改めてダリルという男を見てみる。
ただの店員というには出来上がったその肉体は俺のそれよりも逞しくしなやかなそれでいて鋼のような印象を与える。
濃い茶色の髪の毛は短く乱雑な様はさながら肉食獣のようでもある。二重の眼は眼光鋭く──っとあまりマジマジ見てると食われかねん。
かたや店員の女の子は薄いピンクの毛が印象的な獣人でキツネのような特徴。目尻の少し上がったクリクリの目は茶色で小さな鼻と口。基本的に口角のあがった笑顔の元気そうな子だ。
白のシャツにオーバーオールと茶色のブーツ。ゆらゆらしてるしっぽも相まって看板娘といったところか。背の丈は140cmほどで、ちょうど170cmの俺の胸の高さくらいかな? やばい見過ぎて変に思われてもこまる。本題に戻そう。
「オオカミ頭を殺す、そのための剣が欲しい」
女の子はニコニコしている。
「ミーナ、この金額でならどう思う?」
ダリルが女の子−ミーナにそう問いかける。
「うーん……オオカミさんになら、油と紅蓮蝶あたりかなっ?」
俺の仲間の仇がさん付けの可愛いものになっているがスルーだ。
「ふむ……鋼と魔石は買いつければ良いか」
「一体なんの話なんだ?」
「もちろん必要な材料の話だ。というわけでお前には油と紅蓮蝶を取ってきてもらう。できるな?」
金を払ったうえで素材収集をやらされようとしている。つまりこれは……。
「安くあげるために素材を自力で持ち込めということか。致し方ない、やるさ。ただ、油はともかく紅蓮蝶というのはなんだ?」
「飲み込みが早くて助かる。紅蓮蝶はここから半日ほど東に行ったところにある小高い丘に棲息する蝶でな。この虫網があればとってこれるはずだ。燃えるような紅い羽が特徴の蝶だ」
そう言っておもむろにカウンターの下から虫網を取り出して渡してくる。こんなものをなぜカウンター下においてあるのか……。
「これは……!?」
受け取ったそれは薄く発光してあり、手にして分かるその重さ。これは金属製……? いや、網の部分が何かしら知らない素材で出来ている。
「それは水龍の髭を編んで作られた特注品でな。紅蓮蝶を生きて捕まえるのに必要なものだ。重さを感じたかも知れないがそれは網の持つ魔力によるものだ。まあ一種の魔道具だな」
魔道具。魔力を持ち得ない人間種が魔力の恩恵を得るために物に魔力を宿し、その力を行使しようと開発されたもの。とても一介の個人で所有できるものではない。ましてやひとに貸し与えるなど。
「売ればひと財産にはなるだろう。それも良しだが、お前はそうはしないだろ?」
見透かされている。考えた事もそれを実行しない、出来ないであろう事も。
「まあそんなことする子なら最初から武器の作成は申し出ないけどねーっ」
「信用されている……ってわけではなさそうですね。むしろただの事実ってことですかね。わかりました、紅蓮蝶捕ってきます。あと油というのは?」
「ブタ頭の魔獣の脂だ」
さっきまでは植物の何かから取るのかなって思ってたけどいきなり肉感が出てきたんだけど、なにそれ。というか
「いや、魔獣を倒す武器がなくて困ってるのに魔獣の脂って!」
「ブタ頭は……そうだな。その通りだ。さて、どうしたものか……」
今のほんとに素で言ってたのか? 考え込んでるんだけどこの人。
「そんなのダリルが行けば? どうせヒマでしょっ?」
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