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るるくらげ
いと
#和風ファンタジー
第2章 第16話
「前途洋々」
「兄妹……ねぇ」
自室への帰り道、空はもう漆黒に染まっていた。 クレイは相変わらず自分より大きい剣――クレイモアを担いだまま、何でもない顔で歩く。
「……いや、やめよ。考えるだけ無駄無駄」
……なのに。 胸の奥に引っかかった言葉が、しつこく蘇る。
「……もし、本当にそうだとしたら」 「殺してしまいたい」
吐き捨てるような独り言は、夜気に溶けた。
朝。 今日から本格的な訓練と授業が始まる。
午前9時。誓刃校四階、角部屋の座学室で授業――らしい。
「やっぱ今日しかねぇ!うおおお!」 「ちょっとは静かにしろっ!この間苦情きたばっかだろ!」
バロロとアクラは廊下を歩きながら口げんかをしていた。
「ジャックちゃんと喫茶店……!くぅぅ!!楽しみだーーッ!!うおおーーッ!!!」 「だからうるせぇーーーーッ!!」
数日前、馬車で話してた“例の話題”。 バロロはまだ燃えてる。
8時40分。 座学室の前に到着して、アクラは一瞬だけ顔をしかめた。
妙に窓がデカい。 装飾がやたら派手で、趣味が悪い。 “金持ちの悪ノリ”みたいな部屋だった。
中にいたのは――
「ご機嫌よう。今日はいい天気ね」
闇音刹那。 彼女は、約束の“1時間前”にはもうここにいるタイプらしい。
「あれ?エペは?いつも一緒じゃないのか?」 「彼女は朝が苦手だもの。無理にワタシに合わせる必要はないわ」
……いつもくっついてるの、エペ側だったのかよ。
8時50分。 「うぅ……この教室ってことは、まさかあの先生……」
ツヴァイが入室した。 冷や汗が止まってない。口の中で何かぶつぶつ言ってるが、よく聞き取れない。
8時55分。 「お、おはようございます!」
ジャックが入ってくる。 ノートと書物を抱えすぎて、戦闘じゃなく勉強で死にそうになってる。
「おっ!ジャックちゃん!」 バロロが気持ち悪い呼び方をした。
「はぇ……?」 アクラも反射で声が出る。
「こっち来いよ!席空いてるぜ!!」 「えっ?あっ、うん!!」
バロロの席は窓際。隣にアクラ。 必然的に、ジャックはアクラの隣になる。
アクラは席を交換できた――できたけど。 ここでキョロ充根性が炸裂する。 バロロの“ショック顔”を見たかった。
「ガ、ガーン……」 「わかりやすっ……お前」
9時。 「ま、間に合った……!」
勢いよく扉を開けて入ってきたのはエペ。 今日はいつものポニーテールじゃなく、低めで緩く結んでいて髪も少し乱れてる。
――寝起きだ。分かりやすすぎる。
9時10分。 「今日はいい天気だァ!オレ様も一層輝くぜェ!!!」
ナルシストこと清水光月。 香水の匂いが教室を侵略し始めた。
「先生、遅いわね」 刹那が言う。そりゃそうだ。彼女は1時間前から待ってる。
「そういえばここの座学室の先生ってどんな人なんですか?」
ジャックが聞くと、ツヴァイだけが露骨に固まった。
9時20分。
次に入ってきたのは――霧雪ゼグレ。
「あのやろ……」
アクラは目を合わせようとする。 でもゼグレは目を逸らし、一番奥の上段席へ座った。
9時25分。 「あれ?まだ先公来てないの?」
でかいクレイモアを担いだまま、ノートだけ持って入ってくるクレイ。 いちばん後ろ、窓際へ座る。
9時30分。 「か、風邪ひいたのだぁ……」
みずきが鼻水を垂らして到着。
「クレイィ、診てやれよォ」 光月が言うと、クレイは悪びれずに笑う。
「別にいいけど。内科は専門外だから、どうなっても知らないよ?」 「や、やめとくのだ……」
「それにしてもマジで来ないな」 「どうせ男の教授なんでしょーね」
誰かがそう言った――その矢先。
ガシャァァン!!!!
