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——これは、焔がオウガノミコトの手によって異世界へ放り出された日から、数ヶ月程先のちょっと特別な日のお話。
「知っていますか?本日は節分らしいですよ」
コトンッと軽い音をたてながらテーブルにティーカップを置いた。最近は当然の様にすぐ隣に座り、ピタリと互いの腕をくっつけて寄り添う事が当然となっていたのだが、今日は珍しく焔の対面に腰掛けた。先程までティーカップなどをのせていたトレーもテーブルの端っこに置いておく。
「ほぉ、そうなのか」
心底どうでもよさそうに焔が返事をして、俺の用意したお茶を飲む。
今日淹れた紅茶はセイロンティーだ。ふんわりとした湯気にまじり、正統派と言える上品な香りが焔の鼻腔をくすぐっている。緑茶やほうじ茶といった類の物ばかり今まで飲んできた彼にとって、日々飲む機会の増えた紅茶の味は新鮮な様で、心が解れたみたいな顔をしながらほっと息を吐いた。
「……此処でも、『節分イベント』なんか……ある、のか?」
俺の視線から逃げるみたいに顔を少し逸らし、焔が小声でこぼした。
もしかして焔は節分が嫌いなのだろうか?『鬼は外、福は内』と連呼して豆を鬼に向かって投げるイベントを、本物の鬼らしい彼が好きな訳がない、か。かといって、『あんなモノは嫌いだ』と拗ねたり騒いだりもせず、こちらの様子を伺うだけにとどめている。そんな彼の姿を前にして、俺は焔のいじらしさに負けて頬を緩めた。
「いいえ、ありませんよ。和風テイストな世界ではありませんからね。まぁ……例外も、もちろんありますけども」
安堵させる様に、ゆっくり優しく事実を伝える。
「そうか。そう、か……」と言う焔の声に安堵の色が見て取れた。 もし節分イベントが発生していたとしても、愛おしい者に向かって『鬼は家から出て行け』と追い立てるイベントになんか俺もソフィアも参加するはずがないのに、馬鹿なお人だ。だが……五朗だけは空気も読まずに豆を投げてきそうで、想像するだけで何だかかなり腹が立ってきた。
(もういっそ、奴が粗相をする前にぶっ殺そうか?そうだな、そろそろそうしよう)
別に居てもいなくても、戦力的にも立ち位置的にも全く支障の無い存在だが、焔を傷付けるのなら許せない。自分だってまだ一度も虐めていないのに、あんな奴なんかに先を越されてたまるか。焔に与えるモノは何だって自分が初めてでなければ許せないからな。
五朗はまだ何もしていないのに、想像だけで五朗への殺意が沸々と膨らんでいく。
——だがしかし、今はそれどころではない。本題から自分の思考がズレていた事に気が付き、俺は軽く頭を振って雑念を追い払った。
「最近って、豆まきはせずに、ヒイラギの小枝にイワシの頭をさした物を飾って終わる人もいれば、恵方巻きを食べる人も増えたきましたよね」
「そうなのか?知らなかったな。……節分の前後は引き篭もっていたから、人間共の変化は何も知らん」
ずずっとお茶を飲みながらそっけなく答えているが、焔は少し嬉しそうだ。
「節分は……正直好かんが、古い風習が衰退していくのは忍びないなぁ」
「そうですね。でも私は、焔様が豆をくらって嫌がる姿を見なくて済む事を嬉しく思います」
にっこりと微笑みながらそう言うと、「そうか」と素っ気無く焔が答えて、またお茶を一口啜った。
さて、ココからが本題だ。
「焔様、焔様」と声掛けながら、トレーの上にある物にかけてあった布を取る。
「何だ」
「こちらをどうぞ。ちょっと作ってみたんです」
調理台へ素材を入れて、レシピ一覧から料理名を選択すれば完成品が出来てしまう調理用の作業台は使わず、せっせと手作りした物がのるお皿を、すすっと焔の前に差し出す。
すると焔は料理を指差し、「これは?」と訊いてきた。
「先程話題にあげた、『恵方巻き』です」
「……恵方巻き。そうか、これが。……で?」
「本日は節分です。なので、せっかくだし食べてみませんか?」
笑顔を崩さず、そう伝える。『何か企んでいないか?』と不信がる焔がじっとこちらを見てくるが、今の彼には嘘を見抜く特技が発動していないみたいなので、真意はバレずに済む——はずだ。
「まぁいいか。別に断る理由も無いしな、頂こう」
「えぇ、えぇ、是非そうして下さい!」
「……胡散臭い笑顔を向けるな」
「ひ、ひど!」
表現が的確過ぎてちょっと辛い。
「全く……」
焔が恵方巻きを手に取ろうとする。だが、ふと疑問が頭をよぎった。
(焔は、恵方巻きを食べる時の作法を知っているのだろうか?)
