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植まどか
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翠
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白子=脳みそ思ってた 😇
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「何事だ!」
グユグの怒声が、陣中に響き渡った。
天幕の前に控えていた将の一人が、慌てて頭を下げる。
「はっ。どうも兵どもが、戦利品の奪い合いから喧嘩を始めたようで……」
「くだらぬ!」
再び怒声が飛んだ。
「敵と戦う前に、味方同士で争ってどうする!」
将は何も答えられず、ただ頭を垂れた。
グユグの苛立ちには、二つの理由があった。
一つは、このグラツィア遠征そのものだった。
中央ルートから国境を越え、山間部を抜けた。
ようやく平原へ出たと思えば――。
そこには、何もなかった。
麦畑は、すでに刈り取られている。
村には人影一つない。
家畜もいない。
倉には穀物一粒残されていなかった。
井戸まで埋められている村すらあった。
兵糧そのものに困っているわけではない。
モンゴリア軍は長征を想定し、十分な食糧を運んでいる。
だが、兵士たちにとって遠征とは、戦争であると同時に略奪の機会でもあった。
ところが、奪う物がない。
ようやく見つけた僅かな金品や家畜を巡って、今度は味方同士で争い始めた。
「……忌々しい」
グユグは、誰もいない平原を睨みつけた。
敵は戦わない。
城にも籠もらない。
ただ、逃げる。
そして、自分たちが進む先から何もかも消していく。
戦えば勝てる。
だが――。
戦う敵がいなければ、勝利すら得られない。
そして、もう一つ。
こちらの方が、グユグにとっては遥かに重要だった。
父、大カーン・オゴタイが即位して以来、帝国は二つの大遠征を進めている。
一つは、オゴタイ家を中心とした南シナ帝国への遠征。
そして、もう一つが――。
ジュチ家のバトウを総司令官とする征西だった。
だが。
南シナ遠征は、思うように進んでいない。
それに対し、バトウはどうだ。
キプチャンを屈服させ。
ヴァンガルド帝国を滅ぼし。
その皇帝を捕らえ。
今やエウロピアの奥深くまで軍を進めている。
その軍功は、あまりにも巨大だった。
グユグは無意識に拳を握り締めた。
(もし、今――)
(クリルタイが開かれれば)
想像するだけで、腹の底が煮えたぎる。
王族も。
諸将も。
各部族の長も。
誰一人として、バトウの言葉を軽んじることはできない。
征西軍を率い、これほどの国々を滅ぼした男だ。
たとえジュチ家の人間であろうと――。
いや。
だからこそ、危険だった。
(バトウの軍功を、このまま大きくしてはならぬ)
グユグは平原の彼方へ目を向けた。
(儂が勝たねばならぬ)
ただ勝つだけではない。
誰の目にも分かるほどの、大勝利。
バトウの征西に並ぶ――。
いや。
それを霞ませるほどの戦果が必要だった。
だが、目の前には敵軍すらいない。
麦もない。
村人もいない。
財宝もない。
あるのは、どこまでも続く空っぽの平原だけだった。
その沈黙が。
まるで自分を嘲笑っているように思えた。
「何ですか、そのキンキラな衣装」
ユンナは、呆れた顔でサイラスを見た。
いつもの地味な軍装ではない。
金糸の刺繍が施された上着。
遠目からでも一目で分かるほど、派手な格好だった。
サイラスは両腕を広げてみせる。
「似合う?」
「聞いてません」
「派手に逃げようと思って」
「……まじめにやってください」
ユンナは額を押さえた。
だが、サイラスは気にした様子もなく、自分の袖を眺めている。
「いや、大事なんだよ」
「何がですか」
