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『貴方に対しての噂が流れているとします。悪い噂なのか良い噂なのか、どちらでしょう?』
突然の質問に、ええー……と唸りながらも、”良い噂”と答えた。
『なぜ?』
『───え』
息が詰まりそう───いや、詰まった。唾を飲み込むのも、息をするのも忘れて。ただ、思った。相手は、踏み入れてはならない事情まで知っている謎の男だと。
……………
熱い。
アイロンに手が当たったわけでも、電球を素手で触ったわけでもない。けれど、熱くて暑くて、死にそうだったのは覚えている。 燃え盛る火の海とはこのことかと、幼いながらに痛感させられた。
パチパチと音を立てる炎は、キャンプファイヤーのように心が安らぎはしなかった。
『───おかあ、さん』
肺に詰まっていく煙を吐き出すように。
『───おとう、さん』
肺が焼けそうな感覚を誤魔化すように。
『───”イノチシラズ”!!』
肺の空気をなくす勢いで叫ぶように、親しい人の名を全て呼んだ。全員を呼んだはいいものの、今思えば名前とは言い難い。どちらかと言うと、あだ名のようなものだ。
『お母さん、お母さん!! お父さん、おじいちゃん、おばあちゃん!!!!』
誰も助けに来なかった。誰も、俺を助けられなかった。あの”イノチシラズ”でさえも。
あの───村が全焼する事件は、今になっても忘れられない。
俺───クロノアの住んでいたところである村は、ある放火魔により全焼させられた。翌日には捕まったけれど、残ったものは何もない。残ったのは、俺と、火事が起こる前日に実家へと帰った”イノチシラズ”のみだ。
『痛いです。助けてください』
救助隊に会った時、そう言った。頭から噴き出る鮮血を、溜まっていく血溜まりを、血で真っ赤に染まる手を、相手に見せながら。
救助隊である男の人は、慈悲の目でこちらを見て、すぐに搬送してくれた。
『───あなたも”イノチシラズ”?』
その人に、そう聞いた。治療の途中だと言うのに、相手の手はぴたりと止まった。今思えば、ただただ困惑だったに違いない。
イノチシラズ───命知らず───とは、命の危険を恐れずに危険な行動をとる人、またはその様子を表す。
救助隊とは、まさにそれだった。
じゃあなぜ、彼───ぺいんとは、”イノチシラズ”と呼ばれているのだ。
……………
「…………」
今思えば、”イノチシラズ”という言葉は単なる悪口だ。
けれど。
けれど、彼が───レジ袋の彼がぺいんとのことを”イノチシラズ”というのであれば、それは悪口ではなく、俺に、危険な行動をする彼を助けてほしいとの意を込めた”イノチシラズ”だ。
「───だから、まずは”イノチシラズ”って人を助けないと」
「へ、」
クラスメイトと仲良くする、という決意を宣言した彼は、次にはそう言った。
何が起こった。いや、何を言ってる?
確かに彼は、きっと何か辛いことがある。きっとしにがみくんみたいに辛いことが。けれど、彼がどこにいるかなんて分かりやしない。彼が今日学校に来ているかなんて分かりやしない。
「───クロノアさんなら、わかるんですよね?」
「な、にを……」
引きつった笑みが出た。あまりにも下手くそな笑みだと、自分でも自嘲した。
「あなたは、きっと”イノチシラズ”が誰かわかるから誘いを断った」
うるさいと、言ってしまいたかった。
こめかみ付近の痛みが、胸に広がる感じがした。
「───助けたくなかったんじゃなく、相手が自分のことを覚えてないことが怖かったんじゃないんですか?」
うるさいと、叫びたい。黙れと、叫びたい。
「……っ、クロノアさん!」
「──────静かにして!!!!!」
喉が、痛かった。
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