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11 - 【第二章】第2話 出逢いの記憶(日向司・談)

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2023年09月27日

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「個室が空きましたので、こちらをご利用下さい」

席まで案内され、靴を脱いで中にあがる。畳に掘りごたつといった古民家の様な雰囲気の室内だ。ちょっと気持ちがほっとするのは懐かしさを感じるからだろう。

俺達が座ると、メニューを俺達の前に置き「こちらお使い下さい」と、まだ少し熱いおしぼりを差し出してきたのでそれを受け取る。

「ありがとう」

「お手洗いはこの通路を奥に進みまして、右手になります。飲み物の注文はございませんか?」

「んと、俺は唯ちゃんがいいかなー」

「あはは!お客様、その様なメニューはございませんよ?メニューの中からお願いします」

まだ素面なのに酔っ払いの様な発言をした桐生の言葉をサラッと流し、俺達の注文を待つ。慣れてるな流石に。

「俺はビールで」

「んじゃ俺も」

「中ジョッキでよろしいですか?」

「ああ、頼むよ」

「かしこまりました!すぐお持ちいたします」

居酒屋定番のやり取りをし、桐生に『唯』と呼ばれる彼女は、店の奥の方へと戻って行った。


彼女の後ろ姿を視線で追いながら、ニヤーと桐生が笑う。さっきの発言といい、今の顔といい、酒も飲んでいないのに既に酔っ払いだコイツ。

「惚れてるのか?」

疑問のままにするのも面倒で、率直に訊いた。

「いやいやいや、違う。そんなんじゃない。もっと…… なんていうか、ファン?推し?まぁそんな感じだな」

「彼女はアイドルじゃないぞ?」

「今や何にだって信者やファンが出来る時代だぜ?誰を推したっていいんじゃないか?」

「え、そうなのか?いや、まぁ…… そうかもだが。あれはどう見ても子供だろうが」

そうだなと、素直に納得は出来ない。結局は居酒屋の店員でしかないんだから。

だが奴は、「ちっちっち」と言いながら指を立てて横に振る。

「甘い…… 甘いよ、お前は何もわかってない」

何が甘いかの方がサッパリわからない。テンションが無駄に高い桐生は呆れながら足を崩し、俺は壁に寄りかかった。

「ああいった外見の子が、すごい有能な店員だったらグッとこないか?ギャップがいいっていうかさ」

「…… そんなもんなのか?ってか、有能か否かって誰が決めてるんだよ」

「この店じゃアンケート用紙に応援したい店員の名前が書けるんだよ。んで、彼女は開店時からずっとトップらしいぜ?」

「発表でもしてるのか?そのランキングは」

「いいや、俺独自の情報網だ。店員達の給与にそれなりには影響するみたいで、皆すごい頑張ってるんだぜ」

胸を張り、桐生が自慢気に話す。

「そういった能力はさ、もっと仕事に使えよ…… 」


「おまたせいたしました!中ジョッキになります」

テーブルにそれを置き、お通しも二つ出される。正直俺はこの『お通し』ってシステムが嫌いだ。好きでもない、美味しくもなさそうな小鉢に強制的に金を払わされると思うとイライラする。結局の所は席代なんだろう?それならば席代なら席代と書いて、同じ値段を請求された方がまだマシだ。そのせいで、小鉢の中身も見ないでムスッとした顔になってしまった。

「こちらはまかない料理の中で人気が高かった品をお出ししております。当店自慢の料理ですので、よければ召し上がってみて下さい」

こちらの様子を見ていたんだろうか?店員がお通しの説明を詳しくしてきたのを初めて聞いた。話の締めに笑顔も見せてくれ、不覚にも可愛いなと思ってしまった。

「他のご注文はお決まりですか?」

「いやーごめん!話してて決めてなかったわ」

「では、決まりましたらそちらのボタンでお知らせ下さい。失礼いたします」と言って彼女が退室して行く。その所作も綺麗でちょっと見入ってしまう。


(それにしても、ちゃんとこちらの様子を見てるんだな。ランキングで一位なのも頷ける)


