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アイツだけがモテるなんて許せない

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アイツだけがモテるなんて許せない

52 - 【番外編④ 琉成×圭吾】二人の関係・最終話(小牧琉成・談)

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2024年08月20日

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圭吾の食事が終わり、片付けを済ませてからホットレモネードを二杯分淹れ、食卓テーブルの椅子に座って一息吐く。充達は流れでもう一泊する事にしたと連絡が入ったので、今日も二人きりだ。


——そう、二人きり!


つまりは『まだ喰べ放題のバイキング状態にあるんだ!』と思うと、軽食を食べて今はちょっとだけ腹が満たされている圭吾をベッドに運ぶか、近くにあるソファーに誘導したい気持ちでいっぱいになってくる。もう太陽はすっかり沈んだし『明るいから嫌だ』とは言わせない。


「話がある」


定位置である対面の席に座る圭吾が、真剣な顔で言った。

「……ん?ナニナニ?」

背筋を正して座る姿がとっても綺麗だ。 圭吾は自分の事を『冴えない』『モテない』と卑下する事が多々あるけれど、彼の所作はいつだって綺麗で凛としている。延々と色々な物を食べている姿はちょっとリスっぽく、ショッピングモールでマネキンが着ている服をそのまま一式買って着ちゃっても、脚が長くて細身のおかげかとっても似合っている。本人は薄っぺらい体を嫌っているみたいだが、骨格の美麗さがよく分かる素晴らしい肉体だと俺的には思ってる。

空気を読みつつも、淡々と正論しか言わない事で異性からは距離を置かれがちだけど、そのままでいて欲しいものだ。圭吾の良さを知っているのは常に俺だけでいいからね。


「お前は、俺の何処がそんなに好きなワケ?」

「——そこから⁉︎」


言ったよね?初めて関係を持った日にちゃんと!

——あ、『流した』んだったね……そういえば。


まぁ、あの時は場所も場所だったし、お互いに初めての事で興奮し過ぎていて、事後にはぼぉっとしていたから、圭吾の記憶にはあまり残っていなくても無理はないのか。

「やっぱ、常に美味しそうな匂いをさせているトコロとか、かなー」

香水の類や匂いの強い物を好まないうえに、性欲があまり無く、食べ物の匂いばかりを常に纏っている圭吾が美味しそうでならない。最初はただそれだけだったのに、その感情がイコールで性的興奮に繋がるのに時間はかからなかった。真面目で真っ直ぐで、達観している気になっている雰囲気とかが可愛くってならない。

「あとはお決まりだけど、外見とか、性格とかだね」

「そうか。じゃあ次。琉成は、ゲイなのか?」


(次に気になるのは、ソコなんだね。まぁいいけども)


「……さぁ?圭吾以外をどうこう思った事が無いからちょっとわかんないかな」

「んじゃ、誕生日……は、昨日だったよな。えっと血液型は?」

「AB型だよ」

「だろうな」と間髪入れずに言われた。血液型別の性格傾向的にきっと予測は出来ていたんだろう。


「好きな食べ物は?」

「嫌いな物は」

「趣味は……って、すまん。それも昨日話していたな、えっと——」と、 次々に質問の嵐が襲ってくる。一応答えはするものの、いつまで続くんだこの話は!俺は早めにベッドへしけこみたいというのに。


