テラーノベル
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二週間後。
颯介は、新宿二丁目にあるバー『紅子デラックス』を訪れていた。
今日は珍しくひとりだ。紅子に相談したいことがあり、足を運んだ。
「なあに、相談って。この前、二人で婚約の報告に来てくれたばかりなのに……。まさか凛ちゃんと喧嘩でもしたんじゃないでしょうね」
「いや、それはないです」
「じゃあ、何なの?」
「実は、凛の婚約指輪のことで悩んでいまして……」
「ええっ? どういうこと?」
「凛に婚約指輪を選ばせようと思ったら、それは嫌だと言い出して……」
「えっ? まさか婚約解消したいとか?」
「いえいえ、そうじゃないです」
「じゃあ、何よ」
「婚約指輪は、私に選んでほしいって言うんです……」
紅子は大きく目を見開いたが、すぐに穏やかな笑顔を浮かべた。
「なーんだ、そういうこと!」
「はい。で、どういう基準で選べばいいのか……。この年になってお恥ずかしいんですが、アドバイスをいただけたらと」
「あらっ! 真壁さんって、今までさんざんモテてきたでしょう? それでも分からないの?」
「はい。今までの女性たちは、とにかく高級ブランドを与えておけば喜ぶタイプだったんで……。でも凛はブランド物に興味がないみたいで、どうしたものかと……」
困り果てた颯介の様子に、紅子は思わず吹き出した。
その声に気づいたスタッフのナッツが近づいてくる。
「どうしたの、ママ」
「ふふふ……だって、真壁さんったら可愛いんだもの」
「なになに、どういうこと?」
「凛ちゃんにどんな婚約指輪を選べばいいのか分からないんですって」
「何それぇ~! おもしろ~い! キャハハハッ!」
ナッツまで笑い出し、颯介は困ったようにぽつりと言う。
「本当に困ってるから、今日ここに来たんですよ。何かいいアドバイスはありませんか?」
紅子はなんとか笑いをこらえると、真剣な表情に戻った。
「そうねぇ……。凛ちゃんが好みそうな指輪、どんなのかしら……?」
そのとき、ナッツが思い出したように声を上げた。
「そういえば前に、映画に出てきた指輪の話をしてたわ」
「どんな話?」
「あれはたしか、恋愛小説家が主役の映画で……」
「それって、あの大ヒットしたやつ?」
「そうよママ、それ!」
「あれは当時すごく話題になったじゃない! あのプロポーズのシーンは有名だもの」
「凛ちゃん、あれにすごく憧れてたみたい」
「ふふっ、やっぱりね~」
話についていけない颯介は、そこで口をはさんだ。
「どんな映画ですか?」
「たしか……『水野リサ』っていう人気作家の恋愛小説を映画化したやつで、タイトルはなんて言ったっけ~?」
「私もタイトルが出てこないんだけど、内容はたしかこうよ。男性が満天の星空の下で女性にプロポーズするの。二人で夜空を見上げていたら流れ星が流れて、男性が『落ちてきた星を拾った』って言って星を拾うふりをするのよ。可愛いでしょう? それで、男性がそっと両手を開くと、手のひらにダイヤの婚約指輪が載っている……そんなシーン。あれは本当にロマンティックだったわ~♡」
「私もあのシーン大好き! 女の子ならみんな憧れるわよねぇ」
「うんうん」
うっとり語る二人を横目に、颯介は携帯を取り出し、『水野リサ 恋愛映画 プロポーズシーン』と検索した。
すると、満天の星空の下で男性が女性の指にダイヤのリングをはめるシーンが表示される。
その前後には、男性がしゃがんで何かを拾う場面や、手のひらにのった指輪の写真が続いていた。
さらにページを開くと、映画のセリフが記されていた。
『理紗子! 俺、落ちてきた星を拾ったぞ!』
『プッ! そんなことあるわけないでしょう? 騙されるもんですか!』
『いや、マジだって! この手の中に本当にあるんだよ』
『嘘っ! また何かいたずらをしようと思っているんでしょう?』
『本当だって、理紗子本当だよ』
『じゃあさ、その手を開いてみてよ』
『いいのか? 星が逃げちゃうかもしれないぞ?』
『逃げるわけないじゃん、虫じゃないんだから。じゃあね、せーのーで開けてみてよ。いくよ? せーのー……』
『星?』
その心温まるやり取りに、颯介は思わずくすっと笑った。
「これですか?」
「そうそう、これ! この映画、ネットハリックスで見られるから、凛ちゃん何度も繰り返し見ちゃうって言ってたわ」
「なるほど……」
颯介が写真をじっと見つめて考え込んでいると、紅子が言った。
「要するに、凛ちゃんが求めているのは『物語』なのよ」
「『物語』? 」
「そう。凛ちゃんみたいにまじめで一途な子はね、ブランドや値段、ダイヤの大きさなんてどうでもいいの。あの子が欲しいのは、指輪に宿る『物語』。好きな人が自分のために一生懸命選んでくれたという証よ。だからあなたに選んでって言ったんじゃないかしら?」
紅子の言葉に、颯介は深くうなずいた。
続いてナッツが言う。
「あとはシチュエーションよね。一生に一度のことだもの。思い出になるシチュエーションって大事だと思うわ。ね、ママ?」
「あらナッツ。たまにはいいこと言うじゃないの!」
「やだぁ~、あたし、いつもいいこと言ってるのにぃ~」
「そうだったわね、ごめんごめん、許して~」
はしゃぐ二人を見ながら、颯介は思わず笑みをこぼした。
「ありがとうございます。とてもいいアドバイスをいただけました」
「それならよかったわ。人生経験豊富で頭のいいあなただもの、きっとうまくいくわ」
「そうよ! 私たちも応援してるから、頑張って~」
二人に励まされながら、颯介は笑顔でビールをぐいっと飲み干した。
コメント
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ここであのプロポーズが🩷🩷🩷🩷🩷嬉しくてきゃ〜って言ってしまった。 どんなプロポーズするのかな🎵
プロポーズが楽しみ🩷💍瑠璃様のお話はハッピーエンドばかりで毎回違うプロポーズだから楽しみに待ってます😻
紅子さんは凛ちゃんの時もそうだけど気付きを与えてくれるね! 颯介さんが選んだ指輪ならきっと喜んでくれるよ(˵˃ ᵕ ˂˵🫶🏻) どんな風に渡すのかも楽しみだなぁ💗💗