テラーノベル
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「付き合うまで、俺は奏に会う度に冷たくあしらわれていたんだぜ? 『なぜ君は、人を寄せ付けないように冷たく振る舞う?』と問い詰め、結果それが彼女の事を傷付け、泣かせてしまった事も…………けっこうあったな……」
(このカップルにも、そんな過去があったとはな……)
侑が冷めかけのコーヒーを口に含むと、怜は再び言葉を繋げた。
「……日中の明るい時間からエロい話をするのもアレなんだけどさ、奏にはあんな過去があったから、俺は彼女の肌に触れる事はあったが『俺に抱かれたい』って思うまでは最後までしなかった。とにかく奏が嫌がる事だけは、絶対にしたくないって思った。俺自身も驚いたよ。まさか自分がオスとしての欲望を抑えられるなんて、思いもしなかった」
友人の精神力の強さに、侑は驚きを隠せなかったのか、一重の瞳を見開く。
「だから、初めて奏を抱いた時…………すげぇ嬉しかったし、奏を愛しているって心底思ったし、改めて奏を幸せにしたいって気持ちで…………溢れてたんだよな……」
「…………怜。お前…………強いんだな。それに比べて…………俺は……」
俯いて言葉を濁す侑に、怜は『なぁ、侑』と声を掛けた。
「お前と九條さん、師弟関係ではあるけど…………お前、九條さんに対して、それ以上の感情があるんだろ?」
「…………」
友人に問いただされ、侑の顔が熱っていくのを感じて無言になってしまった。
「まぁ俺が聞いても、お前は答えないと思っていたけどさ、人と人との出会いって、奇跡みたいなモンだと俺は思うんだよ。特に、『この女と一緒に幸せになりたい、ずっと側にいたい、側にいて欲しい』って思う女は、そうそう出会えないし、下手したら…………一生会う事がないかもしれない」
怜に説教されているみたいで癪に障るが、ごもっともだ、とも侑は思う。
「今日の二人…………どことなく様子が変だよな。お前と九條さんとの間に何があったのか俺は分からないが、もし侑が九條さんの全てを受け止められ、彼女を愛しているなら、九條さんに正直な気持ちを打ち明けてもいいんじゃねぇの? 目の前で起こっている奇跡…………逃すのは勿体ねぇよ」
「…………」
怜の言葉が、侑の心の奥底にズシリとのし掛かる。
(目の前で起こっている奇跡…………か……)
その後、侑と怜は互いに無言のまま、コーヒーを口にしていた。
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