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「嫌やぁーーー!!!やめてーーー!!!」
紗奈の叫び声が聞こえる。
橘と、常春《つねはる》は、顔を見合わせた。
「紗奈!!!」
「橘様は、誰か助けを呼んでくださいっ!私は、先に行きますっ!」
紗奈の尋常でない、叫びに、常春は、駆け出した。
しかし、それを橘が、追い抜いた。
「えーい!こしゃくなっ!!新《あらた》よ!!舐めた真似をしてくれおってっ!!!」
牙を剥く勢いの橘は、駿馬のように、廊下を駆けて行く。
「あ、あ、た、橘様?!」
バタバタと足音を響かせ、常春の事など、目もくれない。
そして、手には、あの、髭モジャが持って来た、刃物を握っていた。
「い、いつのまに……」
夜叉のような、荒ぶれた姿に、常春は、腰を抜かしそうになる。そのひるんだ隙に、橘の背中は、小さくなっていた。
「あ、あ、ま、待ってください!橘様!!」
常春は、慌てて後を追った。
そして、新は、紗奈に詰め寄ると、そらぞらしく、耳元に顔を寄せて、
「まあ、お互い楽しもうぜ、丁度退屈していたところだ」
と、低い声で囁いた。
その声色に、紗奈の背には汗が伝った。
「……そ、そんなの、誰か、くるんだから!」
精一杯の、抵抗を見せようとする紗奈に、新は、うるせぇーんだよっ!と、悪態をつき、平手を振りかざした。
思わず、ぎゅっと目を閉じつつも、紗奈は、思い出す。
そうだ!
同時に、紗奈の足が動いていた。
「なっ?!」
新の体が瞬間、揺らぐ。
「けっ、足払いのつもりかよ!そんな勢いで、どうこうなるかっ!!」
「えっ?!うそ……」
「やってくれるじゃねーか、紗奈よ、おめぇー、昔から、鼻っ柱だけは強かったからなぁ」
くくくっと、新は、含み笑うと、一気に、紗奈の、胸元の袷《あわせ》を、剥ぎ取るように開いた。
肩まで露になった、紗奈は、悲鳴すら、挙げられないでいる。
ただ、ポロポロと、涙を流しているだけだった。
と──。
「うわあーー!!」
新が、叫んだ。
その顔には、何かが張り付いていた。
「……ちっち?」
紗奈が懐に、仕舞っていたあの人形が、飛び出し、新の鼻先に噛みついている。
「うわっ、な、な、なんだ!!」
慌てふためきながら、新は、人形を払おうとする。
そして……。
「この、ふらちものめがっ!!」
鬼の形相をした橘が、飛び込んで来て、新の体に体当たりし、突き飛ばした。
顔には、何かが張り付き、鼻を噛まれ、続いて、突き飛ばされては、さすがの新も、床に転がって……その上……。
「この、おなごの敵がっ!!」
と、橘は、叫び、そのまま、新に馬乗りになった。
「な、な、なんだ、うわあーー!!」
新は、訳がわからず、鼻を噛まれている痛さからも、わぁーわぁー騒ぐばかりだった。
「静かにせぬかっ!!この、男めがっ!!」
橘は、橘で、興奮しきり、手に握る刃物を、ぐっと握り直すと、そのまま、大きく振り下ろした。
「た、た、橘様ーーーー!!!」
遅れてやって来た、常春は、繰り広げられている情景に、目を見張った。
「ひ、ひいいーーー!」
それは、紗奈も、同じなのか、はたまた、助けが現れ、気がぬけたのか、そのまま、へたりこんでしまう。
「さ、紗奈!!」
胸元が、はたけきった妹の、ありえない姿に、常春も、頭に血が登る。
「おのれ!!この、下衆めっ!!橘様、ブスリと、やってくだされっ!!!」
「あいわかった!!」
二人のやり取りを耳にして、新は、慌て、まて、まて、まってくれ!と、懇願し始める。
橘が、振り下ろした、刃物は、新の、頬スレスレの床に突き刺さった。
「今度は、本気に、なるぞっ!情けはなしじゃ!!」
突き刺さった、刃物を、抜き取ると、橘は、再度、大きく振りかぶった。