「——待って待って待って!何コレ、事情聴取?」


「いや、違う」と圭吾は首を横に振るが、されている側的にはそうとしか思えない。

「……つ、付き合ってるのに、俺は琉成を何も知らんとか、嫌だろ?」

照れくさそうに視線を逸らしてくれるが、でも——


「いや全然」


サラッと本心を言ったら、「俺は気になるんだ!」と言われてしまい、反論出来ない。

「俺の事を碌に知らないのに抱かれちゃってるギャップが、すごく燃えるんだけどなぁ……残念だ。モブのおっさんに快楽落ちさせれていくみたいでさ」

「お前の特殊性癖になんか付き合ってられっか!」

全くもってその通りで、説得の余地は無いなと諦める事にした。

「高校の時は何のバイトをしていたんだ?」

まだ続くのか!と思うも、素直に答えていく。

「デバックのバイトをしていたよ。今はもう止めたけど、あれはいい勉強になったなぁ」

「でばっく?」

「プログラムの中にあるバグを見付けて修正し、正しく動く様にする作業だよ」

「へぇ……。んじゃお前、今はどうやって此処の家賃とか払ってんだ?バイトはもうしてないとかって、昨日言ってたけど」

「自作のプログラムで日銭を稼いでるよ。ネット上に溢れかえっている莫大な情報を勝手に解析して、最適なタイミングを測って勝手に株とかそっち系のモノを売買してくれるから、もうバイトはしなくていいかなーって」

「何だそれ……凄過ぎじゃね?金の卵じゃんか」

「たいした事はないよ。大金稼ぐとヤバイのに見付かるから、一件あたりの稼ぎは相当少ないしね。でも、チリも積もればなんとやらで、もう俺達の家を買えるくらいには貯まったから、次はお墓の資金かなぁ」

「……は?」

「卒業後は、パートナー制度のある地域に引っ越そうねー」

圭吾の方へ手を伸ばし、笑顔を作ってギュッと彼の筋張った手を握る。


「……え、何。まさか俺、お前と結婚すんの?」

「するでしょ?」


いつもの様にニコニコ笑い、握る手に力を入れた。断らせる気は更々無く、もしそうなったとしても当然何年かけてでも応じさせるつもりだ。

「断ったら監禁でもしかねん顔だな」

「しないよー、んな事は。圭吾は圭吾の人生を好きに生きて。でも伴侶が俺であれば、それでいいの」

スマホ、パソコン、監視カメラ等々、今は本当に便利な世の中だ。山岳の奥地や海底の中にでも隠れない限りは、常に圭吾は俺の監視下にあり、実質監禁しているも等しいくらいに全てを把握しておけるのだから。

「相当無茶苦茶な事言ってんぞ?お前」

「そうかな。んでも、交際してるんだし、将来を夢見るのは普通のことだろう?」

「……」

圭吾が『結論を早まったな』と言いたそうな顔をしている。


空気を読めない。

察しない。

言葉を言葉通りに受け止める。


——俺を、そんな奴だと思い込ませる行動をしてきたおかげで圭吾は、俺の前では感情を全く隠さずに顔に出してしまう。 そんな彼も可愛くってならない。 掌で好きな人を転がし、自分の望む結果に導く為には何をすればいいのかを考える事が楽しくってしょうがない。その為だったら何だってするし、従順な犬のフリだっていくらだってしてやんよ。


「……ま、いっか」

「ンンンーッ⁉︎いいの?」


望んでいた答えのはずなのに、こっちが驚いてしまう。 『馬鹿か!シネ!巫山戯んな!俺の人生を一部であろうと勝手に決めるな!』くらいは言われる覚悟をしていたのに、意外だ。

「お前ほど俺を好きになってくれる奴なんか金輪際現れんだろ。こっちから探す気もないし、そうなるとだ、このチャンスを逃すと俺に恋人が出来る確率って、天文学的数値ってやつになるだろ?」

「そうだね。もし最悪奇跡的にそんな奴が現れても、俺が排除するし」

「んじゃ俺は、せいぜい此処の居心地を良くする努力をしないと、だなぁ」

空いていた手で頬杖をつき、圭吾がホットレモネードの入るカップに視線を落とす。


(『思っている』んじゃなく、本当に人生に対して達観してたんだ……)


ギャーギャー言う割に結局は受け入れてくれちゃう部分を、ただ場の空気に流されているだけに思えていたんだが、違ったのだなと思うと益々惚れてしまった。

「好き!」

「煩えハゲ」

微塵も禿げてないのにまた言われてしまった。

「そこは彼氏なんだから、『俺もだよ』だろ?」

「俺がお前を、恋愛的に好きになる要素があると思うのか?触れられても嫌悪感は無い、話していて楽しいくらいなもんだからな?」

「昨日『好き』って言った!『付き合おう』って、ハッキリ言葉にしたの、そっちじゃん!」

椅子から立ち上がり、バンッとテーブルを両手で叩く。

「落ち着けよ。……友人として、な。恋人として……となると、正直よくわからん。あんなんされても嫌いじゃ無いんだし、それなら多分好きなんじゃねぇの?的な感じだ」

「じゃあ何?……まさか、場合によっては付き合うのも無しになるの?」

冷静に考え直し、今更リスタートとか勘弁してくれ。 こちとら童貞も処女も圭吾に捧げたのだ。押し売りだろうが、当然の流れで無理矢理奪いもしたが、俺の覚悟だけは買って欲しい。

