*当短編はあえてside aとside bの順番を反転させてます。side bから読むと読みにくく感じるかもしれませんが、演出を兼ねてますのでご了承ください。
“テレビの前のそこのあなた!こんなことを考えたことはありませんか?
「今朝見た夢が現実に起こればいいのに」
「現実の世界より、夢の世界に居たい」
そんなあなたに、MDC社が提供する新サービス![あなたの夢を正夢に!]
利用は簡単!我が社が提供するヘッドギアをつけて夢を見るだけ!お客様が現実にしたいと思った夢がありましたら、その夢を我が社の社員が現実で再現します!
今ならなんと、寝る前に飲んだら幸せな夢を見ることができるサプリメントもお付けします!
ぜひ新サービス・あなたの夢を正夢に!をご利用ください!
*続けてのご利用は一日間に限ります。”
side b 清水春樹(36)・make dreams come true corporation(MDC社)社員
おっと、データが送られてきたな。今回はどんな夢なんだ?なになに?クライアントはシマダタカシ27歳会社員。はぁ、これはまた再現するのが大変そうな夢だな。
我が社MDC社は旅行代理を主に行なっている会社だが、某ウイルスが広がっている昨今において営業成績が落ち込んでいた。そこで新しく始めたサービスが[あなたのサービスを正夢に!]である。旅行代理を通して様々なサービス業と連携をとってきたからこそ行えるサービスなのだ。まぁ、主に働かされるのは私たちなのだが。私は現在このサービスのチームリーダー、つまりは主任をやっており、クライアントの情報、送られてきた夢のデータを確認して適切なサービスのプランを考え、実行する仕事をやっている。まだ始めて半年程度のサービスではあるが、クライアントからは好評で、我が社の未来を担うサービスと言っても良いだろう。我が社が提供するサービスを通じて、クライアントが見た幸せな夢を現実のものにし、クライアントに一日限りの夢を味わってもらう。それが我々の行っている仕事なのだ。
早速プランを立てないとだな。準備期間は一日。まったく忙しい仕事である。私がプランを立てていると、新人の三原くんがやってきた。彼はまだこのチームに配属されてから日が浅く、いろいろと仕事を教えている最中である。彼は私にこう聞いてきた。
「清水主任、このヘッドギアと一緒に送っているサプリメントを飲んで寝たら良い夢が見れるんですよね。僕も貰っていいですか?」
やれやれ、仕事に集中できてないな。私はこう返す。
「仕事に集中しろ。そもそもそのサプリはただの味のしないラムネだから。」
俺がこう言うと三原くんは「マジですか?」と言い驚いた表情を見せた。私の言った通り、このサプリはただのラムネである。人は思い込みの激しい生き物だから、良い夢が見れるサプリと言われて飲めば良い夢が見えてしまうらしい。あくまでこのサプリはサービス品であるからこんな物でも許される。それにちゃんと同封されている注意書きには、”このサプリメントは必ず効果でると保証された物ではありません。あらがじめご了承ください。”と書いてあるしな。今回のプランは4人組のチームで行うことにした。チームのなかには三原くんも含まれているので、いろいろと教えるために私も実行役として参加する。
~夜~
私は今回のクライアントである島田隆が住むアパートへ来ている。クライアントとサービスのプランの確認をするためだ。夜の9時前、クライアントが帰ってきたので、近づいていきこう言った。
「初めまして島田様。私MDC社の清水と申します。この度は当社のサービス、[あなたの夢を正夢に!]をご利用いただきまして誠にありがとうございます。本日は明日のサービスに関しまして、いくつかの確認事項がありますので、ご自宅にお伺いさせていただいております。」
まぁいわゆるテンプレというやつだ。私は資料を渡してプランを説明すると、クライアントはこう聞いてきた。
「その、今回のサービスの料金っておいくらになるのでしょうか?」
