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「それが明るみになっても、全て不起訴になってたって理由が背景にあるからじゃない?」
「…………っ、す、全て?…だ、だって強姦…って、性犯罪ですよね…?!な、なんで、不起訴なんかに……!」
取り乱して前のめりになりながら仁さんにそう聞くと、代わりに将輝さんが口を開いた。
「所謂、貧困ビジネスってやつ」
「貧困、ビジネス…??」
「そう、不起訴になったのも、岩渕の祖父が司法と被害者に示談金を渡していたんじゃないかって当時は騒がれてたよ」
「じゃなきゃそんな何度も性犯罪で不起訴になるなんてありえないからね」
「祖父って、何者なんですか…そんなにお金ポンポン出せるもんじゃないですよね…??」
「それがね、一代で総資産100億円規模の築いた経営者で、いわゆる「上級国民」ってやつだったんだよ。だから金も湯水のように使ってたって噂だよ」
「…そ、そんな漫画みたいなこと……っ!」
しかし、二人が冗談で言っているようにも思えなくて
(フィクションの話じゃない、有り得るんだ…)
Ω差別が当然の世界
そんなの痛いほど分かっているし
13才のときに岩渕率いるリプロダクションスレイヴに拉致されたことがある俺からすれば
それがノンフィクションであることはすぐに理解出来た。
話を聞く限り
上級国民の元に生まれ、親元を離れた今でも好き勝手に生きている男、ということだろう。
「司法システムがまるで機能してないじゃないですか…っ、親子共々腐ってるなんて……」
「あいつはそういう男、法を守らなくても権力と金さえあれば法に守られるんだよ」
「それに不死身の男は二人もいらないとかいう理由でじんが変な噂流されて悪者にされてることとかもしょっちゅうだったからね」
「だからこれをアイツが送ってるんだとしたら、また動き出してる可能性がある、ってワケ」
「………っ」
また、誘拐されるかもしれない
今度こそ、強姦されてしまうかもしれない
そんな畏怖感が俺を襲った。
それに気づいた仁さんが「楓くん怖がってんだろ」
と将輝さんに向かって言う。
ごめんね、と謝る将輝さんに悪気は無い
「…俺、あの花屋だけは何に替えても守りたいし、自分自身も守りたいんです…!だから、なにか、なんでもいいからアドバイスくれませんか……」
そう言って2人に向かって机スレスレに頭を下げた。
「楓ちゃん、顔上げて。そういうことならじんにボディガードでもしてもらえばいいんじゃない?」
「へ?」
将輝さんがそう口にするので、仁さんの方をチラッと見てから言った。
「いや、番でもないですし!仁さんにも迷惑ですよ……!」
さすがにこれ以上ご迷惑をかけるわけにはいかない。
俺がそう言うと、仁さんは俺の目を見てハッキリと言い切る
「いいよ、俺は。」
「え……?」
「楓くんのおかげで押し花っていう新しい趣味ができたことだし、花屋の店主が突然消えるってのは客からしたら困るってもんだし」
さりげなく、そんなことを言ってくれる仁さんは
今度は真剣な眼差しで俺を見つめながら言った。
「でももし万が一、またあいつらに連れ去られそうになったら、すぐに110番をかけて、そのままスマホをポケットに突っ込んどいて」
驚いた表情で仁さんを見つめた。
「え……何も話さなくても大丈夫なんですか?」
すると彼は頷き、言った。
「何も話さなくても、警察は通報があった時点で位置を特定しようとするから、助けが来る可能性が高くなるんだよ」
「えっ、初めて知りました……そんなことしてくれるんですね…!」
「ああ、だから、怖くても、声が出なくても、通報だけは忘れないで」
「わ、わかりました、ありがとうございま
す……っ」
◆◇◆◇
数十分後
「まあまたなんか送られてきたとしたらまた来て
よ」
「はっはい…!仁さんも、将輝さんも今日は本当にありがとうございました」
将輝さんの言葉に俺は慌ててお辞儀をした。
◆◇◆◇
帰り道
「楓くん、とりあえずは…良かったかな」
「はい…!一応、謎は解けましたし…今は一応警戒と店のセキュリティ高めるだけでいいかなって…」
「直接的なことを言ってたりするわけでもないですから、警察も何か起きてからじゃないと動いてくれなさそうですしね」
「そっか。楓くんに任せるけどさ、またなんか来たら言いなね、あいつにでも俺にでもいいし。俺にも、無関係な話ではなさそうだからさ」
「そう、ですか。わかりました」
将輝さんと別れてからそんな会話を交わし、仁さんと帰路に着いていた。
そのとき、仁さんがポツリと話しかけてきた。
「楓くんって、なんかこう…いつも明るいし元気だからさ」
「はい?」
「何か心配事とか悩みとかないのかなって思ってたんだけど、あんな過去があったとは思わなかった
なって」
仁さんはゆっくりと歩いて俺に視線を投げた。
「全然そんなことないんだなって…今日話聞いてて思った」
「へ?それはどういう……」
「ほら、楓くんの過去話のときとか……花屋の不審者ストーカーの時も…なんかそういう雰囲気感じなかったから…」
その言葉に思いたる節があった。
そういえばそうかもしれない。
「よく兄が言ってくれてたんです、辛いときほど笑っとけって。それで笑ってると少し楽になるからって」
「へえ…」
「だからいつも笑うようにしてるのかもしれないです……辛いときも、嬉しいときも。なんか恥ずかしい話ですけどね」
「なるほど…….でもさ、そればっかりじゃいつかは限界が来るでしょ、その笑顔にだって。ちょっとぐらい弱音吐いたり愚痴こぼしたりしてもいいと思うよ」
仁さんは笑顔でそう言ってきた。
俺はその言葉を聞き、ふっと心の中に何かが軽くなった気がした。
するとなぜか言葉が勝手に零れてきた。
「……俺、弱いところを見せたらダメって勝手に思ってたんです。人に相談も滅多にしないし…」
「…そっか」
「でも今日思ったんです。仁さんに話して良かった
なって」
「え……?」
仁さんはキョトンとした顔で俺を見た。
「なんか……話聞いてもらってるうちに、少し楽になったっていうか…その……」
俺は言葉に詰まりながらなんとか言葉を紡いだ。
「だから、ありがたくて…っ伝わりますかね?」
するとさんが俺の頭にポンっと手を置いてきた。
「十分楓くんは頑張ってるんじゃないかな。正直Ωって生きてるだけで偉いし、Ω差別なんてのもあるべきじゃないと思ってるからさ」
「……っ、そんなこと、初めて言われました」
「そう?まあ……いつでも話聞くから、また言いたくなったら言いな」
仁さんはそう言って俺の頭から手を離した。
俺はそんなさんを見て少し目頭が熱くなった。
そんなやりとりをしつつ、自宅のアパートまで帰ってきた。
「仁さん、いろいろありがとうございました」
「ううん、気にしないで」
そう言って仁さんは手を振って家に入っていった。
俺も家の鍵を開け、誰もいない部屋で1人座る。
「…….はあ…」
安堵か疲れか、ため息が漏れる。
「仁さんと、将輝さんはいいαだって思える…初めてだな、あんなに用できそうな人たち……」
俺は疲れた体をベッドに預けるとそのまま眠りについた。