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第8話「就活人格崩壊」
ケンタは大学四年生。黒髪を七三に分け、リクルートスーツにワイシャツ、縁の眼鏡をかけている。見た目は真面目そのものだが、中には三つの人格が同居していた。
一つ目は“自信満々人格”。胸を張り、堂々とした口調で喋る。
二つ目は“弱気人格”。声が小さく、すぐに「すみません」と口走る。
三つ目は“チャラい人格”。足を組み、軽口を叩く癖がある。
就職活動がピークを迎える季節。ケンタは大手商社の面接室に座っていた。面接官はスーツ姿の男女3人。机の上には候補者の「人格履歴書」が置かれている。そこには「代表人格:ケンタ/同居人格:自信満々、弱気、チャラ」と記載されていた。
「では自己PRをお願いします」
まず前に出たのは自信満々人格。背筋を伸ばし、声を張る。
「私の強みはリーダーシップと粘り強さです!」
面接官が頷く。
だが次の瞬間、弱気人格が切り替わる。
「……い、いや、正直リーダーシップなんて自信なくて……僕、失敗ばかりで……」
面接官たちが顔を見合わせる。
慌てて自信満々人格が戻ってきて取り繕う。
「いえ、失敗を乗り越える粘り強さがあるんです!」
その直後、チャラい人格が椅子にふんぞり返り、にやにや笑った。
「まぁでも御社に採用されたら、飲み会は盛り上げますよ!社内人気は俺に任せてください!」
面接官のひとりが思わず吹き出す。もうひとりはメモをとりながら「多重人格の切り替えは早いが……それもスキルか?」とつぶやいた。
この社会では、履歴書や面接で“どの人格が仕事に適しているか”が評価の対象になる。中には「面接人格」を作り上げて成功する学生も多い。だがケンタのように交代が制御できない者は、毎回カオスになりやすかった。
面接の最後に質問された。
「あなたにとって仕事とは?」
ケンタの口から、三つの人格がリレーのように答えた。
「挑戦の場です!」(自信満々)
「……責任が重すぎて怖いです」(弱気)
「給料入ったら旅行したいっすね!」(チャラ)
面接官3人は沈黙。やがて中央の面接官が言った。
「……とても、個性的ですね」
退出した廊下で、代表人格のケンタは頭を抱えた。
「……あぁ、またやらかした」
だが内側からは三つの声が響く。
「いや、完璧だった!」
「落ちたらどうしよう……」
「絶対ウケたって!」
多重人格社会の就活は、まるでコントのように続いていくのだった。