テラーノベル
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デスクに戻ると、営業企画部の西岡匠(にしおか たくみ/37歳)が凛の椅子に座り、彼女の帰りを待っていた。
デザイン設計部の凛は、西岡の部署と仕事を組むことが多く、彼とはこれまで何度も一緒に仕事をしてきた。
凛の姿を見つけると、西岡は立ち上がって声をかけた。
「やっと戻って来たか」
「あれ? 西岡さん、どうしたんですか?」
「昨日言ってた資料を持って来たぞ」
「わ、早いですね。ありがとうございます」
「俺は仕事が早いからな。 ところで、『不動産王』の担当になったんだって?」
その言葉に、凛は驚いた。
「何で知ってるんですか?」
「うちの部ではもう噂になってるよ。それにしてもすごいな。大抜擢じゃないか」
「たまたまですよ、たまたま」
「そんなことないだろ。社内コンペを何度も勝ち抜いた実力が評価されたんじゃないか?」
「まあ、そうならいいんですけど」
「で、どうだった? どんな奴だった?」
その問いに、凛はドキッとした。
「どんなって……」
「あれ? お前、顔赤くなってるぞ」
「ちっ、違いますっ! やだなあ、西岡さん、からかわないでくださいよー」
そのとき、入口の方から甲高い声が響いた。
「きゃーっ、西岡さ~ん♡ お久しぶりです~!」
凛は、その声の主が誰なのかすぐに分かった。
声をかけてきた女性は、凛よりも一つ年下の沢渡奈美(さわたり なみ/29歳)。
彼女は凛と同じ部署にいる。
以前はマーケティング会社に勤めていたが、数年前にインテリアコーディネーターに憧れて転職してきた。
小柄でグラマラスな奈美は、いつも上目遣いで可愛らしい雰囲気をまとった女性だった。
奈美が近づいてくるのを見ながら、凛は西岡に言った。
「ほらほら、西岡さんのファンが来ましたよ」
その言葉に、西岡はまんざらでもなさそうに苦笑した。
「参ったな。捕まったら長引くから、俺もう行くわ。じゃあな」
「資料、ありがとうございました」
凛はそう言って椅子に腰を下ろす。
さり気なく入口へ視線を向けると、案の定、西岡は奈美に捕まり、話しかけられていた。
その様子が可笑しくて、凛は思わず「クスッ」と笑った。
その日、仕事を終えた凛は、会社を出る前に化粧室へ向かった。
『不動産王』との約束の時間が近づくにつれ、胸のざわつきが増していく。
これまで取引先や上司との会食は何度も経験しているので、本来なら緊張する場面ではない。それでも、今夜だけは違った。
男の色気がだだ漏れの理想の相手を前にして、うまく話せる自信がなかった。
(せめて外見だけは隙をみせないようにしないと)
凛は念入りにメイクを整えてから会社を出た。
颯介にもらったショップカードの店は、会社の最寄駅から数駅先にあった。
「このビルの中ね……」
凛は建物に入り、エレベーターで七階へ向かった。
エレベーターを降りると、目的の店がすぐ目に入った。
(イタリアンのお店?)
入口からは、食欲をそそる香りが漂ってくる。
少し緊張した面持ちで、凛は扉を開ける。
出迎えたスタッフに名前を告げると、すぐに席へ案内された。
「お連れの方がお見えになりました」
「ありがとう」
静かな奥の席には、上着を脱いで寛いだ様子の颯介が座っていた。
「お待たせしてすみません」
「いや、俺も今来たばかりですから……どうぞ」
「は、はい。失礼します」
凛が席に座ると、颯介が彼女に尋ねた。
「ワインでいい?」
「あっ、はい」
「じゃあ、いつもの」
「承知いたしました」
スタッフは丁寧に頭を下げ、バックヤードへ戻って行った。
どうやら、ここは颯介の行きつけの店らしい。
「このお店にはよく来られるんですか?」
「うん。駅から少し離れた裏通りの静かな店で、気に入ってるんだ」
たしかに、店内は落ち着いた大人のカップルが多く、隠れ家のような雰囲気が漂っている。
周囲がカップルばかりなのを見て、凛はさらに緊張を深めた。
「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ、取って食ったりしないから」
「いえ、そういうわけでは……」
「まあ、今後俺と組んで仕事をするなら、何でも本音で話してもらいたいね」
「本音で?」
「そう。まわりくどい言い方はナシ。『本音』でね」
「分かりました……でも……」
「ん?」
「あ、いえ……私、性格がきついので、本音で話すと喧嘩になっちゃうかもしれません」
凛の正直な告白に、颯介は一瞬目を見開き、それから可笑しそうに笑った。
「あはは…….君は面白いね。そんなにきつい性格なの?」
「はい。実家でもよく親に言われてました。あなたは気が強すぎるから、人前ではオブラートに包んで言いなさいって」
「ははっ、そりゃ相当だな。でも、気が強い女は嫌いじゃないよ」
「え?」
凛は驚いて目を見開いた。
そんな彼女に向かって、颯介が穏やかに言った。
「いいものを作ろうと思ったら、本音でぶつかって議論しないとだろ? 忖度したり、オブラートに包んだ言い方ばかりしていたら、いつまで経っても埒が明かない。それより、たとえ喧嘩になっても思いきりぶつかった方が、最高にいいものができると思わないか? 俺はそう思うけどね」
その言葉に、凛は感動のようなものを覚える。
自分と同じ考えを颯介が持っていたと知り、自然と親近感が芽生えてくる。
ちょうどそのとき、ワインとアンティパストが運ばれてきたため、二人は会話を中断してグラスを合わせた。
「では、これからよろしく!」
「よろしくお願いします」
凛がワインを一口飲むと、颯介が再び口を開いた。
「俺は手に入れた最上級の物件を、さらにグレードアップして次の人にバトンタッチしたい。そのためには、自分が納得できる最高のものを作りたいんだ。だから、遠慮せずにガンガン本音でぶつかってきていいよ」
その言葉に、凛は安心感を覚えた。
「ありがとうございます。そう仰っていただけて、気が楽になりました」
凛はホッとしたように笑顔を返した。
その笑顔を眺めながら、颯介はカフェで彼女を見かけたときのことを思い出していた。
(これから楽しくなりそうだな)
穏やかな笑みを浮かべ、颯介はそう心の中で呟いた。
コメント
27件
わ〜いわ〜い😃 始まってた❤️ ずーとお待ちしてました٩( ᐛ )و もう4話いっき読みです。 やっぱり読んでてワクワクします。 楽しみ〜💕 今年よろしくお願いします😀
これで役者が揃ったかな? 西岡さんと奈美ちゃん!中々面白い厄介なことしてくれちゃいそうである意味期待しちゃう🤭 西岡さんもシゴデキイケメンだろうな🤔 これから颯介さんがどのようにして、この凛ちゃんを掌で転がしていくのか…転がされてたりしちゃって〜😆そんなイケオジもいとをかし…🩶
颯介さん行きつけの隠れ家店にお連れして、『強い女は好き、本音で語ろう』と先制アプローチ♡♡♡ 凛ちゃん、捕獲されちゃいそう🤣🤣 それにしても西岡、佐渡奈美はウザそう〜💦 そして佐渡は聞き覚えがある気がしたら、佐渡圭絡み🤪💦嫌な予感もあるけど、凛ちゃんとは真逆っぽい奈美は颯介さんが毛嫌いする女子であってほしい🤭🙏✨