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「あなたが…………私の事を、忘れられない女……私の事を…………ずっと好きだったって言ってくれた時…………こんな私の事を、想ってくれる人がいたと思うと……すごく……嬉しかった……」
優子が濡れた瞳を伏せながら、訥々と言葉を綴っていく。
「でも……あなたが私といる事で…………会社も……あなたも…………深く傷ついてしまう! だから!! あなたは私と一緒にいては……私と関わってはダメ!!」
それは同伴の時、別れ際に彼女が抱えていた、廉に対する思いだった。
「あなたは……日の当たる道を……まっすぐに歩むべき方! 私は……犯罪者の烙印を死ぬまで背負い、日陰の道を歩くしかない! 私と一緒にいる事を、誰かに知られてしまったら…………あなたの人生が終わってしまう! 名誉も地位も、築き上げたものが一瞬で消えてしまう!! 私のせいで…………あなたの人生が滅茶苦茶になるなんて…………それだけは嫌だし、耐えられませんっ!!」
優子は、弾かれたように顔を上げると、ぐしゃぐしゃに顔を濡らしているのにも構わず、彼に訴えた。
「ゆ…………優子……」
彼女の思いの丈を知った廉は、つたなく腕を伸ばし、優子の頬に触れようとする。
けれど、彼女は彼の手首を掴むと、静かに首を横に振った。
「同伴の時……私は…………あなたの気持ちを……利用して……今だけでもいいから愛して、と…………軽々しく言ってしまいました……。申し訳ありませんでした……」
優子は、廉の手首を握りしめたまま、首を垂れる。
「いや…………俺は……優子を愛させて欲しいと望んだ。君が謝る必要はない……」
廉の眼差しの気配を感じながら、優子の中に、些細なわだかまりが芽吹いていく。
「今だから言える事ですけど…………専務が部長から昇進した時…………この先も部長と一緒に仕事ができるって…………思ってたので…………ちょっとショックでした。『松山部長、雲の上の存在になってしまった』って……」
在職中の思い出話をしている彼女は、なぜこんな話を廉にしているのか、と自問する。
それは優子の中で、この日で廉と会うのが最後だと直感したから。
「昇進辞令が出た日……私が広報部に向かおうとした時、専務となったあなたに挨拶したら……冷たく返されて……」
優子は言いあぐねているのか、曖昧に笑顔を廉に向けた。
「私……あの時、部長はきっと、『広報部にいた頃の自分ではない。俺は専務になったんだ』って気持ちだったんだろうなって…………密かに思っていたんですよ……?」
彼女の胸中に抱えていたものを初めて知り、廉は、片眉を小さく上げると、憂いの色を帯びた眼差しを向けてきた。