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 アリスさんは微笑みを浮かべたまま、黙って俺の話を聞いてくれた。

 その間、アリスさんの隣に座っていた真奈は、両足をぷらぷらさせながら、ちびりちびりとオレンジジュースを飲んでいた。

 そういえば、真奈はいったい、どこでこの女性――アリスさんと知り合ったのだろう。ふたりはいったい、どういう関係なんだろうか。血縁、というわけではなさそうだけれど、しかしふたりの様子を見るに、真奈がまだ今よりも幼かった頃からの知り合いのようだ。もしかしたら、真奈の親がアリスさんと知り合いで……といった感じだろうか。

 思いながら、俺は壊れてしまった眼鏡を取り出すとそれを机の上に置き、

「これ、直すことできますか?」

 するとアリスさんは、すっと眼鏡に手を伸ばすと、矯めつ眇めつしながら、

「――うん。これならまだ、大丈夫だと思います」

 そう、俺を安心させるように優しく言った。

「この折れたところを、くっつけるだけでいいんですよね?」

「はい」

 俺は頷いて、ほっと安堵のため息を漏らした。

「でも、どうやって直すんですか? ハンダとか、そういうのですか?」

「……ハンダ?」

 きょとんとしたように、アリスさんは呟いた。

「なにそれ?」

 真奈も小首を傾げながら訊いてくる。

「ハンダってのは、ほら、アレだよ。熱で溶かして金属をくっつけたり、基盤を作ったりとか――」

 そう説明してみたものの、アリスさんも真奈も顔を見合わせて「よく解らない」というような表情だ。

「いいえ、そういったものは使いません」

 首を振るアリスさんに、俺は眉間にしわを寄せつつ、

「じゃぁ、どうやって直すんです?」

 それに対して答えたのは、満面の笑みを浮かべた真奈だった。

「それはもちろん、魔法だよ」

 その瞬間、俺は思わず「は?」と呆気にとられる。

「魔法?」

 何言ってんだこいつ。魔法で眼鏡を直すって? まさか本気じゃないよな? アレだろ? アリスさんの技術が魔法みたいに凄いって意味だよな?

 俺は首を傾げて、アリスさんの方に向き直る。

 アリスさんは目の前のテーブルに折れた眼鏡を置きなおすと、それに向かって両手をかざし、小さく息を吸った。それから囁くように、何か歌を歌うように、その口から言葉を発した。それは明らかに日本語じゃなくて、けれど今まで聞いたことのある外国語でもなくて。

 いったい何をしているんだろう、そう思っていると、突然折れた眼鏡が強く光り輝きだした。最初は白く淡い光だったけれど、アリスさんの歌に呼応するようにその光は白から黄色、オレンジ、金色からまるで虹のような輝きに包まれて――俺はあまりの眩しさに瞼を閉じた。

 それからほどなくして、

「もう、目を開けて大丈夫ですよ」

 アリスさんのその声に、恐る恐る瞼を開く。

「――え」

 その途端、俺は自分の目を疑った。

 さっきまで確かに折れていた眼鏡のブリッジ部分が、俺が壊すその前のように完全に直っていたのである。

「あ、え? マジで?」

 俺はその眼鏡に手を伸ばして、もう一度まじまじと検める。

 ぽっきりと折れてしまっていたはずのブリッジには折った跡なんてどこにもなくて、もしかしてあの一瞬で新品と入れ替えでもしたんじゃないかと思ってしまったけれど、確かにレンズの部分に入った擦り傷や弦の歪み具合はじいちゃんの眼鏡に間違いなかった。

「これ、いったい――」

 そう呟き、アリスさんの方に顔を向けると、

「だから言ったでしょ? 魔法だって!」

 真奈がニヤリとおかしそうに笑んで言った。

「アリスさんはね、モノを直す魔法が得意な魔女なんだよ。すごいでしょ? 驚いた?」

 ――本当に?

 確かめるように、俺はアリスさんに無言で視線をやった。

 アリスさんは小さく吐息して、

「はい」

 短く、そう返事する。

 俺はもう一度眼鏡を眺めながら、綺麗にくっついたその様子に感嘆した。

 本当に魔法ってあったんだ、と驚くのと同時に、そんな魔法で眼鏡を直してくれたアリスさんに頭を下げた。

「ありがとうございます。これで、婆ちゃんも悲しまずに済むと思います」

「良かったです」

 とアリスさんは微笑んで、

「次は壊さないように気を付けて、大事にしてあげてくださいね」

 それに対して、俺は大きく頷くと、

「――はい。もちろん」

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