あーもう!こんな事になるのなら、真面目にもっとちゃんと高校のトイレでの一件直後にお互いの関係や気持ちをもっと早くから話し合っておくべきだった。そうしないといけない事はわかっていても、受験だなんだで忙しくって圭吾側がまとまった時間が取れなかったからなぁ。


(……その割には、ちゃんとえっちな事だけはさせてもらっていたが、アレは俺という存在を稼働させる為の燃料的なものだったのだから許して欲しい)


「それは、宣言した以上守る。お前からは逃げられない気がするし、他を選ぶ選択肢が無いなら、恋人として好きになれる様に努力するしかないしな」

「達観を通り越して、諦めの境地に至ってない?それ」

「かもな」

「……なれそう?」

「いつも通りのお前なら、多分」

「マジか!じゃあじゃあ、ベッド行こう!」

座る圭吾に飛び付き、ぎゅーっと抱きしめる。


(『いつも通り』ね、了解了解。ってことは、ねっとりしつこく迫ってもいいってワケだ。んんーっ何だかんだ言ってぇ、圭吾ったら俺の体にすっかり溺れてるじゃーん)


笑いながら頭に頬擦りをしていたら、「調子にのるな」と叩かれた。

「いいじゃん、彼氏なんだし!」

「彼氏……そうなんだよなぁ。ん?でもお前、昨日俺の上に乗ってきたよな。んじゃあ俺が望めば、受け手側でもいいって事か?」

「あぁ、あれね。どっちも経験してみてわかったけど、俺は攻めがいいな。グダグダになってく圭吾をこれでもかーってくらいに追い立てるのがやっぱ楽しいや」

「とんだ変態野郎だな!俺に選択肢は、ココでも無いのかよ」

「ど?好きになれそう?まぁ、なるしかないんだけどねー!」

「コレが彼氏とか……ホント俺って運ねぇなぁ……」

「そ?少なくとも収入に関しては申し分無いくらいの蓄えがあるし、この先も注目される分野に進もうとしてるし、結婚するなら相当な優良物件だと思うけどなぁ、俺は」

「……底知れない感じがこえぇ」

「えぇー!背だって高いし、見た目だって悪く無いよね?ベッドでの相性だって最高だったろう?もうこれは——」と言って、圭吾の体をよっと持ち上げる。軽いおかげで、お姫様抱っこだって簡単だ。

「よし!再確認、しようか」

「いやいい!昨日……今朝?とにかく、散々、確認の必要なんか皆無なくらいにヤッたろ!ちゃんとわかったから!」

「まだまだだなぁ。全然俺の愛情が伝わっている気がしないんだよねぇ。どれだけ圭吾が好きでぇ、喰べたくって仕方なくって、何だって捧げたいくらいなんだって知ってもらわないとぉ。えへへへへ」

大の男を持ち上げていようが私室へ向かう足取りが軽い。 付き合うことは確定したし、俺から逃げる気は無いと言ってくれた。今だって、文句は言いつつも暴れておりようとしないんだから、きっと体は期待しているのだろう。


「扉、開けてくれる?」

「……」

ものすごく渋い顔をしつつも、開けてくれる。 性欲の薄い圭吾の体が俺の手で淫靡に書き換わっていく事が嬉しくって堪らない。俺にとって都合いい方向へ、徐々に、徐々に——

いつか体も心も将来さえも、その全てを喰らい尽くして圭吾の全部が俺色に染まった時。目の前の俺が忠犬なんかじゃないと知って、圭吾がどんな顔をするのか今からすごく楽しみだ。



【番外編④・終わり】

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