はぁ、この様子だと注意書きをまともに見てないな。私はこう伝える。
「今のところ確定している金額は150万円になります。分割払いもできますがどうなされますか?」
クライアントは顔をしかめる。こりゃ確定だな。私はこう続ける。
「ヘッドギアに同封していた注意書きに大体の目安の値段を記載していたはずですが。お読みになっていませんでしたか?申し訳ありませんが今からのキャンセルですと、キャンセル料として80万円をいただくことになっていまして…。」
こう言えばクライアントも無駄に80万なんて払いたくないから、契約するしかない。今回のクライアントはすでに確定している150万を25回払いで契約してくれた。そして朝食を作るためにはアパートに入らなければならないため、クライアントから部屋の鍵を預かり、最後にテンプレの言葉をクライアントに伝えた。
「島田様の夢を実現するために、我々スタッフ一同全力で取り組みさせていただきます。島田様にとって忘れることのない素晴らしい一日になりますよう、明日はどうかよろしくお願いいたします。」
~次の日~
プランの実行日、私はチームのメンバーを集めてこう伝えていた。
「今回の仕事はかなり大変なものとなるだろう。だがこのサービスは我が社の未来を担っている重要なものと理解していただきたい。必ずクライアントに満足していただけるよう、チーム一同で全力を尽くそう!」
まぁ、このサービスに配属された彼らは正直運が悪い。そんな彼らを勇気づけるための言葉である。私たちは昨日の段階で、今日のプランに必要なサービスを提供している企業や人材と連絡をとっていた。朝ごはんを用意する調理師。リムジンサービスを行なっている企業。クライアントが勤めている会社。クライアントが夕食を取る高級レストラン。彼らの協力があってこそ今回のプランは実現するのだ。
そして今回のプランにおいて一番重要なのは設楽桜の存在である。昨日、彼女に協力を依頼するためにクライアントが勤めている会社で呼び出し、交渉は三原くんと私で行った。依頼内容を伝えると彼女はこう言った。
「その、私彼氏がいて、このことを知ったらどうなるか…」
私はあらかじめ用意していた依頼料25万円を彼女に見せ、こう言った。
「こちら依頼料の25万円になります。心配なのは承知しておりますが大丈夫です。一日の間だけ島田様にご好意があるよう演じて頂けば良いですから。その後のことは我々にお任せください。我々MDC社はアフターサービスも充実している企業ですので。」
25万を見た彼女は依頼を引き受けてくれた。帰り道三原くんは私にこう言った。
「結局金なんですね。25万はでかいですよ。」
俺はこう返した。
「お金があれば好きなことができるからな。我々が行なっているサービスだって、クライアントからの支払いがあってこそ成り立つものだ。」
まぁ、お金さえあれば夢を叶えるなんて容易いものだ。無論、我々一般人には限度があるが。
~
現在、朝の5時。あらかじめクライアントから部屋の鍵は預かっているので、調理師に鍵を渡せば良いのだが、まだ来ていない。するとチームの一人である真田くんが慌てた様子でやってきてこう言った。
「主任大変です!調理師の田中さんが急遽体調不良で来れないとの連絡がありました!」
なんだって?!まずいな。今から代わりの調理師を呼ぶのは時間がないし、誰か代わりに朝食を作らなければならない。私が慌てた表情をしていると、三原くんがこう言った。
「僕が代わりに作りますよ!こう見えて料理得意なんです。」
正直心配だが、仕方がない。三原くんに頼むとしよう。私は三原くんと一緒に材料を持って、クライアントを起こさないよう静かに部屋へと入った。そこから三原くんだけ調理場に立ち、私は散らかったテーブルの上を片付けながら、遠目から三原くんを見守ることにした。
調理を始めた三原くんだったが、確かに手際がよく、音もあまり出していない。彼にこんな一面があったとは、感心した。まさか初っ端から新人が頼りになるなんてな。良い後輩に恵まれたものである。その後三原くんは、クライアントの起床時間である6時までに調理した朝食をきれいにテーブルへと並べ終わった。私は部屋を出た後三原くんにこう言った。
