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保谷東
長野の奥まった別荘地には、かなり長い時間滞在していたように思う。
既に日は落ち、街灯もない山小屋周辺は、辺り一面、漆黒しかない。
「ねぇ。もう一度確認するけどさ……。まさか、今日はここで…………宿泊なんてしないよね?」
不安になった優子は、念のため男に聞いてみた。
「俺にとっては、心苦しい思い出しかない場所に、泊まると思うか?」
「まぁ……それもそっか」
「それに…………こんな廃墟みたいな場所で……あんたもヤリたくないだろ?」
拓人の手がゆっくりと伸びていくと、彼女の頬が長い指先に触れられる。
「あれ? それとも、こんな場所でもヤる事に抵抗はないとか?」
筋張った腕に腰を回され、不意に拓人の顔が近付くと、耳たぶを唇に挟まれ舌先で舐め上げられる。
「絶対に嫌っ! っていうか、ヤる前提になってるのが、何かムカつくんだけど」
彼女が男の手首を掴み、ぞんざいに退けながら距離を取る。
「それに、アンタが唯一好きになった彼女…………瑠衣さんが…………ここで酷い目に遭ったんでしょ?」
「…………ああ」
拓人が、やれやれ、と言いたげな表情を浮かばせたが、どこか憂いを漂わせていた。
「さて、そろそろ移動するか。ここは用済みだ」
拓人が窓を閉めながら、次の行き先を思案する。
「そういえば、行っておきたい場所が三ヶ所あるって言ってたよね? 次はどこに行くの?」
「ああ、東京に戻る」
「え? 東京から来たばかりなのに? もう戻るの!?」
「ああ、戻る。いつまでもいる場所じゃないだろ、ここ」
(それにしても、拓人って男……意外とフットワークが軽いというか、何というか……)
弾丸ドライブ、とでも言うのか、彼女は呆気に取られながら目を丸くさせた。
「ほら、行くぞ。あんたも、こんな不気味な場所、早く退散したいだろ?」
拓人は、玄関に向かって足を踏み出す。
「ちょっ…………待ってよっ」
優子も、慌てて男の後に付いていった。
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