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26話 塔と魔法陣
風が
塔の内部から
逆流するように吹いていた
ふっくらは
丸い体を揺らしながら
入口に立つ
短い脚は
少し震え
腹が地面に近い
塔の中は
昼なのに暗い
琶が前に進む
大きな体
長い首
重なった鱗
畳まれた翼が
きい、と小さく鳴る
鳴った理由は
わからない
塔の壁は
ところどころ
削られていた
誰かが壊したのか
塔が自分で崩れたのか
判断できない
ふっくらは
足元の石を見つめる
粉になった破片の上に
踏まれた形跡がある
でも
誰のものか
残っていない
階を上がるたび
空気の層が変わる
冷たい
そのあと温い
そしてまた冷たい
呼吸が
少しだけきつくなる
最上階
魔法陣があった
線はところどころ欠け
色は抜け
それでも
まだ“動いている気配”がある
ふっくらは
近づくのをやめる
琶が
魔法陣の端に
爪をそっと触れる
次の瞬間
空気が
たわんだ
魔法陣の上に
影のような線が浮く
人影にも
獣にも
見えない
ただの揺れにも
見えない
ふっくらの耳が
じんと痛む
琶は
その影を見ても
動じない
長い首が
すこしだけ傾く
観察しているようで
思い出しているようでもある
影は
一度だけ
形をゆがめ
すっと消えた
魔法陣の線が
ひとつ
完全に消える
最初からなかったように
琶は
静かに立ち上がり
塔の奥を
一度ふり返る
そこには
何もない
“何もないはずの場所”を
しばらく見てから
琶は
塔を出る
ふっくらは
こわごわついていく
丸い体が
ふるふる揺れる
外に出ると
風の向きが変わっていた
塔はもう
ただの廃墟にしか見えない
ふっくらは聞けない
何が消えたのか
何を見たのか
琶は言わない
依頼は
達成された
そういうことに
なっている
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