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#普通
野々さくら
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ありあ
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1970年1月。坪野康仙10歳。
西多摩郡檜原村上空では、三機のUH-1Bが、プロペラ音を轟かせながら山肌すれすれを飛行していた。
プロペラが空気を切り裂くたび、谷間の木々が激しく揺れた。
機内には、防護服とガスマスクに身を包み、64式小銃を抱えた自衛隊員たちが一言も発さず座っている。
張り詰めた沈黙。
その静寂を破るように、ヘッドセットから隊長の声が響いた。
「各員確認。本作戦は新開村の完全焼却だ」
短い間を置き、再び同じ声が流れる。
「繰り返す。本作戦は新開村の完全焼却だ」
隊員たちは微動だにしない。
「作戦コードは『カグツチ』」
その一言だけが、機内の重苦しい空気をさらに冷たくした。
UH-1B飛来と同時刻。
林道では4台の73式大型トラックが、砂利を踏み砕きながら山奥へ進んでいた。
荷台には完全武装した隊員たち。
誰一人として口を開かない。
先頭車両から無線が飛ぶ。
「一号車から各位!」
その声は、ヘッドセットを通して後続車両へと次々伝達されていく。
「一号車から各位!」
「総員停止!」
急ブレーキとともに車列が止まる。
「総員停止!」
先頭の隊員が後列へ伝令を送り、やがて目的地への到着が告げられた。
「作戦区域に到着!作戦区域に到着!総員降車準備!」
号令と同時に荷台の幌がめくられ、隊員たちが次々と地面へ降り立つ。
土を踏み締める軍靴の音だけが、静かな森に響く。
隊長は隊員たちを見渡し、大きく息を吸った。
「隊員各位に告ぐ!」
全員の視線が集まる。
「これより──」
一拍置き、冷徹に命じた。
「新開村緊急焼却計画、もとより
カグツチ計画遂行の為、新開村へ侵攻する!」
一斉に返事が返る。
「了解!」
隊長は拳を握り締めた。
「総員! 私に続け!」
一列となった隊員たちは、ゆっくりと新開村への一本道を歩き始める。
村へ足を踏み入れた瞬間、隊員たちは思わず足を止めた。
家々の軒先。石垣の脇。路地の真ん中。
至るところで村人たちが胸を押さえ、苦痛に顔を歪めながら倒れている。
うめき声だけが村中に響き渡っていた。
一人の若い隊員が震える声を漏らす。
「こ、これは・・・」
周囲を見回し、唾を飲み込む。
「話で聞いていたよりも酷い有様だ・・・」
隊長は振り返ることなく言い放った。
「余計な感情は捨てろ!」
その声には一切の迷いがない。
「我々は命令を実行するのみ!」
若い隊員は表情を引き締め、敬礼する。
「りょ、了解!」
隊長は右手を高く掲げた。
「総員、構え!」
一斉に64式小銃が肩へ構えられる。
その瞬間。
村の上空へ三機のUH-1Bが飛来した。
プロペラの轟音が山間に反響し、空気を震わせる。
ヘッドセットへ再び隊長の声が流れる。
「隊員各位に告ぐ」
隊員たちは息を殺す。
「これより──」
一瞬の静寂。
「『カグツチ計画』を実行する」
そして、もう一度。
「繰り返す! これより
『カグツチ計画』を実行する!」
その直後、UH-1Bの側面ハッチが開き、機内からナパーム弾が投下された。
隊長は空を見上げる。
爆発が起きた瞬間、その右手を勢いよく振り下ろした。
「決行の合図だ!」
鋭い号令が村中へ響く。
「総員、撃て!」
「了解!」
返答と同時に、静寂だった村は一変する。
銃声が一斉に鳴り響き、爆発音が山々へこだました。
燃え上がる炎と黒煙が、新開村の空を覆い始めた。
◇ ◇ ◇
話を一区切り終えた坪野は、憂いな表情で窓の外を眺める。
その光景は55年経った今でも、瞼の裏に焼き付いて離れない。
茜は震える声で呟いた。
「や、やば・・・」
花牟礼さくらも青ざめた表情のまま、言葉を失う。
「自衛隊が・・・」
坪野は静かに頷いた。
「あの時の私は、燃え盛る村で、ただ
怯えて隠れていることしか出来ませんでした」
声に怒りはない。
ただ、深い諦めだけが滲んでいた。
「そして自衛隊員は、村民を
次々と銃で撃ち殺したんです」
部屋の空気が凍りつく。
焔垂がかすれた声を漏らした。
「う、撃ち殺した・・・」
坪野は静かに続ける。
「灰熱病の菌は根絶やしにしなければならない
そういう計画だったんです。カグツチ計画は」
信愛は信じられないという表情で首を振った。
「そ、そんな・・・」
坪野は遠くを見つめたまま、小さく息をつく。
「計画に参加した隊員にも
家へ帰れば愛する家族が居たはずです」
静かに言葉を選びながら続ける。
「最初は、何の抵抗もしない村民を
一方的に射殺する事に抵抗はあった筈」
一瞬、言葉が途切れる。
「しかし──」
坪野はゆっくりと目を閉じた。
「国の為・・繁栄の為だと言われ
自制心が麻痺したんでしょうね」
重苦しい沈黙が部屋を包む。
やがて坪野は、誰に言うでもなく呟いた。
「人間はどこまで行こうと、弱い種族だと言う事です」
その声はあまりにも静かだった。
コメント
1件
うわっ…今回も重かったなあ。でもこの重さが“LastFile”の魅力だよな。 自衛隊の「カグツチ計画」、命令だからって村民を撃ち♡♡♡場面、読んでて息が止まったわ。坪野さんが55年経っても忘れられないって言うのも納得。10歳の目で見た地獄って、絶対消えないもん。 「人間は弱い種族だ」って台詞、染みるわ…。この作品、戦争ものとしてもちゃんと見せてくるところが好き。×××さんの執筆、毎回解像度高いわ。次も楽しみにしてる🔥