「いや、感心したよ。やる時はやれる男だったんだね。三原くん!」
三原くんは「大したことないですよ」と照れながら返した。6時になると部屋から目覚まし時計の音が聞こえてきた。クライアントが起きたのを確認すると、私たちは手配していたアパートの駐車場に停めているリムジンの元へと向かった。
リムジンを運転するのは、チームの一人である畠山くんだ。彼は車好きで運転が上手いらしいので信頼できる。彼がクライアントをリムジンで会社に送っている間に、私達は別の車でクライアントの会社に向かっていた。すると畠山くんから連絡が来た。
「やばいです!多分タイヤがパンクしました!スペアはありますが一人でやってたら出勤時間まで間に合わないかもしれないです!至急応援頼みます!」
なんだって?!今回トラブル起きすぎだろ。仕方なく私達はリムジンの元へと向かった。リムジンへ着くと畠山くんがスペアのタイヤを取り出していた。クライアントはどこにいる?私が辺りを見回していると畠山くんがこう言った。
「島田さんは寝ています。多分パンクしたことにも気づいてないかと。」
不幸中の幸いというわけだ。畠山くんの運転が丁寧な証拠だろう。私達は急いでタイヤを取り替えた。そして取り替えが終わるとすぐにリムジンを出発させた。裏道を通れば、なんとか出勤時間には間に合いそうだ。
その後なんとかクライアントを出勤時間内に届け終わり、私達は会社の外で待機していた。この時間は設楽さん次第なので、正直私達はすることがない。見張りをチームの一人である城戸くんに任せて私達は彼らがレストランに向かうまで待機していた。昼時になり、昼食を取ろうと話していると、城戸くんから連絡が来た。
「今会社の受付付近にいるのですが、ちょっとトラブルが起きてるようで。男が受付係に桜(設楽)に会わせろって言ってます。」
誰だその男は。私は詳細を知るために設楽さんに電話をかけた。すると設楽さんはこう言った。
「多分私の彼氏の翔太くんだと思います。昨日メールで今日のことを伝えたのですが彼、束縛するタイプなんで、許せないんだと思います。」
全く、今回の仕事は大変すぎる。私が受付に行って直接彼に話をするしかないだろう。私が受付に行くと、確かに男が受付と揉めている。私は彼に近づきこう言った。
「すみません。私MDC社の清水と申します。設楽桜さんのことについて何かご相談があるのでしょうか。」
彼はこう返す。
「あんた例のサービスのやつか?相談も何も早くサービスを中止させろ!桜が他の男とキスをするなんて許せるはずがねぇ!」
まいったな。どうにかして彼を説得しなければならないのだが。このままではこの会社にも迷惑がかかる。そうなれば我が社のサービスの評判も…。私が悩んでいると、後ろから城戸くんが近づいてきた。そして私にこう言った。
「この男を追い返せばいいってことですよね?俺に任せてください。」
城戸くんは設楽さんの彼氏に近づいていき、こう言った。
「別に設楽様は島田様にご好意がある訳ではありません。設楽様にはあくまで今日だけプラン通りに動いてもらうだけです。それはあなたもご存知ですよね。どうかお引き取り願います。」
彼はこう返す。
「知るかそんなこと。俺がダメだと言ったらダメなんだ。そもそもあんたらがこんなサービスやってっからこうなってんだろ?あんたらに腹が立ってきたわ!」
設楽さんの彼氏はこう言うと、城戸くんに殴りかかった。すると城戸くんは彼のパンチを交わしつつ腕を取り、彼を背負い投げで投げ飛ばした。そういえば城戸くんは柔道の有段者だったな。城戸くんは投げられて呆然としている彼にこう言った。
「先に手を出したのはあなたです。さぁ、お引き取りください。」
彼は起き上がると「覚えてやがれ!」と言いながら去っていった。私は城戸くんに「ナイスだ!」と言うと、城戸くんは「柔道頑張ってて良かったです。」と言った。トラブル続きの今回だが、その分部下にも恵まれているらしい。
