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「えっ、そうなんですか? もしかして、オタマジャクシは網を使わず素手で捕まえていましたか?」
男性は体ごと私に向け、パッと目を輝かせる。
「もちろん。田んぼでは素足に素手が基本ですっ」
彼の見せる純粋で、まるで少年の様な澄んだ笑顔につられてニッコリと笑った。
「そうかぁ。オタマジャクシの掴み取りかぁ。懐かしいな。――この土地に移り住んで長いんですか?」
男性は夜空を見上げたあと、穏やかな眼差しを私へ戻した。
「高校を卒業してからなので……今年で十五年になります」
「家族で越して来たんですか? それとも、大学進学か何かで一人でこちらに?」
「はい、高校を卒業して一人で。私が住んでいた町の付近には大学がないんです。家を出るのに気がかりなことはありましたけど……高校に入学した時から、一人で名古屋に出るつもりでいました」
軽く揺らす足首に視線を落とし、微かな笑みを作った。
「……そうですか。女の子が一人で田舎から出てくるのは心細かったでしょう」
「大学に入ってからは、慌ただしい日々が続いたので……いつの間にか月日が流れたって感じですね。
目標とするものに向かう事に必死で、家族や故郷から離れた寂しさを感じる余裕も無かった気がします。……薄情者ですよね」
夜風に吹かれ頬に触れる髪をそっと耳にかけ、足首から離した視線を男性に向けて苦笑した。
「その目標は達成できましたか?」
「はい。とりあえず第一関門は突破しましたが……まだ未熟者なので。追い続けるための課題がたくさんあります」
男性を見つめ返した後、目の前に広がる街のネオンを眩しそうに眺めた。
「……貴女は、薄情者なんかじゃありませんよ」
男性は柔らかな声色で沈黙を解いた。
「え?……」
私は男性に視線を戻し、瞬きをした。
「目標に向かって頑張り続ける貴女の姿は、きっと貴女が大切に思う人の支えになっているはずです。目標を見失わずに前進しようとする貴女は、とても魅力的だと思いますよ」
男性は柔らかな口調でそう言うと、私を宥めるかのように小さく頷いた。
「あ……いえ、……ありがとうございます。すみません、何だか一人でペラペラと……」
突然、顔がカッと熱くなる。
やだ……
何で初対面の人に、こんな自分の事を……重い話をしちゃったんだろ……。
私に気を使ってくれてるんだよね……
私、本当はこの人を困らせちゃったかも知れない。
彼の優しい笑顔に戸惑いながら、両手で握ったコーヒーの残りを一気に飲み干す。
「いえ、貴女と話していると楽しいですよ。貴女が持っている雰囲気なのかな……とても穏やかな気持ちでいられる」
男性は微笑みながら、私の手の中にある空き缶を然り気なく摘み上げ、自分の横に置いた。
「……もうこんな時間だ。名残惜しくても、そろそろ帰らなくてはいけませんね。
もし良ければ、地下鉄の改札口までご一緒させて下さい」
男性は腕時計を見ながらそう言葉を続けると、自分のコーヒーを飲み干し、ゆっくりと立ち上がった。
ハッと思い出したように携帯を取り出して時計を確認すると、時刻は二十三時を示していた。
「あの! 実は、ちょっと忘れ物をしちゃって……私はホテルに忘れ物を取りに行ってから帰ります」
慌てて立ち上がり、男性の横顔に声を掛ける。
「忘れ物?……こんな時間だ。僕も行きますよ」
「そんな、とんでもない!……あ、迷惑とかではなくて、本当に大丈夫ですから。
この通りは明るいし、まだまだ人通りもありますから」
私は右手をブンブンと左右に振り、未だにコンビニの前にたむろする若者たちへ「ほらね」と視線を向けた。
「……そうですか。では、そこの交差点まで一緒に行きましょう。ちょっと待っていて下さい。ゴミを捨てて来ますから」
男性は小走りでコンビニの明かりへ向かった。
「……」
そこの交差点まで……か。
彼の背中を見つめていると、無意識に深いため息が漏れた。
えっ……!?
滑稽にも、漏れた自分のため息に驚き目を丸くする。
コメント
1件
おおお、第25話!!😭✨ このエピ、めっちゃ良かった〜!! お互いの距離がじわじわ縮まってく感じがたまらんのよ…「名残惜しくても」とか「そこの交差点まで一緒に」って台詞、切なさと優しさがにじんでてエモすぎる…! 主人公が自分の話しちゃって照れるシーンも、すごくリアルで「わかるわかる…!」ってなったよ💕 続きが気になりすぎる〜!!!🌸