——と。 何処になのかは知らないが、節分時には引き篭もっていたと言っていた。ということは、積極的にその類の知識を得ている可能性は低い気がする。ん?——そもそも恵方巻きを知らない時点で知っている訳がないじゃないか。
なので俺は慌てて「待て!」と言って、恵方巻きを掴んでいた焔の手に手を重ねた。
「恵方巻きには食べる時の作法があるのですが、知っています?」
「……クリスマスケーキの時みたいに、ただ普通に食えばいいだけじゃないのか?」
「違うんです。ちゃんと作法があるんです」
面倒だな、と彼の顔に書いてあるが流す事にする。
「節分の夜に、毎年変わる『恵方』を向き、端から無言のまま丸かじりするんです。途中で口を離してもいけません」
そう言った俺の顔をじっと見て、焔が窓の方へゆっくり顔を向けた。言葉にせずとも言いたい事はわかる。『めっちゃ昼やん』と思っているのだろう。しかも今年の『恵方』なんか調べる方法が無い為どちらを向いていいのかわからない。現状で色々もうグダグダなので、ツッコミたくなるのも当然だ。
「細かい事は気にせずに、まるっとかじってしまって下さい!」
太めに作った恵方巻きを焔に握らせ、口元に近づけさせる。だが軽く体を後ろへ引かれ、「わかったからまずは落ち着け」と言われてしまった。
一呼吸置いて落ち着いた素振りをする。
「んぁー」
すると『よし』と言うみたいに一度頷き、口を大きく開け、焔が恵方巻きを口に含み始めた。一瞬見えた白い八重歯と赤い舌が妙にいやらしく感じ、ゾクッと背中が震える。
モグモグと噛もうとしているが、恵方巻きの海苔が湿っていてちょっと噛みにくそうだ。しかも恵方巻きとしては標準的な物よりもかなり太めに作ってあるせいか、少し苦しいみたいで目隠しの眦近くが軽く湿ってきているから少し涙が出ている様だ。
(……エロいな)
思った通りだ。いや、予想よりもかなりエロい。ただ恵方巻きを食べているだけなのに、まるでフェラチオをしているみたいに見えてくる。いつもは角度的に真正面からそんな顔を見る機会が無かったので、興奮が止まらない。
「絶対に口を離しちゃダメですからね?そのまま食べ続けて」
眉間にシワを寄せるが、素直に従ってくれている。噛めた分を無理矢理飲み込み、細い喉の動きが俺の精液を飲み込んでくれたみたいで、呼吸をする事が苦しくなってきた。
(いつも、こんな顔をしながらモノを咥えてくれているのか?)
興奮のせいで心臓がバクンバクンッと激しく鼓動し、テーブルのおかげで隠れているアレがちょっと勃ってきた。
いい、実にいい。このまま何本でも食べ続けていて欲しいくらいだ。海苔がまだパリパリのタイミングで出さなくって本当に正解だったな…… 。
——今朝起きて、まだスヤスヤと眠る焔の穏やかな顔を見た瞬間、俺はふと思ったんだ。 『あ、コイツのフェラしてる時の顔が見たい』と。
立っている自分の前にしゃがんで咥えている時では無く、こちらが寝そべっている状態の時に舐めている姿でも無く。真正面で、苦しそうにしている顔が見てみたい。
でも実際に俺のモノを咥えてもらうと、あの拙い動きに意外にも翻弄されてしまい、頭がすぐに煮詰まってしまってじっくり表情を楽しめない。かといって他の奴のモノを咥えている様子を観察するなどは論外だし、まず俺が耐えられない。絶対に介入者を殺してしまう。しかし……玩具はあからさま過ぎて嫌がられそうだ。
棒付きのアイス、フランクフルト、アメリカンドック——
ソレっぽいけど、咥えてくれそうなモノを色々ベッドに寝そべりながら考えていて、『そういえば、今日は節分じゃないか?』と気が付いた。
(食事の必要が無い焔でも、イベントに託けて与えれば食べてくれるんじゃないか?)
