テラーノベル
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突如やってきた男は自らを「ヒーロー」と名乗った。
マモルはまだ理解が追いつかず、目の前の男に視線が釘付けになった。
身体のラインがはっきりわかる引き締まった全身スーツに、赤いマントを身につけたヘンテコな出立ち。
しかし、確かにどこかで見たことのある風貌だった。それこそ、テレビか何かで……。
「我が名はターミー=ウロノス。貴様、何者だ」
マモルの思考は低い地響きのような声によって中断された。
見ると、牛型の怪人が彼の男に話しかけていた。先程まで無意味と思われる謎の奇声を発していた怪人が、冷静に人語を話し出したのだ。マモルは奇妙な恐怖心に襲われた。
自称ヒーローの男が口を開く。
「俺はヒーローだ。お前を倒しにきた」
「何だと? ヒーロー? 人間界はおかしな場所だと聞いてはいたが、まさか我々の邪魔をする者がいようとはな」
「お前の目的は何だ。街をここまで破壊しておいて、一体なにがしたい」
「我々の目的は、人間どもを絶望の淵に落としてやることだ。恐怖を与え、後悔に咽び泣く様をこの目で見てやろうと思ってな」
「そんなことはさせない。俺がこの手で食い止めてやる」
そう言うと、ヒーローを名乗る男はぐっと体勢を低くして、拳を構えた。
その姿を見て、牛型の怪人は愉快そうに笑った。
ひとしきり笑った後、突然身も凍るような抑揚のない声でこう言った。
「お前、死ぬぞ」
「かもしれない。だが、俺は逃げない。それが俺に与えられた使命だと思うからだ」
「ふん。ならば、死ね」
そう言うが早いか牛型の怪人が巨体に見合わぬ速度で男の背後に回った。
巨大な斧が男の後頭部めがけて振り落とされる。
マモルが「あっ」と思った瞬間、男は残像を残して消えたかと思うと、既に牛型の怪人の背後に回り込んでいた。
そして、物凄い轟音と共に怪人の背中目掛けて拳が突き出された。
衝撃波と突風が吹き抜けて、怪人は血反吐を吐きながら吹っ飛ばされる。
地面に何度もバウンドしながら倒れ込み、再び起き上がると地面を蹴って男に飛びかかった 。
男はますます威力の上がった斧による攻撃を素手で受け止めた。そして、ガラ空きになった腹部へ思い切り蹴りを入れる。
強烈な一撃をもらった怪人を腹を押さえて後退し、片膝をついた。
そこへ男がぐっと腕を引いたかと思うと、怪人の顎目掛けてアッパーを繰り出した。
怪人は上空へ10メートルほど浮き上がり、そのまま地面へ垂直に落下した。
砂埃が舞い、地面が軽く振動する。
「す、すごい」
マモルはこの二人の戦いを目で追うのに精一杯だった。どちらも並大抵の人間が認識できる速度を超えていた。
怪人はふらふらと立ち上がり、ゆっくりと男の方を見る。 そして、また耳障りな声で言葉を紡いだ。
「……なるほど。お前はヒーローと名乗るだけあって確かに強い」
「だったら降参するんだな。お前はもう負けている」
「だが、このターミー=ウロノス様に楯突いたのが運の尽きだ。まさか人間相手に使うとは思っていなかったが、やむを得まい」
そう言うと、怪人は自らの腕を斧で軽く切った。
「お前、何をしているんだ」
「くくく。覚悟しろ」
不気味な笑みを浮かべたかと思うと、怪人は雄叫びをあげた。
血管が浮き上がり、鼻息が荒くなり、全身からオーラを放ち出した。
男が身構える。
それより早く、怪人は距離を詰めて男の首を掴んだ。
「くっ」
「だから言ったんだ。覚悟しろとな」
怪人はそのまま飛び上がり、遙か上空から男を投げ飛ばした。
男は地面に激突し、周囲に波紋状のヒビができた。
すぐさま男が立ち上がり、まだ上空にいる怪人へ向かって飛び上がった。
それに合わせて怪人も男めがけて斧を振り落とす。
