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第2章 第15話
「一陽来復」
「……なにしに、来た」
扉の前に立つゼグレを見た瞬間、部屋の空気が一段冷える。 なんで今こいつが。――いや、今だ。今聞いてやる。あの夜のこと。
「……あの夜のこと――」 「……あの夜――」
同時に口を開いて、互いに止まる。 先に、ゼグレが言った。
「……仕方なかった」
「……あ??」
一体、何を言って――
「俺は元々、殺し屋だ。身内が人質に取られた。東幻の王族――詩丸を殺せと命じられた。……それだけだ」
「ま、待てよ。はぁ……? なんだよ、それ……」
許せって言うのか。そんな短い言葉で、済むわけがない。
「どういうつもりだ……! “それだけ”……? ふざけんなよ……!!」
「文字通りだ。詩丸を殺さなきゃ、俺と身内――妹が殺されていた」
「じゃあ、なんでてめーがここにいんだよ……!!」
ゼグレは表情を変えない。
「……任務に失敗したからだ」
「な、何言ってんだよてめー……! 詩丸先輩はてめーに殺されただろ!」
「違う。命令は“首を持って帰れ”だった」
「それじゃあ……任務は失敗……!? 詩丸先輩は……一体何のために……」
ゼグレは淡々と続ける。
「俺は任務に失敗した。このまま国に帰れば殺される。……そこでセラフィナと契約を結んだ」
「……!?」
「“妹の安全を保証する代わり、孤誓隊として最善を尽くせ”」
「それが……てめーがここにいる理由なのか……?」
「そうだ」
もう…意味わかんねぇよ…
こいつは憎い。大嫌いに決まっている。
だけど…こいつの立場になって考えたらどうだ?
妹人質に取られた挙句任務は失敗。双呪にかかった相手から死ぬほど恨まれて……。
ーー双呪?
ーーそういえば、なんで双呪になったんだっけ
ーーそうだ。あの夜の…紫黒の…
「…お前 覚えてるか?紫黒髪の包帯野郎」
「忘れるわけない」
「……あいつをぶっ倒して双呪を解除したあとだ。お前をぶん殴るのは」
「それでいい。俺も、そのことを話そうと思っていた」
「へっ。目的は一緒みてぇだな」
アクラは睨みつける。
「……だが、あの夜のことはぜってえ忘れん。おれはお前を許したわけじゃねぇ……!」
「……わかった」
それだけ言って、ゼグレは無表情のまま部屋を出ていく。
去り際、ふたりとも同時に口を開きかける。
「そういえば――」 「そういや――」
「そもそも、どうやって……?」
言葉は最後まで出ないまま、扉が閉まった。
そのあと、セラフィナから数枚の資料が届いた。 魔族に関する情報を書け、という指示。捕虜と肉片の研究は、まだ続いているらしい。
結局アクラは夕方まで部屋で寝た。安静が最適解だ。 丸一日休んだおかげで、痛みは少しだけ引いた――その時。
バンッ!!
ノックもなしに扉が勢いよく開く。
「な、なんだ!?」
そこにいたのは――光月。
「アクラァ! 今すぐ準備だァ! みんなもう待ってるぜェ!」
「準備……!? また戦うのか!?」
「あァ? 違うぜェ。“温泉”の準備だァ!!!」
「……はぁ??」
半ば強引に手を引かれ、長い廊下を引きずられるように進む。 光月のゴリ押しで、今から一時間半、孤誓隊“十六歳組”貸し切りにしたらしい。
「ちょ、待てよ! みんなって誰のこと――」
寮の隣にある大きな温泉施設。入口には――ゼグレを除く同期が揃っていた。
「うおおおお!! 来たな! ダチよ!!」
るるくらげ
いと
#和風ファンタジー
バロロが抱きつこうとする。
「ストーップ! 今抱きついたら死んじゃうよ……!」
困ったように笑うジャック。
「アクラさんは男だから我ら女子が待つ必要は無かったんですけど……さすが刹那ちゃん! 女子の隣人愛ですね!」
いつものように女尊男卑を貫くエペ。
「当然よ。仲間だもの」
刹那が少しだけ格好つけて言う。意外とノリがいい。