「初めて見たよ、あんなふうに説明してくれる事もあるんだな」

桐生がそう言って、不思議そうな顔で頭を傾げた。

「しないのか?普段は」

「俺はされてないな。お通しだし、向こうは食べてもらえなくったって金取れるんだ。『こちらお通しですー』って置いてくだけで、あえて食ってみろ美味いぞとは勧めてはこないんじゃないか?」

「ふーん。そうか」


(…… 普段は、しないのか)



それから二時間くらいは飲んでいたと思う。仕事が同じという事もあって、ほとんどがそういった話になった。個室なので周囲を気にする事無く、外で話しても差し支えない程度ではあるが、直前まで抱えていた事件についても少し話した。

焼き物専門なだけあって、焼き鳥などの料理がすごく美味い。少し運ばれてくるまで時間はかかるが、人気の店だって話だからまぁそれは仕方ない事だと妥協出来た。

その代わり、出てくる料理は全部焼き立てですごく熱かった。桐生が勧めていただけあって、餃子がとにかく美味く、追加で頼んでしまったくらいだ。

最初に勧められたお通しも言われた通りに美味しかったし、この店ならまた来てもいいかもしれない。


この席の担当なのかただの偶然か。常に料理やお酒を持って来てくれるのはあの小さい店員だ。

酔った勢いもあり、ついどうしても気になって「身長…… なんぼなの?」と訊くと、照れくさそうに頭をかきながら「女の秘密です」と言われ、こっちまで照れてしまった。

「お客様はとても身長が高いようですが…… 失礼ですがどのくらいあるんですか?」

「俺はね、一七五センチだよ!」

すっかり酒で顔の赤い、桐生が先に高らかに教えた。

「お前は訊かれてないだろうが!」と、即つっこむ。

「最後に測ったやつで百九十近かった気がするかな…… 」

「お、大きいですね」

彼女が俺の身長を聞き、かなり驚いた顔をする。ここまでの身長は彼女の周囲にはいないのかもしれない。

「四十五センチも違うのか…… 」

ポロッと自分の身長につながる言葉が出ていたが、本人は気が付いていないっぽかった。

そうなると一四五センチって事になるが、それって小学生か中学生くらいの身長じゃなかったか?いくら日本人でも、こんな場所でバイトする年齢だって事を考えると、流石に小さ過ぎるんじゃ…… 。

「——失礼します。先輩、こっち頼めますか?」

廊下から別の店員に声を掛けられ、彼女が慌てて立ち上がる。

「では、ごゆっくりどうぞ」

そう言って、彼女が俺達の席を後にした。


「小さいとは思ってたが一四五とはねー。ビックリだな」

ビールを飲みながら、桐生が言う。

「別に誘導尋問した訳でもないのに、あっさり『女の秘密』をばらしたな」

はははっと笑いながら「そうだな」と同意する。今さっき彼女が運んで来た枝豆を手にしてそれを口に放り込んだ。

「お前の身長に驚いたんだろうよ。その目立つ身長どうにかしろっ」

「好きで伸びたわけじゃないぞ。勝手に伸びたんだ。それに、俺の友達の中ではこれで普通なんだよ」

「おいおい、お前の友達って巨人族か何かか?」

ギョッとした顔でそう言われ、それほど驚く事なのかとちょっと思ったが…… まぁ確かに、平均以上がワラワラと集まるのは珍しい事なのかもしれないと納得した。

「俺は生粋の日本人だが、昔っからの友達連中の背が高いのは、ハーフの奴だったり、クォーターだったりするせいだな」

「うへー。一体どこで知り合うんだよ、んなレアポップ人間。正直羨ましいぞ!」

「高校だ。一般的な出会い方をした、古い友人だよ」

そんな話をしていると、久しぶりにアイツらに会いたくなってきた。皆仕事が忙しい年齢だからすぐには無理だろうとわかってはいてもそう思ってしまうのはきっと酒のせいだな。

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