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第31話:行方不明の核 ― “未来資源”への道
港の朝。
灰色の空の下、巨大な貨物船が静かに横たわっていた。
コンテナの側面には「大和国 協賛物流」と刻まれ、緑のラインが波間に反射していた。
リュウセイ(28)は、作業用の防塵マスクを外し、汗をぬぐった。
灰色の作業服に水色のラインが走り、胸元のバッジには「港湾監査官」とある。
手に持つ端末には、無機質な数字が並んでいた。
「積荷確認、これで最後だな……」
隣の若い作業員が答える。
「はい、“医療燃料コンテナ”として登録済みです。中身は……」
「見るな。中身を知ると書類が増える」
リュウセイは短く言い、視線を海に向けた。
積み荷はすべて封印され、緑のテープで厳重に封じられていた。
管制棟のスピーカーから、明るい女性の声が流れる。
「本日も“未来資源”の輸送にご協力ありがとうございます。
大和国はあなたの安心に支えられています」
その一言に、作業員たちは無意識に手を止め、静かに頭を下げた。
暗い部屋、港から離れた丘の上。
緑のフーディを羽織った Z(ゼイド) が、モニター越しに貨物船を見つめていた。
画面上の衛星地図には、大和国の各島々を示す赤い点がいくつも点灯している。
「回収した核弾頭は“研究用資源”としてラベルを貼り替えた……。
行方不明、とは“管理下に置いた”という意味か」
Zは小さく笑い、指先で画面の赤点をなぞった。
「薄めれば資源、濃ければ抑止力。結局どちらも“安心”の言葉で包める」
昼のニュース。
街頭スクリーンにはテロップが流れる。
【旧雨国の残存資源、全量確保へ】
【国軍と協賛連合が共同管理体制を発表】
アナウンサーの声は穏やかで、街行く人々は安心したように頷いた。
「やっぱり大和国は頼もしいね」
「核のことなんて、もう怖くないわ」
カフェのテーブルで、ラベンダー色のスカーフを巻いた女性が微笑んだ。
その背後の壁には、緑色のポスターが貼られていた。
《未来を守るのは、安心の資源》
港の倉庫。
日が沈み、作業員が去った後も、リュウセイは一人だけ残っていた。
封印されたコンテナのひとつが、かすかに振動している。
鉄鋼の外壁の隙間から、淡い光が漏れていた。
「……ほんとに、医療燃料なのか?」
つぶやく声が静寂に沈んでいく。
彼は端末を開き、確認コードを打ち込もうとした。
しかし、画面には赤い警告が浮かんだ。
《閲覧権限なし》
リュウセイは息を呑み、視線を上げた。
倉庫の天井カメラが、彼を正面から見下ろしていた。
その夜、報道はこう締めくくられた。
「これで、旧雨国の“核”はすべて安心の管理下に置かれました」
Zはモニターを閉じ、独りごちた。
「安心の管理下、ね……。
安心という檻の中で、誰が最初に目を覚ますのか」
港の片隅で、ひとつのコンテナがわずかに光った。
そこに刻まれた文字は——
「大和国 未来資源 No.001」