夜になり、クライアントが設楽さんとレストランで夕食をする時間となった。レストランは会社の近くにあるビルの最上階にある高級な店を予約している。私達もレストランへ移動して、夕食をとっている二人を見守っていた。クライアントは調子に乗っているのか、今回のプランより高いコースを選んでいる。そして高いワインを開けるのを見た三原くんが私にこう聞いてきた。
「その、今回のプランってどのくらいクライアントは払わないといけないんですか?今開けたワイン、かなり高そうですけど。」
私はこう返す。
「確定の請求は後日だからな。クライアントもまだ一日のプランに幾らかかっているかは分かってないかもしれないが。まぁ、ざっと190万くらいかな。」
三原くんは驚いた表情をし、こう言った。
「ひゃっ、ひゃくきゅうじゅうまん?!そんな金額彼に払えるんですか?」
彼の問いにこう返す。
「まぁ、分割払いOKだし払えるだろう。これでも今日のプランならかなり抑えてるほうだよ。」
当サービスの注意書きにはちゃんと書いてある。”前日にご案内する金額はあくまで目安ですので、後日の請求金額が増額する可能性があります。あらかじめご理解をよろしくお願い致します。”とね。
レストランに着き、私は三原くんと一緒にクライアントを見守っていた。彼は食事の最後に顔を赤らめながら笑顔で設楽さんにキスをした。その光景を見ながら、私は三原くんにこう言った。
「見なよ。あのクライアントの幸せな表情を。私達も頑張った甲斐があったと思わないか?この仕事も悪い物ではないだろう?」
三原くんは笑顔で「確かに良い仕事ですね。」と返した。クライアントは、この夢にまで見た一日間を、180万というお金と私達の仕事によって実現させたのだ。無論、明日からはこれまでの現実に戻る訳だが。最後にクライアントはこう叫んでいた。
「正夢、サイコー!!!」
side a 島田隆(27)・会社員
“テレビの前のそこのあなた!こんなことを考えたことはありませんか?
「今朝見た夢が現実に起こればいいのに」
「現実の世界より、夢の世界に居たい」
そんなあなたに、MDC社が提供する新サービス![あなたの夢を正夢に!]
利用は簡単!我が社が提供するヘッドギアをつけて夢を見るだけ!お客様が現実にしたいと思った夢がありましたら、その夢を我が社の社員が現実で再現します!
今ならなんと、寝る前に飲んだら幸せな夢を見ることができるサプリメントもお付けします!
ぜひ新サービス・あなたの夢を正夢に!をご利用ください!
*続けてのご利用は一日間に限ります。”
今朝入社前、朝食の菓子パンを食べつつテレビをつけると、こんなcmをやっていた。最近はこんなサービスもあるのか。正夢にしたいような楽しい夢なんてしばらく見てないが。てか、もう出ないと。はぁ、毎日朝から満員電車に乗るの嫌だな。
会社に着くと俺のデスクに山積みの資料が積まれていた。俺が呆気に取られていると部長が近づいてきてこう言った。
「いやいや、島田くん仕事速いからさ。後輩たちの分もやってあげてよ。今月ボーナスも出るしさ、頑張ってくれ!」
いやいや、何で俺が後輩の分までやらんといけないわけ?意味がわからないんだが。後輩たちの仕事減らしたいんならあんたがやれよ!って口に出して言えない俺は渋々仕事を始めようとした時、後ろから話しかけれた。
「部長も意地悪だよねー。島田くんだって自分の仕事があるってのに。私手伝ってあげようか?」
正直、この会社に入ってからストレスは多い。だが一つだけこの会社に入って良かったと思えることがある。それは同期の設楽桜の存在だ。設楽さんは女優をやってると言われても納得するぐらい可愛い。それでもって性格もいい。俺みたいな地味男でも仲良く話しかけてくれるもんだから、俺に気があるのかと錯覚してしまうほどだ。噂によれば彼氏はいないらしい。だから俺は彼女のことを密かに狙っているのだが、俺には彼女を遊びに誘うような勇気は無い。俺は彼女の気遣いにこう返す。