雷のように襲撃が先に来て強烈な音が後から響き渡った。マモルは身を伏せて身体を隠した。
怪人と男は空中から落ちながらラッシュを続けた。男は殴りつつ攻撃をいなして、怪人はメチャクチャに斧を乱打し続けた。
僅かに地面に着地するのが早かった男が地面を蹴り上げ、その勢いで怪人に飛び膝蹴りを喰らわせた。
「がふっ」
怪人は半回転し、そのまま倒れるかと思われた。しかし、地面に向かって斧を振り落とし、地面をえぐってそのままさらに回転し、体勢を立て直した。
その勢いで両手で目一杯力を入れた斧による攻撃を男の脳天に向かって無慈悲にも強打した。
男は地面に埋まれんばかりに落下した。
怪人は攻撃をやめず、地面に倒れた男を何度も斧で殴り続けた。
男はたまらず両手でガードし、斧が振り上がった一瞬の隙から身体を起こし、ストレートパンチを怪人に浴びせる。
怪人は吹っ飛ぶが、まだ立っていた。
「まさか、ここまで強いとはな」
「こっちのセリフだぜ。怪人は今までにも何度か倒したが、こんなに手こずったのは初めてだ」
「このターミー=ウロノスは、怪人界でも腕が立つと名が通っている。強くて当たり前。それを奥の手を使っても倒せんとは、驚いたぞ」
「こっちはこの力を得てまだ時間が経っていないもんで、名は通っていないが、人間界なら最強を自負できるくらいだ」
「ふん。人間ごときにここまでの傑物が何匹もいてたまるものか。まさにお前は最強だろう。しかし、そのうち思い知ることになるぞ。最強ゆえの苦悩をな」
「なに? どういう意味だ」
「さて。これ以上やっても決着はつくまい。今は帰ることにしよう」
「あ、おい」
そう言うと、ターミー=ウロノスと名乗った牛型の怪人は、空高く飛び上がり何かをぶつぶつ詠唱した。
男は飛び上がってそれに向かった。
だが、怪人は謎の黒い煙と共に跡形もなく消え去ってしまった。
男は舌打ちをし、そのまま地面へ降りた。そして、身を隠しているマモルの方へ歩み寄り、優しい声で言った。
「大丈夫かい」
「だ、大丈夫」
「ここはもう警察が来るから、君は保護されると思う。安心して家に帰れるさ」
「うん……。でも」
「うん?」
「お姉ちゃんが。お姉ちゃんが、死んじゃった」
「え?」
マモルは今になって涙がとめどなく溢れてきた。ようやく非現実的な状況から、姉がいなくなった事態が現実化したのだ。
男は困惑した表情で辺りを見まわし、一際目立つ血痕を発見した。
慌ててそちらに駆け寄ったが、しばらく無言になり、マモルの方へゆっくりと歩いてきた。
そして、強く抱きしめた。
「ごめん。ごめんよ。俺が来るのが遅かったばかりに間に合わなかった」
「ううん。僕のせいなんだ。僕が、体が弱くて、それで、その場で動けなくなって……」
「違う。君のせいなんかじゃない。俺がもっと早く事態に気づいていればこんなことにならなかった」
マモルは何も言えず、ただ泣き続けた。
「きっと、君のお姉さんは強かったんだね。君を守ったからこそ、俺が来るまで君は生き延びたんだ。君にとってのヒーローはお姉さんだったんだ」
「うん。僕にとってお姉ちゃんはヒーローで、とてもかっこくて、大切な存在だったんだ」
「……何か、俺にできることはないかな」
「命を守ってもらえただけもう十分だよ。でも、一つだけ教えて欲しいかも」
「なんだい」
「お兄さんの名前は?」
「俺? そうだな。俺がヒーローだってことは、バレないようにこんなスーツも着て、マスクを被って、名前も隠してるんだけど、君には特別に正体をばらしてもいいかもな」
「本当?」
「ああ。ちょっと待って」
男はマスクを脱ぎ、顔を見せた。
そして、名を名乗った。
「俺の名前は、西京宏。ヒロって呼んでくれ」
これが、マモルと西京宏ことヒロとの出会いだった。
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