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午前1時40分。
千葉県市川市、「ジュンサイ池緑地」の南側の遊歩道。
山科と日下部の刑事コンビは、懐中電灯を頼りに池の奥へと足を踏み入れた。
夏の夜、虫の声だけが響きわたる。だが時折、木々の間から聞こえる不自然な**「呼吸音」**が耳に残る。
「この奥……確か、昔は自然観察小屋があった場所ですね」
日下部が言う。
「そうだ。今はもう使われてないが――」
そのとき、森の中で枝がパキンと折れる音がした。
二人は一斉にライトを向ける。そこには……
――人影があった。
だが、その影は異様だった。
全身を白い毛皮のようなもので覆われ、背丈は2メートル近い。
動きはパンダに似ているが、足取りはまるで人間のように正確で、速い。
「止まれ!警察だ!」
山科が叫ぶが、影は振り返ることもせずに、観察小屋の方へ走り去った。
二人が後を追うと、小屋の扉がわずかに開いている。
中は薄暗く、埃っぽい空気が漂っていた――が、室内には驚くべきものがあった。
壁にびっしり貼られた、パンダの筋肉や骨格のスケッチ図。
そして机の上には、**パンダの毛皮に酷似した素材で作られた“義皮”**と、何本もの注射器が並んでいた。
その中央に、手書きのメモが残されていた。
「メイリン第2形態、安定化まであと24時間。人間の遺伝子との統合は順調。
これが成功すれば、“動物”という言葉の意味を、人間は見直すだろう――」
「……なんだこれ……」
日下部が呆然と呟く。
そのとき、窓の外でガサガサと音がし、白い影が再び現れた。
だが今度は、それだけではなかった。
――その隣に、小さなパンダが1匹、ついてきていた。
次回:第5章「融合実験」
ついに見えてきた“メイリン”の正体と、消えた動物たちの秘密。市川の静かな池で、科学と倫理を揺るがす真実が明かされる――。