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カフェを出て栄子と別れた楓は、再びマンションへ向かって歩き始めた。

その時楓のスマホが音を立てる。



「もしもし?」

「寄り道は終わったか?」



電話は一樹からだった。



(あれ? なんで私が寄り道したのを知ってるんだろう?)



楓は不思議に思いつつ答えた。



「帰り道に偶然知り合いに会ったんです」

「ふーん、それでカフェでお喋りしていたのか?」

「え? なんで知ってるの?」

「俺は傍にいなくても楓の行動を全て把握しているのさ」



一樹が愉快そうに言ったので、楓はハッとして辺りを見回す。

すると少し離れた後方に若い男が立っているのが見えた。男は道行く人に逆らうように不自然に立ち止まっている。



「もしかして後をつけさせていたの?」

「ああ、楓に何かあったら心配だからなぁ」

「心配なんていらないのに」

「いや、もし楓に何かあったら困るからな。だから用心するに越したことはない」



もし二人の関係が普通の恋人同士だったら、今の言葉は嬉しかっただろう。

しかし一樹との関係が普通ではない楓にとって、それは社交辞令のようにも聞こえる。



「本当に大丈夫なのに」

「まあまあいいじゃないか。ところで今日の夕飯なんだけど」

「あ、はい」

「今日は外で会食があるから俺の分は用意しなくていいよ。帰りも遅くなるから先に寝てて」

「わかりました」

「じゃあな。気をつけて帰れよ」

「はい」



スマホをポケットにしまうと楓は再び歩き始めた。

歩きながらさりげなくチラリと後ろを見る。すると先ほどの若い男はしらじらしく空を見上げながら口笛を吹いていた。

それがあまりにも可笑しくて楓はクスリと笑った。



(フフッ、バレてるのに……。それにしても誰かに心配されるなんてすごく久しぶりかも。昔は帰りが遅いといつも施設のお母さんに心配されたりしてたな)



そこで楓は急に思い出した。



(あっ! そういえばそろそろサンタクロースの手配をなんとかしないとだわ!)



楓は誰かいい人はいないかと悩みながらスーパーへ向かった。



その夜、楓は初出勤の緊張で疲れていたのか、急に睡魔が襲ってきて早めに就寝した。


早く寝たせいで早朝目を覚ましてしまう。時計を見るとまだ早朝の四時半だった。



(社長は何時に帰ったんだろう?)



そう思い寝返りを打ってベッドの反対側を見てみると、そこに一樹の姿はなかった。



(あれ? いない! もしかしてまだ帰っていないとか?)



気になった楓はベッドから降りるとリビングへ向かった。

リビングを覗いても電気は消え人の気配はない。



(本当にまだ帰ってないんだ)



念の為バスルームも覗いてみるがもちろんそこにもいない。

急に不安になった楓は玄関まで行き一樹の靴を確認する。しかしそこに一樹の靴はなかった。



(外泊? もしかして他に女の人がいるの?)



咄嗟にそんな考えが頭を過る。

その時ドアの向こうの廊下から人が歩いて来る気配がした。その足音は徐々にこちらへ近づいて来る。



(帰って来たのかな?)



楓は慌てて寝室へ戻ると布団にもぐった。

その時玄関のドアが開く音がして一樹が帰って来た。

楓はドキドキしながら布団の中でじっとしていた。


一樹の足音は寝室の前を通り過ぎるとリビングへ向かった。一度リビングへ入った一樹はすぐに廊下へ戻って来ると、今度は楓が寝ている寝室の扉を開ける。

楓はドキドキしながらしっかりと目を瞑り寝たふりを続けた。

すると一樹がベッドの傍へ来て楓の顔を覗き込む。



「寝てるのか……」



一樹はそう呟くと、楓の髪を優しく撫でてから寝室を出て行った。

シャワーを浴びに行ったようだ。



(あーびっくりした。それにしても朝帰りなんて……やっぱり女の人がいるのかな?)



一樹に本命の女がいたとしても自分には関係ないと思っていた楓だが、いざ堂々と朝帰りをされると妙な気分になる。

目覚ましが鳴る時間まではまだ二時間以上もあるのに、楓はなぜか悶々として寝付けない。



(なぜこんなにモヤモヤするの?)



楓は自分でもよくわからなかった。



(もし社長に本命の恋人がいれば私はここを出て自由の身になれるのよ。それってすごく最高じゃない?)



そう考えてみてもなぜか心のモヤモヤは晴れなかった。



その時シャワーを終えた一樹が寝室へ戻って来た。もちろん楓は寝たふりをする。

一樹がベッドに乗った瞬間マットレスが沈み込んだが、楓は必死に寝たふりを続けていた。

一樹はベッドに身体を横たえると、楓の首の下に右腕を差し込み肩を掴んでから自分の方へ引き寄せた。

引き寄せられた瞬間、楓は緊張のあまり思わず身体に力が入ってしまう。

すると一樹は今度楓の髪に鼻を埋め思い切り息を吸い込んだ。



「いい匂いだ……ホッとする」



耳元で響いた一樹の低音ボイスに、思わず楓の身体がゾクリと震える。

一樹はその動きを見逃さなかった。



「狸さん、おはよう」



(バ、バレてる?)



楓の心臓はバクバクと音を立てて破裂しそうになったが、それでも意地になりまだ寝たふりを続けている。

そんな楓に一樹はニヤリとして言った。



「楓が熟睡しているならキスをしてもバレないだろうな?」



(えっ?)



その時、楓の鼻にはシトラスベースのスパイシーな香りがほんのりと漂ってきた。



(あ……)



その香りを嗅いだ瞬間、楓は金縛りにあったように身動きが取れなくなる。

それと同時に楓の唇に何かが触れた。



「あっ……」



楓のささやかな抵抗の声はまたたく間に一樹の唇でかき消されていく。

一樹にキスをされているのだとわかった楓は、びっくりして目をパッチリと開いた。

すると目の前にはいたずらっ子のような表情の一樹がいた。


一樹は男の色気に溢れた眼差しで楓の瞳をじっと見つめていた。

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