テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「優子。俺の家に…………来ないか?」
彼の穏やかな声に、彼女は反射的に顔を上げると、キリッとした瞳が丸みを帯びる。
唐突な廉の提案に、優子は息を詰まらせた。
ここを出た後の住処も、何もかも白紙の状態の彼女には、彼の厚意だけでも、ありがたく思う。
けれど、彼の想いを利用し、家に転がり込むなど、できるはずがない。
それ以前に、廉はHearty Beautyの次期社長、優子は罪を犯し、ブランド名に深い傷を付けた前科者。
「今、俺は東新宿のエストスクエアで、一人暮らしをしている。部屋も二部屋余っているし、君が住んでも問題はない」
彼は、ごく自然に言葉を乗せているけど、部屋が余ってるから住めるとか、そんな問題ではないのだ。
(専務は…………私が犯罪者だって分かってて言ってるの? 前科者と一緒にいる、なんて知られたら……専務が……)
優子は、廉から視線を外すと、強くかぶりを振る。
「…………それは……できません……」
「なぜだ?」
「なぜ……って……」
彼の問い掛けに、優子の中でジクジクと苛立ちが募ると、手をギュッと握りしめ、廉に鋭い眼差しを刺す。
「そんな事、できないに決まってるじゃないですか!!」
強い口調で、初めて感情を露わにした彼女に、廉は、色香を纏っている奥二重の瞳を見開かせる。
優子が、彼から顔を背けると、長くも深いため息を、震わせながら吐き出した。
「あなたは…………次期社長……。Hearty Beautyを…………輝かしい未来へ導く方です。そんな方が!!」
気持ちが昂った彼女は、廉のワイシャツの袖をギュッと掴む。
クッキリとした瞳の奥が、熱を孕ませながらピリピリと痺れ、視界が歪んだ。
大粒の雫が目尻に溜まり、静かに頬を伝っていくと、優子は、言葉を振り絞ろうと、ハァッとため息をつく。
「元犯罪者の私と……関わってはダメです!!」
顔を濡らしながら、廉を射抜く優子。
二人は、ひとしきり眼差しを絡ませたままでいると、メインルームに、時が凪いでいるような静寂が漂っていた。