「逃げるなら、敵に見つけてもらわないと困るだろ」
「…………」
ユンナは何も言わなかった。
たぶん、聞かない方がいい。
そう判断したらしい。
その頃。
ガイロ将軍のもとに集まった兵は、およそ二万。
対するグユグの軍勢は、五万を超えていた。
まともに戦えば、勝ち目はない。
北部砦に籠もるという選択肢もなかった。
そもそも、砦は二万もの兵を収容できるほど大きくない。
無理に押し込めば、兵は身動きが取れず、
包囲されれば逃げ場も失う。
サイラスは、あっさりと砦を捨てた。
そして、自ら戦場を選んだ。
アイルジャールの森。
ガラリア丘陵の南に位置する、一帯の森林地帯である。
三方を深い森に囲まれ、
中央には比較的開けた土地が広がっている。
大軍が展開できる場所は限られていた。
騎馬兵が自由に走り回れる場所も少ない。
五万という数を、そのまま五万として使うことのできない土地だった。
ガイロは地図を睨みながら、低く唸った。
「ここで戦うのか」
「ああ」
「二万で五万を?」
サイラスは首を振った。
そして、アイルジャールの森を指先で軽く叩いた。
「五万と戦ったら負けるでしょ」
ガイロが顔を上げる。
サイラスは笑った。
「五万を、五万でなくしてから戦う」
グラツィア領へ侵入して、三日。
ようやく、敵の姿が確認された。
「おそらく先遣隊と思われます」
斥候が報告する。
「数は、およそ千騎」
「千?」
グユグは顔を上げた。
「はっ」
「本隊の姿は?」
「まだ確認できておりません」
側近の一人が尋ねた。
「どうされますか」
グユグは鼻で笑った。
「決まっておろう」
ようやく見つけた敵だった。
村は空。
畑は刈り取られ。
敵兵は姿すら見せない。
三日間、何もない土地を進み続けてきた。
その苛立ちが、一気に吹き出した。
「ようやく見つけた敵の影だ」
グユグは立ち上がった。
「先遣隊がいるということは、敵の本隊も遠くはあるまい」
諸将の顔を見渡す。
「騎兵を先行させろ」
そして、口元を歪めた。
「逃げる暇も与えるな」
「なぶり殺しにしろ」
「はっ!」
諸将はそれぞれの持ち場へ戻った。
ほどなくして、騎兵隊が本隊を離れる。
蹄の音が大地を揺らした。
一千騎。
二千騎。
さらに、その後ろから次々と騎馬が続く。
久しぶりに現れた獲物を逃すまいとするかのように。
モンゴリア騎兵は、猛烈な勢いで南へ走り始めた。
その頃――。
ガラリア丘陵の上に、一人の男が立っていた。
金糸で飾られた上着。
陽光を反射する装飾。
戦場には、あまりにも場違いなほどきらびやかな衣装だった。
遠くからでも、誰が指揮官なのか一目で分かる。
サイラスは丘の上から、迫ってくる騎兵を眺めていた。
「来ました」
隣にいたユンナが言った。
「ああ」
「すごい数ですよ」
「ああ」
「……逃げるんですよね?」
サイラスは振り返った。
「そのための服だろ」
そして馬へ跨がる。
丘の下では、千騎の兵がすでに退却の準備を整えていた。
サイラスはもう一度、迫る敵軍へ目を向ける。
距離は、かなり縮まっていた。
敵の先頭からも。
この派手な衣装は、よく見えているはずだった。
サイラスは笑った。
「じゃあ」
手綱を引く。
「派手に逃げようか」
その言葉を合図に。
一千騎は、一斉に丘を駆け下りた。
まるで追ってこいとでも言わんばかりに。
ガラリア丘陵から。
アイルジャールの森へ向かって。
コメント
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いやー、サイラスの「派手に逃げる」発想、めっちゃ好きです😂💕 金糸の衣装でわざと目立って囮になるって、頭いいしカッコよすぎる!! グユグの苛立ちもすごく伝わってきて、五万の軍勢を相手にどうやって「五万でなくしてから戦う」のか、続きが気になりすぎる…! アイルジャールの森にどんな罠が待ってるんだろう😭✨