「設楽さんだって自分の仕事あるでしょう?俺頑張るから大丈夫。ありがとね。」
こう言うと彼女は「無理はしないでね」と言い、自分のデスクに戻っていった。はぁ、いい子だなほんとに。俺なんかには勿体無いよ。そう思いながら山積みの仕事をやり始めた。
仕事を終え一人暮らしのアパートに帰宅すると、散らかったテーブルにストロングチューハイを置いた。田舎から上京してはや6年。毎日学校から帰宅したら夕食を作って待ってくれていた母の偉大さを感じながら、コンビニで買った弁当とおつまみを食べ始めた。俺はこれからどうすれば幸せな人生を歩めるのだろう?最近不安でいっぱいである。やりたいことも見つからない。せめて寝ている時ぐらい幸せな夢を見れたらな。それでそんな幸せな夢が現実になったなら。そう言えば今日の朝に見たcm、本当に見た夢を現実にしてくれるのだろうか。何だか急に興味が湧いてきた。ヘッドギアの料金だけで30万と結構するが、お金はたくさん余ってるし、憂鬱な気分を変えるために利用してみようかな。俺はネットでサービスのことを調べ、電話で注文することにした。
~数日後~
今日もキツい仕事を終え帰宅すると、玄関前に荷物が届いていた。例のヤツである。包装された箱を開けると、ヘッドギアとサービス品のサプリメント、そして説明書が出てきた。このヘッドギアをつけて夢を見ることによって、サービスを提供している会社に夢のデータが行き、こちらが夢を現実にしたいと頼めば、一日の準備期間の後、次の日の一日間の間サービスが受けれるというシステムらしい。そしてこの同封されていたサプリメントを飲んでから寝れば、良い夢が見れるようだ。説明書には他にも注意書きなどがいろいろ書かれている様だが、疲れているし明日でいいだろう。俺はサプリメントを飲み、ヘッドギアをつけた状態でベッドに横たわった。
こんな夢を見た。朝起きると朝食が準備されていた。バターが塗られたパンに目玉焼きとサラダと味噌汁。いつも菓子パンや野菜ジュースで朝を済ましている俺にとっては豪華すぎる朝食。アパートを出るとリムジンが止まっており、俺はそのリムジンに乗り込み会社に向かう。会社に着くと部長が俺にこう言った。
「今日は島田くんの仕事は俺がやるから、後輩の指導よろしくね!」
部長に言われた通り後輩たちに仕事を教えていると、設楽さんが俺に近づいてきてこう言った。
「島田さんさすが!後輩たちも島田さんみたいな優秀な先輩に教えてもらえてラッキーだね!」
俺は照れながら「大したことじゃ無い」と返し、後輩たちの指導を続けた。仕事が終わり、ジュースを買おうと自販機に行くとそこには設楽さんがおり、俺と目が合うとこう言った。
「その、私たち同期だし、島田くんのこともっと知りたいというか。もっと仲良くなりたいというか。」
俺は彼女に「夜一緒に食事でもどう?」と誘い、ビルの最上階にある高級レストランへ向かった。普段なら食べれそうも無い高級料理を設楽さんと楽しみ、高級ワインを二人で開けたところで、設楽さんはこう言った。
「私、実は島田くんのこと気になってたの。島田くんが良ければ私と付き合って欲しいなって。」
俺は「俺なんかで良ければ」と返し、美しい夜景をバックに彼女にキスをする。
というところで目が覚めた。サプリメントの効果なのか、とても素晴らしい夢だった。まるで俺の夢や願望を全て叶えたような。これを本当に正夢にしてもらえるというのか?俺は早速、ヘッドギアのデータを企業に送った。明日が楽しみだ。
~その日の夜~
はぁ、今日はいつも以上に疲れた一日だったな。俺にばっか仕事を押し付けやがって。それに設楽さんが長い間オフィスから出ていたから憂鬱だった。俺がアパートに着くと、スーツを着た男が立っていた。彼は俺に気がつくと俺の元にやってきて、こう話しかけてきた。
