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夕焼けに響き渡る幾多もの銃声音。そして上がっていく火の手。
『stop! You stop!』
各々の銃口は侵入してきた、たった一人の者へと向けられている。
瞬間――四方八方から断続的に火を噴く銃口。
これ程の一斉掃射の前では、蜂の巣で人体等原形も残らない筈だ。
「…………クク」
だが射殺処か止まらない。その者は悠然と歩みを進める。
『why!?』
誰もが目を疑い、そして震撼した。瞳に映る、言語を絶する存在に。
“全身に防弾チョッキを身に纏い”――なんて次元の話ではない。
最初から銃弾が届いていないのだ、その者には。
純白のフードを纏ったその者が手を翳すと、何故か各々の銃身が暴発。その繰り返しだ。
全滅は時間の問題。現場は既に阿鼻叫喚の地獄絵図が展開されていた。
『Ahhhhhhh!!』
爆散する半身。響き渡る断末魔。
その惨劇の中心で、ネオ・ジェネシス『三柱神』――コード『ハイエロファント』は高らかに宣言した。
「天に弓引く愚物共よ、神はお怒りである。受けよ――裁きの雷を」
高々と掲げる手。その上空には轟音と共に雨雲が形成されていく。
そして――
“ライジング・ハンマー・ハイエクスプロード ~紫電の鉄槌――焔雷高圧灰塵”
幾重にも連なった落雷は一つの巨大な閃光の柱となって、眼下に映る全てを焦土と化したのだった。
それは正に旧約聖書に記された、ソドムとゴモラを滅ぼしたメギドの火――インドラの矢が如く。
遠目にその光景を目撃した者達は、世界の終焉が訪れたと絶望に打ち拉がれたという。
「ふむ……」
焦土と化した地にコード『ハイエロファント』は一人、周りを伺いながら立ち聳えていた。
彼は両の視力が機能していないがゆえ、五感が常人の比ではない。此処等一帯の生体反応が全て消失を実感。
“任務完了”――なのだが。
「――流石だね。援護に来たのだけど、どうやらその必要も無かったみたいだね」
不意に背後から掛けられる声。
「エンペラー!」
ハイエロファントは振り返り、即座に敬礼。其処には何時の間にか純白のフードを纏ったエンペラーと、チャリオットの姿も在った。
ネオ・ジェネシス『三柱神』が再び集う。彼等の目的は――そして何故、“此所”を破壊する必要が有ったのか。
「造作も無い事です。人には決して抗えぬものが有る。これで世界状勢はかつてない程、変わる事でしょう。あの『9・11』以上に」
「どうやら、そう簡単にはいかないみたいよ?」
得意気に語るハイエロファントを余所に、チャリオットが口を挟んだ。
「何だと? それはどういう――!」
直ぐに気付いた。その意味に。何時の間にか三人は包囲されていた。
上空には戦闘機や軍用ヘリが夕焼けの空を埋め尽くし、地上にはけたたましい音と共に、おびただしい数の装甲車が。
この行為がこれらの状況を引き起こすのは、ある意味当然の事。
最初から分かっていた。それ即ち、世界“そのもの”を敵に回すという事に。
「ふん……無駄な事を。余程早く死にたいと見える」
だが三人以下、ハイエロファントはこの現状も意に介さない。
「でも流石にあの数は時間的に骨が折れそうね。エンペラー、ここは一つ“アレ”を」
ハイエロファントとは逆に、チャリオットは状況対応への難色を示し、エンペラーへとある事を進言する。
「そうだね。人が如何に神の前では無力であるか、それを知らしめる為にも良い機会だね」
エンペラーもそれに同意。
「新たな再生には、古き破壊が必要……ふふふ」
「さあ――行くよ」
「御意」
エンペラーの号令の下、三人は御互い背中合わせに立った。
“エンペラー×チャリオット×ハイエロファント――トリムールティ(三神一体)”
三人から輝く光が螺旋状に放たれ、そして混じり合っていく。これは御互いの特異能に依る力なのか。
「下手をすると地球全体に影響が有るかもね……」
チャリオットがこの力の発動を危惧する。かつて雫と時雨がそうしたように、これは明らかに融合異能。しかも三人に依る同時発動。
二人で五倍として三人だと――その規模は計りようがない。
三人から成る光の奔流が集束し、目を背けたくなりそうな“何か”が起きようとしている。
それはかつてない、大いなる破滅を示唆していた。
大地は激しく揺れ、大気は震撼し張り詰めていく。
「……抑え気味にいくよ。星そのものが無くなったら元も子も無い」
「あくまで地球有ってのものだもの……ね」
「此方は何時でも大丈夫だ」
「さあ行くよ――“神嵐”」
そしてエンペラーの号令下、それは放たれた。神々の力を――
“メガクラスター・ゴッドウォール・グラヴィテンペスト ~超重量子集束暴嵐放陣”
瞬間――猛烈な竜巻が拡大しながら、天を突き破らん迄に上空へ巻き上げていった。
三人の特異能が一つになる時、各々の異なる力の反発が化学反応により連鎖爆発を引き起こし、その時に生じる莫大なエネルギーの発散が大規模化な暴風圏を生み出す。その時の力の中心点は核融合反応をも凌駕し、未曾有の大災害を引き起こす事だろう。
大自然の猛威が起こす力は脅威だ。どれ程に科学が発達しようとも、自然現象の前では所詮人間の存在等、ちっぽけな蟻程度でしかないという認識を、改めて思い知らされる事となる。
かつてないであろう“人為的”に発生した暴風圏は、眼下に映る全てを一瞬の内に呑み込み、天へと浄化していった。
――この日、衛星軌道上に観測史上最大とされる、大規模な暴風圏が観測された。それも予想だにしない、余りにも突然の発生である。
そして捉えていた。発生源から成層圏を超えて伸びる、一本の巨大な光の柱の存在を。
それは無限の宇宙の果てへ向けて、何処までも伸びているかのように見え、あたかも地球から外部へ向けての光通信にも思えた。
その光景は神々しささえもあり、後に専門家は『審判の日』とも云われるこの日の記録的な災害も相まって、これを『審判の柱』と称したという。