「それじゃ、ボクたちは先行ってるよー。ほら行くぞ、ツヴァイ」
クレイが意地悪く言う。
「えっ、じ、自分も……?」
嫌そうに付いていくツヴァイ。
「わーい! あーし達も行くのだー!」
みずきは本気で嬉しそうだ。
アクラは内心驚いていた。 東幻の文化だと分かっていたが。まさかゾラン王国にもここまで浸透してるとは。
文化自体は同じらしい
女子更衣室
「えへへ。温泉、実は初めてなんだよね」
「えぇ? でもジャックの部屋、お風呂は付いてないはずなのだ」
「そうなんだよね。恥ずかしくて……でも初日は友達に貸してもらったんだ」
「わぁ! 親切な女子友達ですね! 誰だったんですか??」
「光月くんだよ!」
「……へ?」
空気が止まる。
「…………あの男塵、ぶっ飛ばします」
エペの殺気が立つ。
「ちょっと待って。ジャックさん。ゾラン王国では湯船は“そのまま”が普通よ。タオルは外して入るの」
「えっ!? で、でもそれじゃ……」
ジャックは顔を真っ赤にする。
「ゾラン王国は裸が普通なのだ!」
みずきが勝ち誇ったように言い、さっさと脱ぎ始める
「ふっふ〜。大人の魅力なのだ!」
ポーズをきめるみずき。恐ろしく似合わない。
「そ、そうなのぉ……?」
ジャックも覚悟を決めて頷いた――が。
「……ジャック。ほんとに十六歳なのだ?」
「ち、ちがうよ……遅生まれだから、まだ十五」
「じゃあなんなのだそのくそでかおっぱーー」
「はいはいストップ。そろそろ湯船につかるわよ」
刹那がいいところで釘を刺す
「そうですよ。ジャックちゃんが困ってます!(正直我もそれくらいのサイズならいいのに…… )」
そう。エペの唯一のコンプレックスなのである。
「むきー!なんかみんなずるいのだ〜!!」
男子湯
広い湯船に沈むと、骨の奥まで熱が染み込む。 痛みが、少しだけ緩む。
「そういえばさ」
アクラがクレイに聞く。
「お前とエペって、どんな関係?」
「……ん? どんな関係って?」
「いや、兄妹っぽいなーって思ってさ」
クレイは鼻で笑った。
「あは。なに言ってんのさ。あんなのがボクの妹なわけないじゃん。――なーんだ、てっきりイヤらしい質問かと」
「ち、ちげーよ!」
「親戚。しかもかなり遠い。顔も全然似てないでしょ?」
(……いや、似てるだろ)
髪質も背の高さも、目の色も。性格がめんどい感じも。 違うのは表情だけだ。
エペはパッチリとした大きな目、自信のありそうな顔だがクレイは全てを小馬鹿にしたような目と常にニヤついた口元。
少し離れた場所では、バロロが大声で光月とツヴァイに武勇伝を語っている。
「そこでオレが魔族の腕を吹き飛ばしたんだ! それはもう百メートルは飛んでたな!」
「す、すっげェ!」
「……たしか数メートルだった気が……」
「ま、マジか!? でもなんか、めっちゃ飛んだ気がするぜ!」
「ど、どっちなのか分からねェ……!」
アクラは思わず笑いそうになる。 生きてる。くだらない。安心する。――それが、今は救いだった。
「……さて、ボクはもう消えるから」
クレイが湯から上がろうとする。
「うおお! クレイ早いぞ! 熱湯我慢比べだ!」
「やだね。汗臭い。筋肉バカとは違うの」
そう言って、クレイは背を向けた。
同い年とは思えないほど白く整って、腹立つくらい絵になる体をしていた。
「はぁ……やっとどっか行った」
ツヴァイが小さく漏らす。
「おぉ!? なんだツヴァイ! もしかしてお前、クレイが嫌いなのか!?」
バロロの無神経が炸裂する。
「き、嫌い……? は、はい。多分……」
「そこは嫌いって言えよォ!」
光月の笑い声が湯気の中に響く。
そこから先は、どうでもいい雑談に溶けた。 光月が女子風呂を覗こうと言い出し、バロロが作戦を聞いただけで興奮して大声を出し、女子に即バレして撤退――という最悪の流れまで含めて。
(……こいつら、楽しむ才能はあるのかもしれない)
そして、ここにいると不思議と安心できる。 アクラは、久しぶりにそう感じていた。