「初めまして島田様。私MDC社の清水と申します。この度は当社のサービス、[あなたの夢を正夢に!]をご利用いただきまして誠にありがとうございます。本日は明日のサービスに関しまして、いくつかの確認事項がありますので、ご自宅にお伺いさせていただいております。」
丁寧な人だな。清水という男は俺に資料を渡すと、今回のサービスのプランを説明し始めた。プランは確かに俺が夢で見た内容とほぼ一致しており、このプラン通りいくのであれば文句はないと感じた。そして俺は気になっていたことを彼に聞いた。
「その、今回のサービスの料金っておいくらになるのでしょうか?」
清水はこう返した。
「今のところ確定している金額は150万円になります。分割払いもできますがどうなされますか?」
はぁ?!150万?いきなりそんな金額言われてもな!俺が顔をしかめていると清水はこう言った。
「ヘッドギアに同封していた注意書きに大体の目安の値段を記載していたはずですが。お読みになっていませんでしたか?申し訳ありませんが今からのキャンセルですと、キャンセル料として80万円をいただくことになっていまして…。」
まじかよ。それならプラン通りやったほうが良さそうだな。俺はひとまず確定している150万円を25回払いにして契約した。最後に明日の朝食の準備のため、部屋の鍵を渡した。帰り際、清水はこう言った。
「島田様の夢を実現するために、我々スタッフ一同全力で取り組みさせていただきます。島田様にとって忘れることのない素晴らしい一日になりますよう、明日はどうかよろしくお願いいたします。」
~次の日~
朝6時。俺は目覚ましで目が覚めた。リビングからバターの良い匂いがする。テーブルには俺が夢に見た理想の朝食が並んでいた。俺は席につき、朝食を食べ始めた。あぁ、美味いなぁ。こんな立派な朝食を食べるのなんていつぶりだろうか。俺は朝食を食べ切ると会社に行く支度を済ませてアパートの駐車場に向かった。
駐車場にはリムジンが停まっており、横にはスーツを着た運転手が立っていた。俺がリムジンに近づいていくと、運転手は「島田様、お待ちしておりました。」と言い、ドアを開けてくれた。リムジンの中はとても広く綺麗で、まるで自分が大企業の社長になったような感覚だった。いつもの満員電車と比べると天と地の差である。運転手の運転も丁寧で、あまりにも車内が心地よく、起きたばっかりなのに眠たくなってしまった。昨日も遅くまでやり残した仕事をやっていたからな。まぁ、今日ぐらい通勤中に寝てもいいだろう。
「島田様。会社に到着いたしました。」
俺が運転手に起こされると、リムジンは会社に着いていた。なんて贅沢な出勤であろうか。俺は運転手にお礼を言い、会社に入って行った。
自分のデスクに着くと部長が待っており、俺にこう言った。
「きょ、今日はし、島田くんの仕事は俺がやるから、後輩の指導、よろしく!」
なんか言葉がぎこちないが、まぁ夢通りではある。こんなこと部長も本心な訳がないわな。俺が後輩の指導をやっていると、設楽さんが近づいてきてこう言った。
「島田くん。ちょっといいかな?自販機前に来て。」
あれ?夢のプランと少し違うような。俺は彼女に呼び出され自販機前に行った。そして彼女は俺にこう言った。
「昨日MDC社の社員さんがやってきてね、島田さんの夢を再現に協力してって言われたの。協力金として25万円も貰ってる。」
おいおい!それを俺に言ってもいいのかよ!設楽さんはこう続ける。
「島田くんのためなのかもしれないけど、私本当はこんなことしたくない!私が引き受けたせいで今も受付で… いや、このことは島田さんに話すべきじゃないか。今から島田くんに25万円を渡すから、もうこんなことやめようよ。明日にはいつも通りに戻るんだよ?だから今日こんなことしたって意味がないよ!」
そうか、そうだよな。俺は設楽さんの気持ちなんて全く考えてなかった。なんて愚かなことをしていたんだろう。でも俺は彼女の要求を飲むわけにはいかない。俺はこう返した。
