テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
第2話 泣けるドラマの罠
配信
「こんばんは〜、“はごろもまごころ”だよ!」
カメラの前に、今日も二人の姿。
まひろは黄色い半袖シャツにデニムの半ズボン。足はぶかぶかのスニーカーで、まだ幼さの残るふくらはぎが見えている。髪はつやつやのぱっつん、瞳はきらきら。ランドセルは今日は部屋の隅に置かれていた。
ミウはパステルグリーンのワンピース姿。胸元の小さなブローチが光り、髪は緩やかなカールで肩にかかる。白いカーディガンを羽織って、柔らかさを強調するように微笑んでいる。
「ねぇミウおねえちゃん。昨日のドラマ、観た?」
まひろが嬉しそうに声を上げる。
「え〜♡ 観たよぉ。泣けるやつでしょ? 家族が支え合うお話!」
「うん。僕も泣いちゃった。でも……なんか、変じゃない? 泣ける場面ばかりで、本当に“心にいい”のかなぁって」
コメント欄がざわつく。視聴者は「確かに泣かせすぎ」「作り物っぽい」と反応し始めた。
疑惑の芽生え
まひろは首をかしげ、眉を寄せる。
「人を泣かせてばかりいるドラマって、逆に心を疲れさせちゃうんじゃないかな」
ミウが頬に手を当て、ゆるく笑った。
「え〜♡ でも感動って素敵だよ? でも……もし製作の人が“泣けるかどうか”ばかり気にしてたら、ちょっと怖いよね」
「うん……僕はただ、みんなに“ほんとに感動してるのか”考えてほしいんだ」
無垢な声が、視聴者に疑いを芽生えさせていく。
レイNews記事化
その夜、ニュースサイト「レイNews」には記事が5本並んだ。
1. 人気ドラマ、感動の押しつけか? 視聴者に疲労感も
2. SNSで囁かれる『泣きすぎてしんどい』の声
3. 制作現場の証言「まず泣かせろ、と繰り返される」
4. 脚本家の過去発言を検証 “涙は数字”発言の真意
5. 専門家コメント「感動はストレスにもなる」
本文は淡々としたニュース調。「一部の意見」を膨らませ、あたかも社会現象のように描く。脚本家が数年前に冗談交じりで語った言葉も「冷酷な価値観」として引用されていた。
群衆の暴走
翌日、SNSは「泣かせ商法」という言葉で溢れた。
「ほんとに疲れるだけだった」
「子どもが観て暗くなってた」
「もうこの脚本家の作品は観ない」
まとめサイトが「泣かせドラマ批判急増」と記事化。ワイドショーでは「感動ポルノ?」とコメンテーターが言い出す。
視聴率は急落。スポンサー企業は「ポジティブなイメージと合わない」と広告を取り下げた。
ドラマ制作側は急きょ脚本を修正するが、炎上は止まらなかった。
クライマックス
一週間後、番組は予定より早く最終回を迎えることが決まった。
「人々を泣かせた名作」は、「人々を疲れさせた失敗作」として歴史に刻まれる。
結末
同じ夜。
「はごろもまごころ」の配信画面に、ランドセルを抱えたまひろと、ふんわり微笑むミウが映った。
「僕……ただ“泣けるってほんとにいいことなのかな”って思っただけ」
まひろの目はきらきらしたまま。
ミウは微笑みを崩さずに言う。
「え〜♡ でも、みんなで考えられたんだから大成功だよね。
ね、まひろ?」
「うん!」
コメント欄は「気づきをありがとう」「正義の子どもだ!」で埋め尽くされた。
画面の裏で、ミウの指先は再び「レイNews」の管理画面を叩いていた。
翌朝用の新しい記事タイトルが、もう三本入力済みになっている。
> 画面の向こうで涙を流したのは視聴者だけではない、切り捨てられた制作陣もまた静かに泣いていた。