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屋敷の中は、外よりも静かで、温かだったが、白を基調とし、ものも最低限しか置いてないからか、空っぽで寂しく見えた。フィーバス卿の性格を表しているというか、これが貴族の屋敷といわれても、何だかしっくりこないようなそんな気さえした。フィーバス卿は、私達の十歩先を歩いている。振向く様子も、足を止める様子もなく、勝手についてこいと背中が語っているようだった。
「アルベドは、この屋敷に来たことあるの?」
「ああ?何だよその質問」
「いやあ、何か、貴族っぽくないというか。まあ!アルベドの屋敷も、ごちゃごちゃしていないし、ものも置いてないんだけど……その、節約家?」
「節約家?別に、使わねえもの置いても仕方ねえだろ」
と、アルベドはいう。確かに、使わないものを置いても意味ないのは全くその通りなのだが、アルベドに言われると、もの凄い説得力がある。私も、いらないものは置かなくていいと思っているのだが、だったら、オタクが集めたアクスタや、ぬいぐるみはどうなのかと言われたら、そのオタクじゃなければ、いらないものだろう。私からしたら、必要なものなんだけどね。
そんなことを考えながら、白と蒼で統一された廊下を歩く。屋敷の中は温かいと勝手に思っていたため、まだ身体が震えているような気がした。さっき、フィーバス卿がくれた上着も、アルベドに渡しちゃったし、今更返してっていっても、アルベドは返してくれなさそうだと思った。
(まあ貴族の皆が皆、ものを置くというか、飾るわけじゃないもんね……)
これまで見てきた、皇宮だったり、ダズリング伯爵家だったり、ブリリアント侯爵家だったり、彼らの屋敷はそれなりにもので溢れていたというか、統一感はあったものの、ものが多い印象だった。ダズリング伯爵家に関しては富豪だし、いうまでもないのかも知れないが。
長い廊下を抜け、フィーバス卿が、談話室に入っていく。私は、アルベドにドアを押さえて貰いながら先に談話室に入り、フィーバス卿に促されるまま席に着く。後から入ってきたアルベドは私の後ろに立って座らなかった。
「え、え、ちょっと、アルベドは座らないの?」
「養子の問題は、お前と、フィーバス卿の問題だからな」
「ええっ!?助けてくれないの!?」
ここに来て、私に投げるのかと、さすがに無責任だと叫びたかった。でも、私がやらなければならないっていうのは何となく分かるし、私の言葉で色々変えていかなければならないっていうのはそうかも知れないんだけど。
不安だな、という気持ちが、渦巻いていって、息が詰まりそうだった。目の前には、表情一つ変えないフィーバス卿の顔があって、それを見て腰が引けてしまう。先ほど、飛んでも発言をした後なので、フィーバス卿も身構えているのかも知れない。また、あんな発言が飛んできたときどう対応しようか迷っているのかも。もう、完全に変な人にしか見られていないだろうなあ、なんて肩を落としつつ、取り敢えずは、私も向き合うことにした。そうじゃないと、失礼だから。
「少しは暖まったか?」
「は、はい!え!はい!暖まりました、と思います、はい!」
いきなり話を振られ、挙動不審MAXみたいな感じで返してしまい、後ろではアルベドにプッと笑われ、フィーバス卿も、唖然とこちらを見ている。いきなり話を振らないで欲しい、私は悪いけど、悪くない、と私はフィーバス卿の方を見る。彼は、笑いはしなかったが、戸惑いを隠し綺麗ない様子で、咳払いをした。
「その様子なら大丈夫そうだな」
「何処が、大丈夫なんだよ」
「おい、アルベド・レイ」
「俺は、別に何も言っていないので~」
軽口を後ろで叩くアルベドに、フィーバス卿の冷たい視線が飛ぶ。確かに、どの様子を見て、大丈夫だと思ったのか。話が進まないからそのようにいっただけだろうが、私もツッコミを入れたかった。とてもじゃないけれど、怖くて出来ないけど。
もう一度、フィーバス卿が咳払いをするので、これまた私の背筋は伸すしかなくて、ぴんと伸びた背筋は、変な音を立てていた。