「ごめんね設楽さん。俺は設楽さんの気持ちを考えずにこんなことをしていた。本当にごめん。でもね、MDC社の人達は僕の要望に応えるために頑張ってくれているんだ。今から今日のプランを中止するって言ったら彼らに申し訳ないよ。だからお願いだ。今日だけはプラン通りに俺に付き合ってほしい。」
俺の言葉に彼女はこう返す。
「そう、だよね。私こそごめん。お金も貰ってるのに自分勝手だよね。実はね、私彼氏いるんだ。といっても私は別れたいんだけど、彼は束縛が激しいタイプだから。お金もせびられて生活も苦しいの。だから25万貰えるんだったらって引き受けちゃって。ごめん。こんなこと島田さんに言うべきじゃないよね。」
知らなかった。いつも明るく元気な彼女が、こんな思いをしていたなんて。俺は彼女の告白にこう返す。
「俺でよければ力になろうか?設楽さんを巻き込んでしまったお詫びもしたいし。」
彼女はこう返す。
「大丈夫だよ。これは私の問題だから、私が解決しないと。せっかく島田くんが今日を楽しもうとしてたのに、こんなこと言っちゃってごめんね。夜ご飯連れて行ってくれるんだよね。今日ぐらいは美味しいもの食べて、二人で嫌なこと忘れよ!」
設楽さんは本当に強い人だな。今日は彼女の言葉に甘えるとしよう。俺たちはデスクに戻ると、夜になるまでプラン通りに半日を過ごした。
~夜~
俺と設楽さんはレストランにいる。レストランの客は高級そうな服やバッグを身につけており、明らかに会社帰りの俺たちは浮いていた。周りの様子を見ながらレストランに入る前、俺は設楽さんにこう言った。
「設楽さん、俺たち浮いているよね?」
設楽さんはこう返す。
「そうだね。死んだメダカのごとく浮いてるよ。」
設楽さんの言葉を聞いて俺は思わず笑ってしまい、それを見た設楽さんも俺と一緒に笑ってくれた。俺はあえてプラン通りのコースではなく、一つ位の高いコースを頼んだ。後で請求される金額は増えるかもしれないが、これは設楽さんに対する償いのためだ。もうこれから一生食べることができないかもしれないような、豪華な夕食を食べながら、俺は設楽さんにこう聞いた。
「設楽さんはこれからどんな人生を送りたい?」
彼女はしばらく考えてこう返す。
「まだそんなにしっかりは考えてないけど、とりあえずは私と歩幅を一瞬に歩んでくれる人と結婚して、余裕ができたらいろんな人の夢を叶えてあげて、その人を幸せにできるような仕事をしたいかな。」
そして彼女はこう続けた。
「でも島田くんが受けてるサービスのような、仮初の夢を叶えるようなことはしたくない!一日限りの夢を叶えたって幸せにはならないよ。」
彼女の言葉を聞いて自身の愚かさを痛感した。俺は先の見えない未来を変えようと思って、今日1日だけの夢を叶えてもらおうとしていた。だが今日1日の夢を実現しようとすることでさえ、俺はサービスに任せて俺自身は何もしようとしなかった。そんなことで未来が見えてくるわけがない!俺は彼女にこう言った。
「設楽さんのおかげで自分の愚かさに気づけた気がするよ。俺もこれから気持ちを入れ替えて頑張る。本当にありがとう。」
彼女はこう返す。
「島田くんは愚かなんかじゃないよ!いつも大量の仕事を押し付けられても真面目に頑張ってるし、私なんかと仲良く話してくれるの島田くんぐらいだから。私周りに合わせるの苦手だからあんまり仲良い人もいないし…」
設楽さんはこう続けた。
「だから、私は島田さんみたいな人と付き合いたいかな!」
彼女の急な発言に俺は戸惑いながらこう返す。
「し、設楽さん?これってサービスの演出?」
彼女はこう返す。
「これは私の本音だよ。まぁ、あんまり気にしないで。それより私たちキスしないといけないんだよね?早くやろ!」
設楽さんに恥ずかしさってものはないのか!?まぁでもMDC社の人達も向こうで見てるだろうし、やらないとな。俺は設楽さんの顔を支えながら、彼女にキスをした。そして遠くにいるであろうMDC社の人たちに感謝を込めて、ちゃんと聞こえるようにようにこう叫んだ。
「正夢、サイコー!!!」
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