テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
ごく普通の平民としての暮らしをこなしていた俺は、貴族との決闘に負け、何の因果なのか、貴族として転生した。
ルミディア王国エルシア公爵領の第七子、アステル・リ・エルシア。それが俺の新しい人生。
ルミディア王国は、「魔法大国」として各国に知れ渡っている。その中でも「エルシア」といえば、数百年にわたり、様々な分野での才能を輩出してきた家系だ。
前世の俺が住んでいた小国にも、その噂は伝わっていた。魔術を研究したいと常々願っていた俺にとって、これほど運の良い話もないだろう。
それから幾年もの時が流れ、今では12歳。この屋敷での暮らしも、随分と慣れてきたように思う。
ちなみに、前世で死んでアステルとして生まれるまでの間は、あまり時間が経っていなかった。およそ半年後といったところか。
俺は兄弟の中では末っ子なので、家督を巡る面倒事も無いし、まだまだ子供ということもあり、あまり領の統治に関わることもなかった。
おかげで俺は、比較的自由な暮らしを満喫することができている。
今日も書庫へ行って、魔術書を読み漁ろう。魔法大国というだけあって、数百万冊にも上る蔵書量がある。
前世でいろんな魔術の考察をしていたおかげか、難しい分野も理解はできた。
一通り基礎は習得できたから、次は応用を始めようかな。
魔術が好きなのは隠すつもりもないが、さすがにあの馬鹿げた威力を人前で出すのは控えている。
もしバレれば、きっと面倒なことになるだろう。家督を継ぐ候補の1人にでもされたら、たまったものではない。そうなれば、今の魔術の研究も、自由にできなくなってしまうだろうからな。
「アステル様ー! どちらにおられますかー!」
いよいよ書庫に着く⋯⋯と思ったところで、甲高い女性の声がした。俺は慌てて壁の角に身を隠す。
危ない、危ない。見つかったら⋯⋯。
「おや、アステル坊っちゃん。いかがなさいましたか」
「ちょ、バートラン、しー!」
この屋敷の老執事であるバートランが、タイミング悪くも話しかけてきた。ここまで来て、見つかりたくはない⋯⋯のだが。
「見つけましたよ〜? アステル様♪ 今日も書庫へ行こうとしていましたね? 座りすぎは身体に悪いです。さぁ、私と一緒にお外で遊びましょう!」
声を聞きつけてやってきたのは、俺の教育係兼専属メイドのクラリスである。俺に目線を合わせるためにしゃがみ、長い氷銀色をしたポニーテールを揺らしている。
その笑顔は優しくも、どこか有無を言わせぬ迫力があった。
クラリスは俺があまりにも長い時間書庫に引きこもるため、健康を気にして度々外へ連れ出そうとしてくるのだ。余計なお世話なのだが、善意100%なのであまり文句も言えない。
「⋯⋯わかったよ、クラリス」
「そんな残念そうな顔をしないでください。本は午後からでも読めますし、今日はとってもいい天気です。剣術ごっこでもしましょうか」
不満げな顔を浮かべながらも、俺はクラリスに引っ張られていく。振り返ると、バートランがなんだか申し訳なさそうにしていた。まぁ、こればっかりは仕方ない。
だだっ広い中庭に出て、木剣を選ぶ。すでに準備を終えたクラリスが、嬉しそうな顔をして構えた。 立ち姿には隙がない。
クラリスは俺の兄と同じ師のもとで剣術を学んだらしい。以前城下へ遊びに行った時、クラリスが不良に絡まれていたのだが、あっという間に相手の剣を奪って懲らしめていたのを覚えている。
根の真面目な美人だが、少しおっかないところもある。それがクラリスという人物だ。
327
花月夜れん
2,065
柴田
224
#バイオハザード
そまもんた@ペア画募集
621
だからこちらも本気でやらなければ、すぐにバレてしまう。俺は手の中にある剣を確かめると、一気に打ちかかった。クラリスがそれを受け止め、木剣が何度もぶつかり合う。
「いいですね! 日に日に上達しておられますよ、アステル様!」
俺が振り下ろす剣を受け流し、口元に余裕の笑みを浮かべながらそう話しかけてくる。こっちは必死だ。元々運動嫌いの俺にとって、このスパルタな時間は地獄としか言えないものだった。
1年前、初めて剣を握り、クラリスと剣術ごっこをした時、俺はボコボコにされた上で泣かれた。クラリスが、思っていたよりも弱すぎるのだという。11歳の子供に何を期待していたのやら。
それからというもの、毎日のように木剣を持たされて、剣術ごっこに明け暮れた。
まさしく地獄。もはやごっこ遊びの領域を超えている。
カン! コン! ガキン!
木剣がぶつかり合う音が響く中で、俺は魔法を発動する。
無属性下位魔法──『剛身』
肉体の筋力・耐久力を高める付与魔法である。これで体格差による力の差は埋められるはずだ。
さらに、木剣に魔力を流し込み、厚みを薄くする。その分だけ刀身を長くし、硬さはそのままにする。これでだいぶ戦いやすくなった。
ズルと言われるかもしれないが、これだけは譲れない。許せよ、クラリス。俺は早く本を読みに行きたいんだ!
ガキィン⋯⋯!
「おわっ!?」
「フフッ、私が見逃さないと思いましたか?」
体勢を崩され、俺の首元に木剣が突きつけられる。今日も負けてしまったが、決着がついたので剣術ごっこは終わりだ。これでゆっくり本が読める。
「『剛身』で自らを鍛え、魔力で木剣を作り変える⋯⋯。なんと素晴らしい才能なのでしょう! 将来がとても楽しみですね!」
クラリスが嬉しそうに何か言っているが、大袈裟だろう。下位魔法なんて、魔力と操作技術があれば、誰にでもできるものだ。まぁ、前世の俺には無理だったのだが。
「じゃあ、俺は書庫にいるから」
「はい、お疲れ様でした。ごゆっくりお休みください。」
疲れた様子で中庭を出ていく俺を、クラリスはニコニコの笑顔で見送るのだった。
コメント
3件
めちゃくちゃ面白かった!
みぃだよ🤍🥀 第2話、読んだよ〜。 転生先が魔法大国の貴族で、しかも蔵書数百万冊って最高すぎる…! アステルがこっそり魔法使って剣術ごっこを乗り切ろうとするの、めっちゃわかるし、クラリスがそれを見抜いてる感じも好きだな。面倒事を避けて本を読みたい気持ち、すごく共感するよ。次も読ませてね🌙