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最近、胸の奥がざわついている。
──静かなはずの町に、奇妙な“感情”が漂っているのだ。
ナイトメアは目を閉じ、空気を読むようにそっと息を吸う。
それは香りではなく、波のような感情のざわめきだった。
(なんだ……この重苦しい、黒い気配は)
怒り、不安、恐怖、混乱──
あきらかに以前より“ネガティブ”な感情が町中に広がっている。
しかも、ただの「一時的な気分の波」ではない。
まるで、何かを押し隠しているような、**無理やり抑え込まれた感情の揺れ**だ。
ナイトメアは、ゆっくりと町へ向かうことにした。
町の空気は、一見すると穏やかだった。
少し前と変わらない営みが、今日も静かに続いている。
けれど──その裏にある感情は、明らかにおかしい。
「……笑っているのに、怯えてる」
すれ違った女性の瞳の奥に、一瞬、怯えの色がよぎった。
それは、誰か“特定の存在”を恐れているような反応だった。
(……嫌な感じがする)
それに、以前自分をいじめていた“トモダチ”たちの姿が見当たらない。
名前を出して聞いても、「知らない」「最近見かけない」と皆が口を濁す。
そのときの感情は、「恐怖」と「嘘」だった。
(何が……何があったんだ)
彼は冷たい風に背中を押されるように、家へと戻った。
ドアを開けると、いつもの兄弟が出迎えてくれた。
「おかえり、ナイトメア!」
ドリームは満面の笑みを浮かべて言った。
「町は楽しかった?……何もなかった?」
一瞬、時間が止まったように感じた。
その言葉、その笑顔。
──わざとらしさがないのが、逆に怖かった。
「……うん。何もなかったよ」
そう答えた自分の声が、少し震えていたのを彼自身も感じていた。
夜。
食後、ナイトメアはチミーにそっと話しかけた。
「ねえ……チミー。最近、町が変なんだ」
「変……って?」
「ネガティブな感情が多すぎる。誰かを隠れて怖がってる。
それに……僕をいじめてたみんなが、突然いなくなった。
それなのに、みんな何も言わない。……変じゃない?」
チミーは、静かに表情を曇らせた。
「……何か心当たりはあるの?」
ナイトメアは少し考えてから、言葉を紡いだ。
「あるには……あるけど………確信がないから、まだなんとも言えない……かな?」
「…………」
チミーはしばらく沈黙していたが、やがて静かに頷いた。
「……そうなんだ。少し気をつけるね」
「……気をつけてね」
「大丈夫。私、そんなに弱くないから」
そう言った彼女の目は、いつもよりずっと強く、まっすぐだった。
そして、チミーは静かにドアを開けた。
「ナイトメアは何か隠してる。それが何なのか探さないと」
霧のような夜の空気の中へ、彼女は一人、歩き出していく。
──優しさの仮面を被った、この世界の真相を知るために。