「それで、ステラといったな」
「は、はい。ステラです。ステラ……ただの、しがないステラ……」
「……アルベド・レイとどういう関係なんだ」
「ええ、っとそれは、ですね。アルベド・レイ公爵子息様も先ほど仰られていたように?ように?ええっと、拾われたものです」
もう、自分でも何を言っているのか分からなかった。アルベドとの関係なんて一言で表せないし、私とアルベドは共通認識で、前の世界からの知り合い、相棒……みたいな感じで行けるんだろうけれど、それをフィーバス卿にいったところで伝わらないのは目に見えている。だから、どういえば良いか分からなかった。この質問に意味はあるのか、それすら分からない。
「まあ、そういうことにしておこう……だが、養子になりたいとなれば、また話は変わってくる」
「と、というと?」
「勿論だが、貴様は、魔力を持った人間なのだろうな」
と、フィーバス卿の透明な青い瞳が鋭くなる。また、一段とピンと背筋が伸びて、私は喉がカチコチにかたまってしまったように擦れた「はい」しか答えられなかった。さすがに、フィーバス卿が、私の魔力に気付かないはずはないのだろうが、それでも、私の口から聞かなければ鳴らないと思ったのだろう。彼の前で、嘘をつける人間がいるなら教えて欲しいくらい、フィーバス卿を前にすると、下手なことはいえないなってなってしまう。
「魔力は、はい。あります」
「だろうな……でなければ、アルベド・レイが拾ってくるはずもない」
「ま、魔力は十分にありますから」
「だが、平民だったとして、これほどの魔力を秘めているものなのか?」
私の返答を無視して、フィーバス卿は顎に手を当てて考えだす。こちらのことなんてお構いなしに、自分の中で、整理し、答えを出そうとしているようだった。私は、それが焦れったくて、どうなのか、どうなるのか早く答えが欲しくて、ちらりとアルベドを見てしまった。アルベドは肩をすくめるばかりで、私を助けようという気はないらしい。まあ、彼も、フィーバス卿が苦手だから、これ以上関わりたくないのだろう。それはいいとしても――
(この時間が気まずすぎる!)
フィーバス卿は何をそんなに悩んでいるのか、私には分からなかった。魔力があれば、すぐ養子として向かい入れる、何てことでは無いと思うし、養子を決めるっていうのは、そんな簡単なことじゃないと思う。だからこそ、吟味が必要なのだが、魔力のことは、それも、私自身の魔力のことは、私が一番知っていると思うので、私に聞けばいいのに。まだ、フィーバス卿に信頼されていないのか、疑われているのか、兎に角こちらに話を振ってくれなかった。
そうして、暫く、五分ぐらい経って、フィーバス卿は私の方をやっと見た。私は再度、背筋を伸し、顔の筋肉を固めてみた。それでも、引きつった頬が、不格好だったかも知れない。どうせ、フィーバス卿はそこに関して突っ込まないだろうからと、私は深く考えないようにした。
「貴様の出自については気になるところだが、まず確かめさせて欲しいことがある。話はそれからだ」
「あの、話しについて行けなくて……」
「養子にするかどうか、見極める。中庭までついてこい。そこで、貴様の魔力を確かめる」
「ええ……っ、と、唐突な」
素が出てしまったけれど、本当にいきなりのことで、また、こちらのことなんて気にしないというように立ち上がって部屋を出ていくフィーバス卿を引き止めることが出来なかった。
養子にするかどうかは、私の魔力……魔法の使い方次第ってことだろうか。多分、そうなのだが、魔法に長けているフィーバス卿の前で魔法を披露するのは少し怖い。何て言われるかもそうだけれど、フィーバス卿が期待している以上のパフォーマンスが出せなければ。
「ええ、どうしよう。アルベド」
「いつも通りでいいだろう」
「で、でも、フィーバス卿が!これって、試練じゃん?」
「ステラならいけるだろ……問題は、俺の方――」
「何かいった?」
「いーや、何でも。ほら行くぞ。俺も、この場所のことよく知らねえから、迷子になっちまう」
そういって、アルベドは私に手を差し伸べて、眉をハの字に曲げて笑った。