窓が勢いよく割れ、何かが突っ込んできた。 ――人!?
「はぁぁぁ〜〜〜い♡ 初めましてぇ!留年くんはお久しぶりぃ! 永遠の20代♡ クラグレア先生でぇぇぇ〜〜〜す♡ 今日からここの教室ではっ、“属性に沿った魔術学”を学んでもらいま〜〜す♡」
……ヤバいのが来た。 声とテンションが、まず人間じゃない。
ウェーブしたツインテールに、背中へ一本だけ垂れる三つ編み。ギラついた大きな目は瞳孔が開きっぱなしで、笑ってるのにまるで獲物を見てるみたいだった。口は半開きで舌が覗き、ギザ歯まで見える。白黒レースにフリル、金刺繍を混ぜたピエロみたいな貴族服、鐘のついた帽子、袖もスカートも千切れたような装飾――全部が派手なのに、なぜか“清潔”で、逆に気味が悪い。見た目は二十代前半。でも、空気だけが年齢不詳の狂気だった。
ちなみに「留年くん」はツヴァイのことらしい。 ツヴァイは泣きそうになっていた。
「ヤバいのが来たねぇ。逃げ出そうか」 クレイがニヤつく。
「う、うそなのだ!こんなのが先生なわけないのだ!」 「そ、そうだァ!そうだァ!」
「……いや……あってますよ……」
ツヴァイが小さく言った瞬間、空気が凍った。 本当に教師なのかよ、これ。
「ここにはぁ、双呪の戦士くんもいるらしぃですかぁらね〜〜」
クラグレアの視線がゼグレに刺さる。 セラフィナとは違う、“興味”の匂い。もっと生々しい。
「さぁて、まずは紙を配っちゃいまぁす♡ そこにねぇ、アナタの属性、書いちゃってくださいねぇ〜〜」
――属性。戦士なら誰でも持っている“力の核”。
バロロは迷いなく書いた。 (爆。オレはもともとこれが向いてたらしいからなぁ)
光月。 (フッ……水。オレ様の美しさを倍にするぜェ)
ジャック。 (えっと……雷。エレクトロアークも雷だもんね)
皆がサラサラ書き進める中、アクラの手が止まる。
(……あれ。そういえば、おれの属性ってなんだ……?)
しまった。 基礎体術と剣術ばっかりで、魔術をちゃんと教わってない。 気まずいなんてもんじゃない。 もしかして――役立たず?
反射で後ろを振り返り、ツヴァイの紙を覗く。
(煌)
「くっそ……こいつも持ってんのかよ……!」
そのとき。
「す、すいません。我……まだ自分の属性が決まってないです」
言い出したのはエペだった。
「え――」 アクラは一瞬固まってから、即便乗する。
「お、おれも……!」
「アクラさん……あなたも……!?」
エペが目を丸くする。
クラグレアは嬉しそうに、首を傾けた。
「んんんんん〜〜〜?これはぁ困りまぁした〜〜!! 無属性、ってのも面白いですがぁ……あったほうがいいのでねぇ」
クラグレアは指を鳴らすみたいに手を叩いた。
「さてさぁて!おふたりには自己分析してもらってぇ、 属性を今週中に見つけ出しちゃいましょぉ〜〜♡」
ジャックが恐る恐る口を挟む。 「で、でも属性って……もっと時間がかかるはずじゃ……」
「大丈夫でぇすよぉ〜♡ おいらはここのベテランですからぁ♡」
……本当に信じていいのか、これ。
今週中。 軽く言うな。
(……忙しくなりそうだ)
アクラは、胃の奥が嫌な形に沈んでいくのを感じた。
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