飢えを知らぬ身故に、気分によっては食べてくれない事もあるが、イベント絡みなら祭り好きだし食べてくれそうだ。しかも恵方巻きなら、俺のモノと同等サイズくらいに太くて長く作っても違和感が無さそうじゃないか。
恵方巻きは途中で噛んではいけないし、最後まで黙って咥え……もとい、食べ続けねばならぬ物であることも都合がいい。俺のアレを咥えているんだなと思いながら見ている時に、ガブリと食い千切られては堪ったものではないからな。
(コレだ!)
もうコレしかない。バレれば『変態め』と言われてしまいそうだが、そんな事はどうでもいい。見てみたい、是非とも、すぐに。
あんな小さなお口では苦しくって泣きそうになってくれて絶対に可愛いに違いない。いつも上目遣いでこちらを見てくる時だってそうなのだ。あんな姿を冷静に正面の視点で見られるかもしれないと思うだけで、今この瞬間だって眠っているお口に突っ込みたくなるが、流石にソレは耐えた——
(偉かったな、あの時の俺も)
あと少しで恵方巻きを食べ終わってしまいそうな焔を前にして、興奮ゲージが振り切れ過ぎて、むしろ脳内が冷静になってきた。スンッと真面目な顔をしながら回想から抜け出し、彼から漂うエロスを改めてじっくりと堪能する。
「んぐっ……ふっ……ぅっ」
少ない残りを噛もうとするたびにこぼす声が完全に喘ぎ声にしか聞こえない。が、本人に自覚は無いみたいだ。かなり太い恵方巻きから口を離せないせいで無理をし続けているせいか、頬も少し赤く染まっている。
あぁ、もうコレは他人には決して見せてはいけない代物だ。ネットに流すならモザイクをかけねばならないレベルでイヤラシイ。そもそも俺以外には絶対に観せる気など無いのだが、そんな事を考えてしまうくらい、ずくんっと腰に響く淫猥さだった。
「——た、食べ切ったぞ」
淡々とそう言いつつも、表情がちょっと嬉しそうなのがまた可愛い。
「もう一本あるが、リアンは食べないのか?」
そう言って軽く首を傾げる姿までもが可愛いとか、お前をこのまま頭から食べてやろうか。
「ただいま戻ったっすよー!」
突然バンッと扉が開き、五月蝿い奴が帰って来た。ソフィアと共に森の中へ薬草を集めに行くと言っていたからもっと長い時間戻らないと思っていたのに、今日はものの一時間で帰って来やがった。 アホか。もっとデートっぽく、散々引き伸ばして二人きりを楽しめば良いものを。
『五月蝿いですよ。また体の角で殴りましょうか?』
「か、勘弁して下さいよ。自分の頭、タンコブだらけになっちゃうじゃないっすか!」
『いいんじゃないですか?獣耳の生えていそうな箇所を何度も打って、熊みたいにしてあげますよ』
「ケモミミプレイっすか……ソレはそれで、ゾクゾクっすね。希望としては自分じゃなくってソフィアさんに着けて欲しいっす!」
『死にたいみたいですね』
「冗談っすよ、冗談!」
気易いやり取りをする二人の様子を見ている焔の表情がまるで父親だ。じゃあ俺が妻か。……悪くはないが、夜の立場は今まで通りで願いたい。
「あれ?恵方巻きじゃないっすか。あぁ、そういえば今日は節分でしたよね。余ってるなら自分ももらっていいっすか?好きなんっすよ、太巻。最近は色々あっていいっすよね。トンカツ入ってるのとか、海鮮巻きのとか。そういやロールケーキの恵方巻きもあった様な……——ってか、何すかコレ、長っ!太っ!太巻にしても、デカ過ぎっすよコレ」
いつも通りの五月蠅さで、段々とイライラしてきた。
そりゃぁまぁ基準にしたサイズが俺の“アレ”だからな。
そうか、やっぱり太いか……ふふっ。
そんな事を考える自分が流石に変態過ぎて気持ち悪くなってきたが、表情を変えずに「五朗用のはキッチンにあるのでそちらをどうぞ」と、別の物を勧める。今目の前にあるコレは焔専用なのでお前になんぞ食わせて堪るか。
「じゃあ、ん」
「ん?」
焔が五朗達の帰宅に対し温かな視線をやるだけで終わらせ、俺に対し「ほれ、お前も食え」と言いながら、残っていた恵方巻きを口元に近づけてきた。
「私も、ですか?」
「こんなもん二本も食えるか。だからお前が食え」
悪戦苦闘したからか、もう食べてはくれないそうだ。味は悪く無かったはずだと思うだけに残念でならない。
「……わかり、ました」
コレを食うのか?とかなり複雑な気分だが、ここで断るのも不自然だろう。仕方なく受け取ろうとしたんだが、「さっさと口を開けろ。ほれ」と、恵方巻きを差し出してくる。
(食べさせてくれるのか?)
