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撮影が進むにつれ、自分の中にある感情を無視できなくなっていた。
“ただの演技”のはずなのに、涼太の言葉や仕草に、胸が苦しくなる。
「俺は、しづらいけどね」
あの言葉が、ずっと頭の中に残っていた。
それがどういう意味なのか、考えたくなかった。
でも、もしかしたら、涼太もまだ——。
「次のシーン、準備お願いしまーす!」
スタッフの声が響き、私は現実に引き戻された。
次の撮影は、主人公同士が思わずキスしてしまう場面。
脚本では「ふとした衝動で唇が触れる」となっている。
だけど、本当にただの“演技”で済むのだろうか?
「宮舘さん、カメラ位置の確認いいですか?」
涼太がスタッフに呼ばれ、少し離れたところへ歩いていく。
その後ろ姿を、私はじっと見つめてしまう。
結局、私はまだ——彼を忘れられていないのかもしれない。
***
カメラの前、セットの中。
お互いに距離を縮めていくシーン。
「……もう、止められない」
涼太の低い声が、台本通りに響く。
ゆっくりと顔が近づき、唇が触れる寸前——。
——ドクン。
心臓の音が、うるさい。
カメラが回っていることも、監督やスタッフがいることも、すべて忘れそうになる。
そして——。
涼太の唇が、触れた。
ほんの一瞬のはずだった。
だけど、涼太がは、離れなあい。
「……っ」
唇が重なったまま、涼太がわずかに息を吸う。
ほんの少し角度を変えて、深く、確かめるように——。
これは本当に“演技”なの?
監督が「カット!」と声を上げるまでの数秒間が、永遠のように感じられた。
いや、もしかしたら、私たちはもう“演技”を超えてしまっていたのかもしれない。