。
「……しょっぱいけど、あったかいな」
「……この味、忘れたくなかったんだ」
カイがそっと呟いた。 「……兄貴がここにいるみたいだ」
誰も言葉にしなかったが、皆、同じものを感じていた。
その空気を破るように、テレビからすずかAIのニュースが流れ始めた。
《本日の碧族新人登録者数:24名。うち2名、元・処理後志望》
タエコが、笑う。 「兄ちゃんはな、杭で“残したかった”んや。あんたらが次、前を向けるように」
味噌汁に浮かんだ記憶は、三兄弟の未来を温める。
杭は記録。料理はその続きを、舌に刻む。