人目があるのでちょっと照れるが、かなり嬉しい。
「じゃあ、いただきます」
あんぐりと口を開けて恵方巻きをパクリと咥えたが、確かにちょっと苦しい。俺よりも口の小さな焔ではもっと辛かったに違いない。
「あぐっ。んっ、ぐっ」
口を離してしまわない様に気を付けながら、必死に食べ続ける。
じっと、じーっとその姿を焔が見てくるもんだから、なんだか緊張してきた。しかも、恵方巻きを受け取ってしまいたいのに、持つ手を離してくれない。きっと今は、俺にコレを食べさせたい心境なのだろう。
仕方なくテーブルに手をつき、前のめりになりながら頑張って食べていく。
「ふっ……んっ、うぐっ」
鼻で呼吸をしつつ食べていくが、我ながら美味しく出来ているけど大変だ。しかも焔が全く視線を逸らしてくれず、何か卑猥なシーンを見られているような気分になってきた。
コレではさっきの逆だ。 俺も同じ事をしてしまっていたのだろうか?……していたよな、確実に。
「……なんか、エロいっすね」
側で俺達を見ていた五朗にそう指摘され、驚きに目を見開き「——ングッ⁉︎」っと叫ぶ。口が離れてしまいそうになったが、焔に顎を掴まれ、より深く口の中へ恵方巻きを押し込まれてしまった。
「そうか、コレは『エロい』のか。……そうだな、あぁ。ずっと何か引っかかっていたんだが、ソレだな」
ハッした表情をして、焔がなるほど納得する。
「リアン、早く食べろ。ソフィア、ちょっと用事を思い出したから今から宿屋に行って来る」
「フグンッ⁉︎」
咀嚼したモノを口から吹き出しそうになったが、必死に耐える。
(おい。お前、今……何て言った? 宿屋に行くと聞こえた気がするんだが、気のせいだよな?)
『了解しました。いってらっしゃいませ』
「——んんんんっ⁉︎」
ソフィアの言葉まで卑猥に聞こえてくる始末だ。
「あ、出掛けるんすか?了解っす。じゃあこっちは二人で留守番してますねー」
何も察していない五朗が椅子に腰掛け、いつの間にかキッチンから持って来た細くて小さな恵方巻きをもぐもぐと食べ始める。
「食べたか?食べ終わったか?」
こちらの様子を伺っている焔の耳がちょっと赤く、珍しくムラッとしている感じが漂ってきているせいで、こっちまでまた変な気分になってきた。
(コレはもう一分でも早く食べ終わらなければ!)
残っていたものを咀嚼する事を諦め、ジュースかのように恵方巻きを残らず飲み込んだ。米が引っかかって喉が痛くて苦しいが、ソワソワとしている焔を五朗達の前にこれ以上置いておきたくない。このままでは焔が猥褻物陳列罪で捕まってしまう。
「食べましたよ!」と声を掛け、席を立って、焔の後ろに回る。即座に腰を抱いて立ち上がらせると、攫うようにして拠点の出口へと向かった。
「では、行ってきます!」
『はい、行ってらっしゃいませ』
きちんと挨拶をするソフィアの隣で、五朗は恵方巻きを咥えたまま「んんーっ」とだけ言って、手を振ってきた。
「慌てるな、俺は逃げんから降ろせ」
言う事は聞かず、小柄な焔を脇に抱き抱えたまま外へ出る。誘ったのはそっちなのだから少し黙っていてくれ。
巨大な妖狐の姿に変異して背中にヒョイッと焔を乗せて転移ゲートを目指して即座に走る。
あまりに楽しみ過ぎて、移動中ずっと、ちょっと鼻血が垂れそうだった。このままそこいらで青姦でもいいんじゃないだろうか……。だけど二度目のソレは殺されそうなので提案すらも諦めた。
——こうやって、イベントをまた一つ迎えるたびに、『誰かに必要とされたい』という自分の根底にあり続ける欲求が満たされていく。特に今回は、焔から求められた事でいつも以上に、大量に愛情を注がれている様な錯覚に溺れる事が出来た。
俺はこの日を、一生忘れないと思う。
【節分(リアン・談)[リアン×焔]・完結】