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「私には、失う物もないし、日陰の人生を歩むしかない。暗い人生を歩む選択肢しかないんだったら……私と一緒にいて楽しいって思ってくれる男といた方が……いいでしょ?」
優子が頬に掛かる前髪を、照れくさそうに掻き上げた。
「それと…………アンタにひとつ聞いていい?」
「は? 何だよ急に」
「アンタが唯一好きになった…………瑠衣さん……。彼女とは…………助け出してから会ってないの?」
「いつだか、店に顔を出した後、車で都内を走ってる時に、恋人と一緒にいるのを見掛けた。俺は……彼女の恋を応援するって決めたし、瑠衣ちゃんが幸せなら……それでいい」
「そっか」
優子が薄く目を細めると、拓人は不服そうな面差しを向ける。
「あんたこそ、どうなんだよ? 元恋人の事は吹っ切れたのか?」
「もうとっくに忘れたよ。この前、立川のホテルのロビーで、彼が奥さんらしき人と一緒にいるのを偶然見たけど、私が彼に選ばれなくて当然だなって思ったよ」
女が、ハハハッと乾いた笑い声を上げた。
「じゃあ…………アイツは?」
「……え?」
彼は、躊躇いながらも、優子を一途に愛し続けた男を持ち出すと、微かに顔色を変える。
「せっ……専務は、私の尊敬する上司だよっ! いきなり何を言うかなぁ……!? ってか、アンタにとって、私はヤリ友なんでしょ? ヤリ友に他の男の事を聞いて、どうすんのよ」
この場の雰囲気を濁そうとしているのか、女は焦燥感を含ませながら答えた。
「いや…………俺、あんたに対して、今はヤリ友なんて思ってない」
「へぇ。じゃあ、セフレに昇格したって事だねっ」
「…………揶揄うなよ」
拓人の神妙な表情と声に、優子はポカンとしながら彼を見やる。
「よく言うよ。アンタだって散々私を茶化したクセに!」
女が人差し指で、拓人の引き締まった頰に、ツンと触れる。
(…………廉の事を引き合いに出したら……表情を変化させたって事は……。だが、この女といると、どうも痴話喧嘩っぽい雰囲気になっちゃうよな。まぁ……それが楽しいというか、何というか……)
「これからは、私もアンタに負けないように、いっぱいツッコミ入れるんだからねっ」
「ハイハイ。覚悟しておくよ」
優子の文句に、拓人は、ほんの少しだけ唇を緩ませた。